恐竜くんと部活
放課後の学校って、どこか別の場所のように感じる時がある。
「おい、恐竜!筋肉!まて!今日こそは生徒指導室でみっちり説教してやる!」
生徒指導の"鬼塚"先生が、まさに鬼のような形相で追いかけてくる。この筋肉に追いつける訳ないのに、毎日よくやるぜ。武に担がれた俺は余裕の笑みを浮かべる。
武は『動けない筋肉は脂肪と同じだ』と言って毎日欠かさずランニングをしているらしい。筋肉への熱いこだわりが、まさかこんな形で開花するとは。
「恐竜。このままでは部活に遅刻してしまうな。」
結構な距離を走っているのに全く息切れしていない。おそらくこいつは所属する部活を間違えている。何を隠そう武と俺は同じ部活なのだ。
「そうだな、部長よりも後に部室に入るわけには行かない。」
俺たちの部活"将棋部"には暗黙の了解がある。『部長より先に部室にはいること』だ。
「よし、武。そこの窓から飛び降りるんだ!」
「何!?ここは3階だぞ!さすがの俺の筋肉もこの高さからの落下は想定していないっ!」
「お前なら行ける!自分を、いや筋肉を信じるんだ!」
たとえ、武が犠牲になっても部活に遅れるわけには行かない。
「恐竜…そんなにお前が俺の筋肉を信じてくれていたとは…。そうだよな!俺がぁ!筋肉を信じなくてっ!誰が筋肉を信じてやると言うんだっ!」
武は勢いよく窓から飛び降りる。
ドゴーーーーン!
「ふう、何とかなった。」
落下の衝撃で目を回している武を後目に、俺は部活へと向かう。
(許せっ!武…!)
俺は何としても部長の'アレ'に付き合わされる訳には行かないんだ!
【将棋部部室にて】
「よう!相変わらず早いな、勉強。」
先に部室で待っていた勉強に、軽い挨拶をして俺も部室へ入る。
「あれ?筋肉くんは一緒じゃないの?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。
「筋肉を信じての事だ、あいつも本望だろう。」
俺は心を涙で濡らしながら、鞄から恐竜図鑑を取りだした。
「?」
どういうこと?と言いたげな顔をしているが、これ以上聞いても無駄だろうと判断したのだろう。特にそれ以上は聞いてこなかった。
ガラッ
部室の扉が開く。そこにいたのは、少し短めの銀色の髪をなびかせた碧眼の綺麗な美女。
部長の"暗闇 麗子"先輩である。
「あれぇ?筋肉くんが居ないね。」
あ、アレが始まってしまう…。
「よし!ホラーハウスで驚かせよう!」
先輩より後に部活に来ると始まってしまう『ホラーハウス』。簡単に言えばお化け屋敷もどきのようなもので驚かせる迷惑行為である。
しかし、なぜここまで俺たちがホラーハウスを恐れているのか。それはひとえに先輩には人を脅かす才能が皆無であるからだ…。
え?怖くないなら尚更大丈夫じゃないかって?
違うんだ。恐ろしいのはホラーハウス自体ではない。先輩は自分の仕掛けで怖がる素振りがないとガチ泣きしてしまう、とても面倒くさい性格なんだ。
全く怖くもない仕掛けに、全力で怖がらないといけない…。無駄に疲れる苦行としか言えないだろ?
しかし、筋肉は演技が苦手だ。嘘が付けない真っ直ぐな性格であるがゆえ。
…先輩を慰める準備でもしておくか…




