苦手
「スクナ」
「蛇……蛇だった。僕、蛇はちょっと……。でも仕事」
「仕事だ、やれ」
「でも蛇!」
自分でも一生懸命に仕事だと言い聞かせているようだが、それでも蛇に対する生理的嫌悪感は拭えないらしい。蛇、蛇と呟いているスクナに、ユティーは本格的にため息をついた。
それにびくりと身を震わせると、呆れたのかとしゃがみ込んでいたスクナは涙目でユティーを見上げる。
ぐっと何かに耐えるようにユティーは一瞬身を固くすると、面白くもなさそうに呟いた。忘れているのだ、スクナは。ユティーが何のためにここにいるのか。
「スクナ」
「ユティー蛇が」
「ねだり方は」
「あ……」
ユティーがスクナに合わせてかがみ込み、人差し指と親指でくいっとスクナの顎をすくい上げる。顔を耳元に近づけ、そのまま囁くユティー。するりと衣がこすれる音がして、
スパイシーでどこか甘い香りがスクナの鼻に強くなる。
小さい頃、ユティーがそうしてくれるだけで無敵になったような気がしていた。
他の音は一切聞こえず、世界は2人きりに閉ざされたような心地に、スクナはユティーを見たまま言った。
「ユティー、『お願い』。助けて」
「それでいい」
満足そうに表情を変えず頷くと、ユティーはスクナから離れる。遠くなる匂いになんだか寂しくなりながらも左手を差し出され、それに自分の手を重ねると引っぱり立たされて背後にかばわれる。
自分よりもよほど広い背中は、やっぱりスクナが幼いころのままたくましかった。スクナの、ヒーローだった。
「私のスクナを泣かせた罪だ。ありがたく受け取れ、長虫が」
小さく呟いて、愉悦の滲んだ金色の瞳に怒りという名の狂気が紛れ込む。
そうして、その片腕で、横開きの扉を開けた。
そこにはさっきと変わらない様子でじっとスクナ達を見つめる金色の目、しゅるしゅると動いている太い胴体。頭を低くして見つめる様子に、スクナは声にならない悲鳴を上げた。
ユティーは平然と、むしろ嘲笑うかのようにはっと息を吐き捨て、愉悦と怒りの滲んだ瞳を歪めた。口端がにぃっとつりあがる。
「頭が高い、わかってるじゃないか」
「ユ、ユティー!」
「スクナ、仕事だ。手伝いはするが、お前にはお前しか出来ないことをやれ」
「僕にしか、できないこと」
遊子の、謎を解く。小さな言葉でけれど確かに呟かれた言葉に、褒めるようにユティーはスクナの頭を撫でた。
それが嬉しくて、期待に応えたくて。スクナは遊子の金色の瞳に目を合わせた。




