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Riddle 〜魔法師たちのお仕事〜  作者: 小雨路
第6問『愛の真ん中にあって、必要不可欠なものは?』 後編
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おかえり

「イクルミ君」


 はっと目を開けると、そこは魔法省の上だった。一瞬どこだかわからなかったけど、と敏達ときの景色と一緒だとスクナの記憶が告げていた。これから下降するため声をかけたらしいチナミが苦笑していた。

 考え込むつもりが、うっかり寝てしまっていたらしい。促されるまましっかりアデルにしがみつくと同じに、ばさりと骨ばった翼を1度羽ばたかせて、ゆっくりと着陸した。

 アデルの手がそっとスクナとチナミを地面におろしてくれた。荷を下ろし、運んでくれたことに礼を言うと、ぎゃうと小さく鳴いてアデルは消えた。


 そのまま灰色の石畳の上でスーツケースを転がし、白いチョコレート型の重厚な扉まで行くとチナミはやすやすとその扉を開いた。あの扉が案外軽いことを知っているスクナは、知らないとチナミ班長が怪力に見えるなあなんて考えていた。

 そのまま中に入る。


「あら、おかえりなさい」

「ただいま」

「雨ノ国はいかがでした?」

「美しいところだったよ。なあ、君?」

「はい、『水に眠る街』とかゴンドラとかすごかったですよ!」

「いいですね、私も行ってみたいですよ」

「長期休暇の時にでも行くと良いさ。ところでこれ、預かってもらえるかね?」

「はい、お帰りの際にお声かけください」


 軽く会話をしながらスーツケースを受付で預かってもらい、受付の裏にまわる。大理石の階段を昇り、電気ついてなく窓も少ない、少し薄暗い廊下の突き当りまで来ると。

 チナミはフリルの合間にあるのであろうポケットから、渋い金色の鍵を取り出して赤いステンドグラスのはまった扉の鍵穴に差し込んだ。


「ここ、鍵ってついてたんですね」

「一応な。まあ重要なものは金庫の中だから意味はろくにないが、本があるし……ね」

「どうかしまし、た……」


 言いざまに扉の奥、チナミのデスクを見たからだ。ぎいっと重い音を鳴らして、誰かがそこに座っていた。

 その人物は唖然とする2人を見ると、にやあっと端整な顔を愉悦に歪めた。


「おかえり、スクナ」


 ぽかんと入り口のところで立ち止まる2人にディータは首を傾げる。どうしてかだなんて、わかっているくせに。

 一方チナミとスクナはそれどころではない。なぜ逃げるために出てきたのに、逃げた先に原因となる人物がいるのか。わなわなと恐怖にか震え始めた2人に、ディータがデスクから立ち上がり近づいてくる。

 とっさにスクナをかばうように一歩前に出たチナミを一瞥すると、スクナを見つめディータは先ほどの愉悦の笑みなどかき消して、ふわりと優しく微笑んで見せた。

 その美しい顔が浮かべる、ユティーからは想像もできないほど甘い笑みに小さく口を開けるスクナ。それに微笑みかけながら、ディータは口を開いた。


「『ご褒美』をもらいに来たぞ、スクナ」

「……『ご褒美』?」

「あっ……痛い痛い! 痛いよユティー!」

「今度はこいつに何を言った粗忽者そこつものが」

「いひゃい!」


 始めはミサンガに締めあげられ、次はユティー自身に頬をぐにぐにと横に引っぱられて。スクナは悲鳴を上げていたが、チナミ的にもこれは仕方ないと思う。本当に何を言ったのか、という感じだ。

 ご褒美として雨ノ国に持ち帰られたら文句は……まあ言えるだろうが。主にユティーが。チナミとしても何としてでも阻止しなければならない案件だ。


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