千路の都
「そういえば、遊子ってヒイラギにしか出ませんよね」
「他の路を塞いで、すべてここに繋げているからな」
「え?」
「おや、まだそこまではたどり着いてないのかな。故にヒイラギは千路の都とも呼ばれているんだ。異世界へと通じる路が千とあるから、だそうだ」
「千、ですか」
「まあ実際は他のところにあったものを無理やりつなげているわけだから、いいことばかりとは言わないが。ここら辺に関しては教科書に書いてあるから後で読みなさい」
「はい!」
元気よく返事をするスクナ。内心誰でも知っていることのはずだがなぜ知らないのかと首を傾げたチナミだったが、次第に納得に変わる。
こういうものは普通家庭で教わるものだ。学校でも少し……さわりの部分だけなら習うだろうが、あの遊子が。元異世界の住人がこっちの世界に詳しいとも思えない。
教わらなかったのだろう、その孤独な身の上故に。
「だから、魔法師たちの中心地とも呼ばれる。遊子がいないところに、魔法師がいても仕方ないからな」
「なるほど」
ぴっと人差し指を立てて説明するチナミに頷くスクナ。作業をする手はすっかり止まってしまっていた。
それに気づいてあわててチナミが揃えてくれた本を戻しに、スクナは階段へと向かっていった。




