お仕事完了
唖然とそれを見ていたスクナに、ブーツの音をこつこつと響かせながら、不機嫌に顔をしかめたユティーが近づく。
だんだんと近づく足音。どこかスパイシーな甘い香りに、スクナはびくりと肩を跳ねさせた。
「精鋭軍、退け。……スクナ」
ユティーの一言一瞬のうちに蜃気楼のように解けて消え失せる騎士たち。いつの間にか消えていたクレイヴに、この場にいる謎はユティー1体となった。
低い声に肩を大きく震わせておそるおそる振り向いたスクナの両耳。その耳たぶがきらりと赤く光る。さらにユティーの眉間のしわは深くなっていく。
あぁ、やっぱり。とスクナは空を仰いだ。あの妖精のピアスを見た時、耳に違和感があった時からこんな気はしてた。自分以外の謎の所持を許さないと以前に言っていたユティーが、見逃すはずもないと。
「ちっ……浮気者め」
「ちょ、浮気じゃないって! 気づいたら付いてたんだよ!?」
「お前の意思は関係ない」
「それ浮気じゃないじゃんか!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ1人と煽る1体に、チナミは隊長と顔を見合わせた。隊長の瞳にはユティーに対する若干の畏れが見られたが、チナミは特に気にしなかった。強大な力を操る魔法師とは、ままこんな目で見られることもあるのである。
先ほどまでの息苦しいほどの圧迫感、支配された感覚など微塵もなく。
柔らかい太陽の温度が、ざわざわと風が、小鳥の鳴き声が戻ってきた中で、とんでもない謎がいたもんだとチナミはため息をつく。
「浮気っていうのは浮ついた気持ちって書くんだよ!? 浮ついてないし! そもそもユティーと僕の間に浮気も何もないよ!」
「何を言っている。相手の目と合わさればもう立派な浮気だ」
「なにその超理論すごいこわい」
木々のざわめきの中でさえ通る1人と1体の声に。「初仕事にしたら上出来だった」と労うため、チナミはかけていった。




