絆
「じ、自分も、です、か?」
「ああ。チナミ班で、だからね」
「自分、礼儀とかはあんまり!」
「大丈夫だ。大総統がいるとはいえ、武闘大会に出場するような猛者ばかりさ。礼儀やなんかは最低限あればいいし、君はそれをクリアしているからね」
「う……りょ、旅行費とか」
「一応仕事扱いだからね、費用は経費で落ちる。安心したまえ」
「用意、とか」
「必要なもののリストはここにまとめて置いた。なに、月曜日の朝に出立してたった3日間さ。そこまで気を張ることもないだろうに」
「3日間も、ですよ!? あ、リストありがとうございます」
混乱していてもきちんと礼は口から出てくるらしいあたりが律儀というかきちんと教育されていると言うべきか。
頭痛を押さえるように頭を抱えていたかと思うと、あっさりとチナミのもとへと歩いてくる。
切り替えが早いのは若さゆえだなとチナミはしたり顔で頷きを1つ。さらりと音を立てて金糸の髪が流れた。
デスクの引き出し部分からぺろりとリストを引き抜くと、それをスクナに手渡す。
「あ、結構持っていくもの少ないんですね」
「一応来賓だからね。大抵のものはあちらに揃ってるさ」
「服と媒介と……本も持って行っていいんですか?」
「重くなるがね。一応一般業務もしているという言い訳が立つ」
「言い訳……」
「難癖つけてくる輩がいるんだよ。どこにもね」
まあ、出張とはいえ仕事なわけだ。
チナミが朗らかに笑って見せる。ざっとリストを見たかぎり、必要なものはすべて家にあるもので賄えそうで、スクナはほっと息をついた。
安心した顔のスクナに、いったいどんな準備をするつもりだったのかと一抹の不安がよぎったが、栓のないことなのでチナミは考えるのをやめた。
「本って何でもいいんですか?」
「一応班室にあるものにしてくれ。これにはすべてうちの班の蔵書印が押されているから」
「背表紙の中……えっと、見返しのところの紫陽花ですか?」
「そう、私の好きな花なんだよ」
横に建った本の塔から一冊取り出して、その見返しに押された紫陽花の刻印を見せる。細い指が、するりとそれを愛おしそうに撫でて。どこか見てはいけないものを見てしまったかのように、スクナはあわてて目線をそらした。
「花言葉でね、気に入った」
「花言葉、ですか?」
「ああ。『移り気』だなんだって言われているがね、私は紫陽花にふさわしいそれは『絆』だと思っている」
「絆……」
「そう。君と私、チナミ班という絆を作っていけたらと考えてね」
「素敵ですね!」
照れたように頬を染め、チナミは笑った。少女らしい外見に似合う、可愛らしい笑みだった。
それに目を輝かせて、スクナはデスクから身を乗り出し食い気味に言った。何度も頷きながらはしゃいだように「すごいです」「素敵ですね」と子どものように繰り返す。
手放しに褒められて、赤かった頬をさらに赤く染めてチナミは照れた。
どこか初々しい空気が流れて暫時。こほんと赤い頬のまま、チナミが咳払いをして空気を切り替える。




