都会
「それにみんな、おしゃれですね!」
「そうかい?」
通りを足早に歩く人々は皆白いシャツやブラウスが眩しく、スカートやスラックスを基調として、赤いカーディガンや紫色のストールを巻いていたりと、スクナにとっておしゃれに感じられた。
さすが都会、とため息を吐くスクナは自分ももうヒイラギ、その都会の住人であるということをわかっているのだろうか。
苦笑が止まないチナミの事は目に入っていない様子できょろきょろと辺りを見まわしている様はやはりおのぼりさん丸出しだった。
「さて、弁当屋に行こうか。早くいかねば売り切れてしまう」
「ああ、すみません。つい珍しくて」
「いいさ。さ、行こうか」
押しに押される激しい人ごみの中、まるで関係なさそうにすたすたと歩くチナミの後をスクナは懸命に追った。どうやったらあんなに早く歩けるのか、やっぱり都会の人はすごいとスクナは心の中でチナミに称賛を送った。チナミの金糸めいた髪がさらさらと風に揺れ、太陽に輝き綺麗だった。
チナミを見失わないように小走り気味に走っているだけで精一杯だったスクナは、いつの間にか立ち止まっていたチナミに危うくぶつかりそうになった。
「うわ」
「おっと、君、大丈夫かね?」
「すいません、大丈夫です」
「ここだよ、弁当屋」
そう言ってチナミが見上げたテントから下がる木片でできた看板、そこには確かに『弁当屋』と黒く彫り込まれていた。
青いのれんがぶら下がったそこをチナミはこなれたようにくぐってテントの中に入っていった。置いていかれそうになったスクナもあわててそれに続く。
のれんをくぐると途端にテントの外にも漏れ出していた惣菜の匂いが強くなった。




