カツアゲ
「そうかね?」
「はい! ……ユティーは蹴りだけで8人沈めてましたけど」
「……何があったんだ?」
「えっと、自分が中学の時カツアゲにあって。思わずユティーの名前呼んだんです。そしたら、自分の胸倉をつかんでたのが気に入らなかったみたいで」
「蹴り、か」
「ヤクザキックでした。骨折したらしいです、相手」
「それはまた……」
なんとも言葉が出てこない。人口30人の村……いや、ほぼ集落と言ってもいい場所に住んでいたと言ってたのに、なぜカツアゲにあったのかもわからない。
いや、たぶん相手が調子に乗っていたんだろう。その勢いでカツアゲした結果、藪から蛇ならぬスクナからユティーが出てきてしまった。
相当甚振ったんだろうなと、スクナを傷つけられ(かけ)てキレているユティーの様子が目に浮かぶようだった。チナミは思わず口端を引きつらせる。
「大丈夫だったかい?」
「あ、自分とユティーは無事だったんですけど、相手が入院しちゃって……」
「入院……」
「だから謝ろうと思って菓子折り持って病院行ったんですけど、なぜか面会謝絶でした。ずっと」
「ああ……」
「自分、後ろ向いてろって言われてユティーが何してたか見てないんですよね」
「それは……よかったね」
カツアゲされた方が謝罪に行くとはこれいかに。だが、やはり相当キレていたらしいことと嬲ったのであろうことはわかった。不思議そうに首を傾げるスクナに、つい本音がぽろっとこぼれた。
というか、ずっと面会謝絶だったのは治療云々のためではなく、ただたんに会いたくなかったんだろうとチナミは察した。が、純粋に?を頭に浮かべているスクナに、それ以上何も言えなかった。
結果、流すことにした。
「して、その本なのだがね」
「あ、はい」
「私の『班』で招待が来ているんだ。つまり、君も一緒に行くことになる」
「え」
「だから、雨ノ国について最低限知っていてもらわねばならん」
鷹揚に頷きながら、かちんと固まってしまったスクナにチナミは困ったように笑いかけた。
しばらくそうしていて、ぎぎぎと油の切れた機械人形のようにスクナがチナミを見る。その眼は見開かれていて、どこか子犬のような愛嬌があった。




