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後片付け

 晴ノ国の首都ヒイラギ。千路の都(せんじのと)とも呼ばれる魔法師たちの中心地。

 図書館は大統領の住まう城の下、四方を壁で囲まれた堅固な結界の中にある。


 遠くで鳴った始業の鐘を、額にうっすらと汗をにじませながらスクナは聞いていた。


 んしょ、と小さく声をかけて床に重ねて置かれている本を持ち上げる。そのまま目線を上に持ち上げると、数百もの本が無造作に長テーブルの上に、椅子の上に、床に散らばっているという惨状が目に入る。

 蔵書数約三億冊を誇る、世界最大の図書館。

 見上げきれない高さの本棚に四方を囲まれたそこに、昨日と比べて一般的な図書館の様子を見て、ほっと息を吐く。

 昨日、この図書館は遊子に占拠されていた。

 本棚は天窓のある天井を覆い、数百にも思える本たちは宙を光とともに舞っていたのだ。スクナが謎を解き、それを行っていた遊子の力がなくなったため、本棚とともに本たちは地へと落ち、その仕事を請け負っていたチナミ班が後処理として本の整理に追われているのであった。


「チナミ班長、本戻してきますね」

「ああ、よろしく頼む」


 チナミは無造作に落ちている本を拾いながら、スクナに頷く。床につかんばかりに長い髪は、かがんでも床につかないようにとアップにされていた。

 年齢や性別的なことから、著作順に拾い集め本の塔を作るのはチナミ、チナミがまとめたものを本棚に戻すのはスクナと役割分担になっていた。図書館内のため脱いでいるローブは早々に片付けた長テーブルの上に置かれている。チナミの甘ロリータな服のスカートから伸びるレースフリルがかがむたびにふりふりと揺れていた。

 うんしょともう一度気合を入れて本を抱え持ち直すスクナ。数冊の辞書が入ったそれは重かったが、特に運べないほどではないため、さくさくと本棚に戻していく。

 だが一瞬、力を込めた瞬間に顔をしかめたスクナに目ざとく気付いたチナミがその背に声をかける。


「君、たんこぶはもう平気かい?」

「あ、大丈夫です。ちょっと痛みますけど」

「やっぱり君、休んだ方がいいんじゃないのかね? 私一人でもがんばるぞ」

「チナミ班長が頑張ってるのに1人だけ休んでいられませんよ!」


 そんなことはできないとばかりにチナミを振り向いて首を振るスクナ。

 最後の1冊を仕舞い終えて、チナミの下へと戻ってくる。白い石の床にきゅきゅっとスニーカーが鳴く。

 チナミの横にかがむと、チナミが新たに積み上げた本たちに手をかける。


「この仕事、なかなかハードですよね」

「そうだな、精神的にな」

「触れてるのに読めない。辛いですよね」

「後片付けが最優先だからな」


 はあ。2人そろってため息が出る。そう、別になにも本の整理で疲れているわけではない。むしろ本が目の前にあるだけでテンションは上がる一方なのだが。目の間に本があると言うのにそれを読めない苦痛に精神的疲労がたまっているだけだ。


 何しろ開始してからまだ30分もたっていないのだから。


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