帰り道
そのまま陸路、白い石畳で出来たカラフルな家々の前を通り。静まり返った城に戻り残っていた騎士には急用が出来たから帰る旨を伝え前もってチナミが書いておいた書置きを置いてトランクを持ち出し、現在来た時と同じく空の旅である。
「でも、チナミ班長。何も言わずに出てきて本当によかったんですか?」
「心配ない。書置きはしてきた。それに」
「それに?」
「あのままあそこにいれば、まずいことになったかもしれん」
「ええ!?」
アデルの手のひらの上で、ぎょっとスクナが目をむく。もう1時間ほども飛んだところでのスクナの発言に、チナミは何を今さらと言わんばかりだ。
「まずいことってなんですか?」
「いや……あれやこれや考えられるが、まず間違いなく君は晴ノ国に帰れなくなっていただろう」
「えっ!? ま、まさか! ユティーだっていますし」
「珍しく気が合うじゃないか、小娘」
ずんっと一瞬アデルが沈み込む。
一体なんだと思う前に、スパイシーな甘い香りとユティーの声がした。名前を呼ばれて勝手に出てきたらしい。アデルの手のひらの上にユティーという見たことも考えたこともないシチュエーションはどこか新鮮で、思わずスクナは吹き出してしまった。
とんでもなく冷たい眼差しがユティーからとんでくる。
「スクナ」
「ごめん、ごめんってば」
「じゃれるのはそれくらいにした方がいい」
笑いすぎると落ちるぞ。ぷるぷる震えて笑いをかみ殺していたスクナがそのままの体勢で止まる。口を押さえたまま下を見て、あまりの高度にひっと引きつった声を出した。それを見てユティーは溜飲を下げたようである。ふんと鼻で笑われた。
「あ、帰れなくなるってどういうことですか?」
「そのままの意味だが」
「そのままの意味だろう」
「いや、意味は分かるんですけど過程がわからないっていうか」
ユティーから呆れた視線とチナミの何とも言えないといわんばかりの目線を受けて、だんだんしりすぼみになっていくスクナ。それに苦笑してから、チナミは言葉を紡いだ。
「君あそこまでの執着を示す大総統が、君を無事に晴ノ国に帰す……いや、手元から離すものかね」
「しゅ、執着って。ディータはただ懐かしかっただけで」
「それに彼は言っただろう。君に『勝利を捧げる』と。考えてみたまえ、彼は捧げて満足するような男か? 代わりに何かを要求するような気持ちはないといえるのか?」
「そ……れは」
まっすぐに見つめてくるチナミに、スクナはぐっと詰まる。
長年連れ添ったユティーの性格で考えてみる。絶対に何かを交換条件とするだろう。ならその大元であるディータだって、よっぽどもこの10年の間に性格が変わるような何かがなければ同じであろう。遊子と謎は切っても切れない関係にあるのだから。
そんなスクナを、ユティーは黙って見つめていた。時折馬鹿にしたような色をその金の瞳に浮かべながら。
「賢明な考えだな。私ならば、代償として雨ノ国に残ることを望むだろう」
「でも!」
「あれだけ多く人々の前での宣誓だ。さぞや効力があるだろうよ」
完全に言葉に詰まり、黙り込んでしまったスクナ。チナミはそんなスクナを気の毒そうに見ていた。なんせあんなのに目をつけられてしまったのだ。まだ幼い部下が気の毒でならない。ユティーはただ2人を見つめていた。




