締め方
「なんだこれは」
「ネクタイだろう?」
「ユティー、柄は気にしなくていいから。締めかただけ教えて」
「しかしスクナ」
「いいから」
「……わかった」
目元を押さえて、あきらめたように首を振るスクナに、しぶしぶとユティーが従う。チナミだけは何が気に入らないのかさっぱり理解できなさそうな顔をしていたが。
チナミ班長の美的センスってどうなってるんだろうと思いつつ。スクナは気持ちを切り替えてネクタイをユティーへと渡す。嫌そうな顔でしぶしぶ受け取られたかと思うと、それはすぐにスクナの首へとかけられた。
ざらっとした感覚に手を開いてみると、窓から差し込む太陽光にラメがスクナの手の中で光っていた。移ってしまったらしい。
それをさっとズボンで拭くと、ユティーから厳しい目が飛んでくる。
「スクナ」
「ごめんつい。もうしないよ」
「……次はない」
「はーい」
軽い返事をすると呆れたような目に変わる。目線に感情が乗っている間はまだ、本格的に怒ってないことをスクナは知っている。
ぎしりと音をさせて、まだ新しい香りのする椅子から立ち上がると、スクナはユティーに歩み寄った。
その間に、ユティーは歯で手袋の人差し指先端をかむと、するりと静かに音を立てて手袋を抜き取る。それを左手に落とすとそのままスクナのデスクへと放る。
チナミは自らのデスクに戻り、どこか楽しそうにその様子を見守っていた。
「スクナ、押さえていろ」
「うん」
そのままスクナの前に立ち、首にかけたネクタイの長さを調節するユティー。小剣と呼ばれる部分を押さえるように言う。こっくりと頷き、スクナは言われたとおりに押さえていた。
「ここをクロスする。大きい方が大剣、小さい方を小剣という」
「そのまんまだね」
「ふん。そうしたら上に重ねた大剣を後ろへと1周回し、後ろから前に持っていき、輪になったところに大剣を通す。それだけだ」
するすると手慣れた手つきで締められていくネクタイ。ユティーの軍服は詰襟なのにどこで覚えたのだろうかとスクナは一瞬思った。が、ユティーの事だ。どこかで見て覚えたのだろうとあっさりと納得した。
片手で器用に、それこそ魔法用に鮮やかに形を整えられていくそれに、ほうっとチナミは目を細めた。スクナに至ってはきらきらとした憧れのまなざしでユティーの筋張った男らしい手を見ている。
「すごいね、ユティー。……えっと、もう1回やってくれると嬉しいんだけど」
「1回で覚えろと言ったはずだが?」
「うぐ……早すぎてちょっとよくわかんなかった」
ぐっと言葉に詰まってしどろもどろに言うスクナ。そんなスクナを、ユティーは冷たい目で見つめた。うぅとさらに小さくなるスクナに満足したようにユティーは口端をわずかにつりあげた。




