水に沈んだ悪夢の話
目をひらくと橋の上に立っていた。
辺りは一面、写真でしか見たことのないウユニ塩湖のようで際涯がみえない。空は黄昏時のいちばん彩やかな紫と太陽の色を混ぜたようで、雲ひとつない。水面がそれを移しとったように染まって、まるで夢のように美しいのに、私は憂鬱でたまらなかった。
隣の知人の話をききながらトボトボと歩いている。橋はどこにも支えがなく木の板で組まれて、揺れることは無かった。歩く。知人が昔の話を聞いてくる。まるで責めるように。嫌だなあ、聴きたくないと思いながら歩いた。やがて少し先で橋が途切れ、小さなヨットが水に浮かんでいた。水面は凪いでいる。知人が足をかけてもしっかりと受け止め、ピクリとも動かないように見えた。ふと前を見る。美しいが代わり映えのない景色だ。知人が私に呼びかけた。そして舟に乗り込もうと踏み出した瞬間、私は足を滑らせて水にダイブした。何故か手足が動かない。沈むわたしをおいて知人の舟は滑り出した。身動きが取れなかった。沈む。まるで海の中で水面を見上げるような光景だった。息ができない。体が動かせない。水がまるで重石のようにのしかかって身体が動かせなかった。息ができない。沈んでいく。そのまま藍色のなかに沈んで、水面が美しくて。
ハ、と目を見開く。
いつもと同じ天井。おなじ布団。なにも変わらない筈なのに、身体はいつもより沈みこんでいた。布団が身体にまとわりついていて、全身に悪い汗をかいていた。ふ、と息が吸えることを確認し、そぉっと吐き出す。良かった…、私は溺れてなんかいなかった。ただいつもより寝苦しくて、それで悪い夢を見ただけだったのだ。そのあとは何だか眠れなくなって、温い水を飲みながら夜があけるのを待っていた。
余談。このあとなぜだか気になって、夢占い、というものを検索した。夢は深層意識の表れだとかいうやつ。私が見た夢も、そう珍しくもないようで。分かりきっていた事だけど、ありきたりな内容。それでも気にしてしまう自分の繊細さに呆れてしまった。