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Riddle 〜魔法師たちのお仕事〜  作者: 小雨路
第6問『愛の真ん中にあって、必要不可欠なものは?』 前編
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明日

「ユ、ユティーが、ユースティリア?」

「思い出したか」

「え? ってことはユティーの大元、遊子のユティー!?」

「……間違ってはいないが不快だな」

「え……あの、じゃあなんて呼べば」

「親しいものは俺をディゼルデータと呼ぶ。そう呼べ」

「ディ……タ? え? ……ディータでいいですか?」

「愛称で呼んでくれるのか、構わんぞ。敬語もいらん」


 気分がよさそうに、スクナよりも、ユティーよりも大きな手がスクナの頭を撫でる。それをびくびくと甘受しながら、スクナははっと頭をあげた。

 意図せず振り払われる形となった左手に、不機嫌そうに顔をしかめながら、ディータは聞いてきた。


「どうした、スクナ」

「ユティー、ユティーがくれたミサンガは!?」

「ちっ……これか」

「ユティー!」


 無造作にディータがスラックスのポケットから取り出したのはユティーの媒介であるミサンガだった。それを、これまた無造作に放り投げられ、あわてて両手でキャッチする。

 それをシェードランプにかざして、どこにも欠損がないかを確認してからほっとスクナは息をついた。それを右手首にはめる。


「よかった、ユティー」

「何をやっている、馬鹿者が」

「ユティー痛い!」


 スクナの右手首にはめたばかりのミサンガが白く光ると、ぎしいっとベッドが軋む音ともにベッド上にユティーが現れた。

 ユティーの左腕で首を抱き寄せるように締め上げられ、スクナは悲鳴を上げた。ばしばしと首を絞めつけている腕を叩くものの、外してくれるよう気配は微塵もない。だんだん顔色が悪くなってきたところで、ディータから制止が入った。


「おい、死ぬぞ」

「ふん」

「けほっ……ユティーのバカ!」

「お前が軽率だからだろう。なぜあれにミサンガをとられている」

「知らないよ、気絶してたんだから!」

「気絶? どんなドジを踏んだんだ?」

「見てないの!? 角曲がったらいきなり口にハンカチを当てられて」


 そこまで話したとき、ユティーの金色の瞳がぎらりと光ったのがランプシェードのみの光量の中でもわかった。

 あ、やばい。と思ったのと同時に、ユティーはディータにそのまま光る目を向けた。


「……薬を使ったのか」

「副作用のないものだ、安心しろ」

「貴様を信用などできるものか」

「ふん、本来の名すら名乗れない臆病者が」

「恥知らずにも捨てた名を拾った者が何を」


 ぎりぎり、金色同士のにらみ合いが始まる。

 互いに一歩も引かない睨みあいに、どうしようかとスクナが頭を抱えていた時だった。


 どんどんどんどん!!


 扉が激しい音でノック……いや、叩かれる。その向こうから聞こえてきたのは。


「君! イクルミ君! いるかね! いたら返事を」

「テルヌマ殿困ります! 大総統はお休みで!」

「チナミ班長!」

「イクルミ君!? やはりここか、鍵を開けたまえ!」


 どんどんどんとなおも激しく続く殴打にも似た音に、1回ため息をついたディータがベッドから降り、扉まで歩いていくと鍵を開けた。睨みあいを中断されたユティーは、不機嫌そうに舌打ちを1つ。

 瞬間、なだれこむように入ってきたのはやはりチナミだった。

 ベッドの上にいるスクナを見た途端、ほっと肩をなでおろし安堵の表情を浮かべた。


「イクルミ君、無事かね?」

「だ、大丈夫です。チナミ班長」

「薬をかがされたらしいがな」

「薬!?」

「ユティー!」


 なんとか穏便に済まそうとしたスクナだったが、ユティーがそうは許さなかった。非難めいた声をあげればぎろりと睨まれる。ユティーも相当怒っているらしいとスクナは悟った。

 薬をかがされたという言葉に、チナミは近くにいたディータをぎっと睨みつける。


「薬とはどういうことかね」

「そのままの意味だ。副作用はない、安心しろ」

「出来るものか。これは魔法省に対する敵対行為とみなしても?」

「チナミ班長、違います。これは」

「久方ぶりにスクナに会って、ついやってしまった。これは俺とスクナの問題だ。申し訳ない」

「申し訳ないですむと!」

「チナミ班長、大丈夫です! 何もありませんでした、平気です!」

「君……」


 必死にかばっているスクナに、戸惑うようにチナミの顔が困惑に変わる。それに乗るように、ディータが言葉を重ねる。


「スクナの言う通りだ。もう夜も遅い、早く客室の帰るといい」

「何をいけしゃあしゃあと!」

「スクナはこの部屋にいても構わんが」

「帰るに決まっているだろう」

「戻ります!」


 あっさりと客室に帰るといったスクナに、残念気にディータは肩をすくめた。どこまでが本当かわかったものじゃないとユティーとチナミはディータを睨んだが、スクナだけは困って首を傾げた。スクナには、ディータが嘘をついているようには見えなかったから。


「えっと、また明日ね」

「スクナ!」

「イクルミ君!?」

「ああ、また明日。スクナ」


 ふわりと甘くディータが微笑む。ユティーでは決してありえない「笑み」に、チナミは大きく目を見開きユティーは嫌そうに顔をしかめた。

 ユティーが左手でスクナの右手首を掴み、ずるずると引きずって部屋から出る時。ぽつりと呟いたディータの言葉を、スクナは特別よくもない聴覚を駆使して拾った。


「明日の武闘大会が楽しみだ」


 ぱたんと閉じられた扉の向こう側を思いながら、スクナは明日どうなっちゃうんだろうと心の中でこぼした。


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