特別業務
席を立ってあれこれと本棚から本を出しては戻して繰り返し見繕っているスクナに、さながら我が子が絵本を選んでいるような慈愛じみたまなざしを送っていたチナミ。
そのチナミから。正しくはフリルあふれるその衣装から、突如として爆発音が聞こえてきた。
どおおおおぉぉぉぉん! どおおおおおぉぉぉぉん!
「おや?」
「ひえ!? また!」
またもや脱兎の勢いで本をしっかりと抱きしめながらも、本棚の隅へとスクナは逃げた。
そんなスクナを苦笑いで受け止めながら、いまだに爆発音を響かせるスマホをチナミは取り出した。
「はい、こちらチナミ・テルヌマだが」
「こちら中央管理室です。憩いの森公園で遊子が暴れているとの情報があり、至急チナミ班の出動を要請します」
「あい、わかった」
「それでは現場に向かってください」
「ああ」
ぶつりと通話が切れた音すると、チナミはいまだ本棚の隅で縮こまり様子をうかがってくるスクナに手招きをしながら、その美しい顔に笑顔を浮かべ声をかけた。
「ここからが特別業務だ。準備したまえ」
赤いステンドグラスのはまった扉、入り口であるそこの近くに置かれた外套掛けから上段にかけられたローブをチナミは羽織る。
本を自分のデスクの上に置き、自分の下へとかけて来たスクナの肩をぽんぽんと叩いた。
「頑張ろうか」
「はい、班長!」
肩から膝までを覆う黒地に銀で緻密な刺繍のされたローブを羽織りながら、スクナはチナミに笑い返した。その胸元には、きらりと金の柊の葉が2枚交差したピンブローチが光り、そこから垂れる1本の鎖がしゃらりと鳴いた。




