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Riddle 〜魔法師たちのお仕事〜  作者: 小雨路
第6問『愛の真ん中にあって、必要不可欠なものは?』 後編
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 ぴちちちちと鳥の鳴く声がした。

 普段ユティーにたたき起こされる身としては、こういう自然な目覚めはどこか清々しくて気持ちいい。

 ふかふかと絹の手触りなベッドに身体を埋もれさせながら、スクナはその心地よさの中でうっすらと目を開いた。


「おはよう、スクナ」


 掛布団の上から若干力をかけられながら、耳に吐息ごと言葉を投げ入れられるまでは。確かに心地よさを感じていたのだ。

 鼻にどこか甘い、スパイシーな香りを感じながらもまた寝ぼけてユティーを呼び出してしまったのかとあわてて。布団の上から掛けられた力を飛ばす勢いで、身を跳ね起こしたスクナが見たものは。

 まるで愛おしい、愛らしいものを見るかのように口元を緩める白髪のユティー。

 まさか、んなわけない。スクナのたった1人のパートナーは、スクナがどれだけ偉大なことをしようとも、決してこんな顔をしないのだ。ということは。


「ディー……タ?」

「ああ、おはよう。俺の小さなスクナ」


 にこにこ。満面の笑みを浮かべてスクナを見るディータ。その格好は昨日と同じ、白いシャツに黒いスラックスとブーツだった。ユティーでは絶対に見られないその表情に、しばらくぼうっと見惚れてから。スクナははっとした。

 ここは客室だ。昨日ユティーに見守られ(監視され?)ながら出入り口の扉を閉めた。鍵まできちんとした。

 それがどうして、謎のように現れるわけでもないしっかりと実体を持っている遊子のディータがここにいるのか。

 笑みを崩さずスクナの一挙一動を見ているディータに、スクナはベッドから降りながらおそるおそる尋ねた。


「お、おはよう。というか……あの」

「なんだ?」

「どうしてっていうかどうやって? ここにいるのかなって」


 思って。言いかけたところで、こんこんと大きなチョコレート色の扉から音がした。知らずディータとスクナはその扉を見る。

 ディータが口を開こうとするより早く、スクナが声を出した。


「ど、どうぞ」

「失礼致します」


 頭を下げ扉を開けて入ってきたのは、燕尾服をぴっしりと着こなしたルルーだった。それを確認すると、つまらなそうにディータは視線を逸らす。がちゃりと後ろ手に扉を閉めたルルーにきょとんとスクナがしていれば、和やかにルルーが微笑みかけてくる。


「おはようございます、イクルミ殿」

「おはようございます!」

「部屋の使い心地などいかがでしたでしょうか?」


 ディータに深く一礼し、それにディータか手をあげると。アルカイックスマイルを浮かべながらルルーはスクナに部屋の使い心地について尋ねてきた。スクナの借りた客室は、ディータの部屋の前だった。

 つまり、昨日「ここも客室なのかな?」と呟いた反対側の部屋こそがディータの部屋だったわけで。これには昨日部屋に戻ろうとしたチナミとユティーと一緒に驚いたものだ。まあ驚いたといっても、ユティーは舌打ちチナミは難しそうな顔をしただけだったが。


「あの、すごくいいです。自分にはもったいないくらいで……」

「おや、勿体ないなどと。それは困りますな。この部屋は代々大総統の伴侶やお子、ご両親と言ったご家族が使われる部屋でして」


 ようやっと使ってくださる方が現れたと、使用人一同気合を入れて用意させていただきましたのに。そう言ったルルーの言葉に、スクナは目を見開くと小さく叫んだ。


「自分がディータの両親!?」

「それはないだろう」

「どういう思考回路でございましょうか」


 さすがに頬をひきつらせたディータとルルーが口を挟む。子どもや家族ならばいざ知らず、少なくともスクナがユティーの親に見えることは万に一つもないだろう。10代と30代である。いいとこ年の離れた弟だ。

 照れ笑ったスクナには悪いが、どう頑張ってもあり得ない。


「そういえば、ルルーさん。自分に何かご用時ありましたか?」


 わざわざ来てくださったみたいで。申し訳なさそうに眉を下げつつスクナが言えば、スクナの発言に気をとられていたルルーが、こほんと口に手を当てて咳払いをする。気をとりなおしたかったらしい。


「そうでした、大総統。お時間です」

「ちっ……」

「舌打ちしてもいけません。各国の来賓の方々とのご朝食です。抜けられませんし、お着替えの時間も取ってありますので時間が押しています」

「スクナも連れていく」

「イクルミ殿、テルヌマ殿は事前に部屋で朝食をとると連絡が入っていますので」

「……ちっ」


 2たびに渡る舌打ちに、小さくため息をつきながらルルーは目を眇めた。ディータは完全にそっぽを向いてしまっている。その子どものようなやり取りに、あははと苦く笑ったスクナが、ディータに向けて言葉を発する。


「ディータ」

「うん? どうしたスクナ、俺がいなくなると寂しいか?」

「そうじゃなくて……いってらっしゃい」

「は?」

「それもお仕事なんでしょう?行きたくない……とかは僕にはよくわからないけど、でも大切なことだよ。いってらっしゃい」

「スクナ……」

「ちゃんと出来たら……その、全然うれしくないかもだけど。ご褒美、用意するし」

「イクルミ殿もこう言ってくださっていますし、行きましょう。大総統」


 ルルーが自分よりわずかに背の高いディータを見上げながら言う。ご褒美の辺りからスクナをガン見していたディータには全く関係なかったが。

 ね? とスクナが首を横にかしげれば、それにつられたようにディータの首がこくんと頷きの体勢をとる。

 それを了承ととったルルーが、ディータを強制回収して、朝の一幕は終了した。


「あ、なんでここにいたのか聞き忘れちゃった」


 それを聞いたいつの間にか顕現していたユティーによって締め上げられた(物理)のは余談だ。


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