トカゲだって泣くときゃ泣く
人間にとって衣食住は大事。衣食住の「食」は攻略できた。
「衣」に関しては私トカゲだし、衣類いらない系女子へと昇格してるからなにも考えなくていいと考えるととても気が楽になる。
ところで新しい私は女なのか…?
まぁ、それは置いておこう。こういうのは気にしたら負け。
さてさて次の問題は「住」だ。
安心安全に住めるところを見つけないと、夜もおちおち眠れない。
なんで自称神様はこんな危険だらけの森の中に私を産み落としてくれたんだろうか。
もっとマシな場所あったんじゃなかろうか?
自称神様への愚痴は尽きないが今私は、自分の住居となる場所を探している真っ最中だ。
色々なところを歩いているうちに、歩く速度は結構早くなったと思う。
森の中を歩き回るのも慣れたものだ。
木の根っこや、石が積みあがってできた空洞、様々な所を内見してみたがしっくりこない。
歩いているうちに洞窟なんかも見つけたが、奥からモンスターらしき叫び声なんかも聞こえたのでそっと逃げた。そもそも私サイズの大きさじゃないしきっと落ち着かないだろう、色々な意味で。
今日中には私の拠点は見つけられないかもしれない。これは長丁場になりそうだ。
せめて今晩安全に寝れる場所は見つけておきたい。
そろそろ陽も落ちそうだし、早く見つけなければ。
この小さな体のお陰で上手い事敵になりうる生物から姿を隠して移動できていたが夜になり、昼とは違うモンスターが出てきたらどうなるかわからない。
この森にそう言ったモンスターがいるかどうかわからないが油断しない方がいいだろう。
しばらく歩くも良い拠点は見つからず、途方に暮れていた。
そうこうしているうちに完全に太陽は落ち、真っ暗になってしまった。
相変わらず星空は綺麗で思わず空を見上げてしまう。
本当はもっとゆっくり眺めていたい。でも今は今日の寝床を探さなければいけない。
ただここで慌てて、別の生物に遭遇するのはリスキーすぎる。
細心の注意を払いながら、落ち葉や木の影を利用して進んだ。もちろん舌を出して臭いを嗅ぐのを忘れずに。
光はほぼなく、何も見えない森の中で頼りになるのはこの嗅覚だけだ。
流石に数日この姿で生活すると臭いを嗅ぎ分けるなんてことも容易く出来る様になった。
美味しそうな匂いとは別に嫌な臭いなんかも分かる。獣の臭いや、あとは腐敗臭。なんなら血の臭いなんかもわかるようになっていた。
日中も似たような臭いを嗅いだが昼と夜とでは獣の臭いが違う。
やはり思っていた通り、夜は夜のモンスターがいるようだ。
下手に刺激したりしないようにするのが得策だろう。
気配を消し、安全そうな方向へ進み続けた。
流石に動き続け、疲れが溜まってきたのか足取りが重くなってきた。
今日は落ち葉の下で休むしか無さそうだな、と諦めかけた時私の舌は何かを感じ取った。
甘い、でもミントの様に爽やかな匂い
昼にこんな匂いは感じたことは無かった
不思議な匂いに、私の足は自然とそちらに向かう。
強くなるその匂いに胸が高揚するのがわかった。何故だろう、とても安心する優しい匂い。
私の疲れ切って重くなった手足は勝手にそちらに向かう。自分の意思じゃないようだ。
石の山を越え、落ち葉の下を潜り抜け、トゲトゲした葉の茂みを抜けた私の目の前にはとても言葉には言い表せない幻想的な光景が広がっていた。
ぼんやりと光る巨木。周りには無数の発光体がふわふわと漂っているのだ。
これを幻想的と言わずしてなんと言おう。
一言で言えば神々しい。その美しい巨木はその場に静かに立っていた。
恐る恐る近づき、ある事に気がついた。そう、この巨木は先日一晩お世話になったあの木ではなかろうか。
かなりこの場所から離れたと思ったのにまたここに戻って来てしまったようだ。
よくよく考えると私はこんな神々しい巨木の足元で一晩休んでいた事になる。なんだか罰当たりだな。でもあの時この光景を見ていたらきっと一睡も出来なかったと思う。
近づき、根にそっと手を当て見上げてみる。優しく葉が揺れた。
ああ、あの時のは勘違いじゃなかったんだ。
この木には意思がある。そう今確信した。
私はこの小さな姿で数日森を彷徨っただけでこの世界の事は何も知らない。
きっとこれから生きていくうちにもっと不思議なことを体験していくんだろうな。
木の幹を優しく撫でていると巨木の周りに浮かんでいた発光体が私の周りに寄ってきた。
嫌な感じは全くしない。ふわふわと私の周りを浮遊する発行体は、私の頬撫でるように飛んだり、手を差し出せば手の上に乗ったりまるで一つ一つが生きているようだ。
不思議な感覚に酔いしれていると後ろから何かの気配を感じ、私は勢いのまま巨木の根の隙間に体を滑り込ませた。
その気配は複数いるようだ。
葉に何かが当たる音と地面に落ちた木が折れる音がする。
何かが近づいてきているのは間違いない。
気配を消して、音がなる方へ意識を集中させる。葉をかき分け、巨木に近づいてくる人型の何か。
姿を確認できたのは、私との距離がほんの数メートルになった時だった。
肌の色が白く、耳が尖っている。
エルフに間違いないだろう。
まさかこの目で見られるとは思わなかった。
その姿をじっくり観察する。
何か喋っているようだ。
「穢れは感じないし、今日も大丈夫そうね」
「このまま帰っても問題なかろう」
穢れ?なんだそれは。
会話が気になり、体を乗り出し過ぎた私は根の隙間から地面に落ちてしまった。
キュッと不思議な声を出してしまい、慌てて体を起こす。
私こんなに可愛い声が出るんだな!
いやそれどころじゃない、すぐに身を隠さないと。
改めて根の隙間に隠れようとした時、不安なことにエルフと目があってしまった。
一瞬時が止まる。
「この神聖な場所に…」
「白いリザード…?」
顔をしかめるエルフ。
殺される?私ついにジ・エンド?
エルフが近づいてくる。私は覚悟を決めた。
ああ…生まれ落ちて数日しか生きれなかったけどいい人生…いや。いいトカゲ生だった。
あんまりいいこともなかったけどな!
手を伸ばされた瞬間私は目を瞑る。
どうにかして逃げれないかと一瞬思ったが恐怖で思考も追いつかないし、いっそこのままサクッとやってくれる!なんて諦めていた。
優しく包まれる感覚と浮遊感に驚き目を開けると、エルフの美しい顔が目の前に広がっていた。
「珍しいー!しかも可愛いー!」
「この神聖な場所に何も無く居られるという事はこいつただのモンスターじゃないぞ」
「だよねだよね!こんなに可愛いし、悪い子じゃないよ!ただのモンスターがユグドラシルの木にこんなに近づけるわけないもの」
「連れて帰って調べてみるか」
「おばば様に聞いてみよ!もしかしたら何か知ってるかもしれないよ」
手の上でガタガタと震える私とは裏腹にエルフ2人は何故か盛り上がっている。
美人に見つめられて嫌な気はしないが、連れて帰られて解剖とかないよね?
硬直する私を連れたままエルフ2人は来た道を戻る
ユグドラシルの木と呼ばれた巨木を見上げると、また優しく揺れている
大丈夫だよ
そう言っているような気がした。
エルフに連れられ、森を歩く中で分かったことがある。
私を手の上に乗せて運んでいるエルフの名前がフィーニャ
そしてフィーニャとは別の少し固く喋るエルフの名前がチルマ
何故この2人が喋っている事がわかるのかは私にも分からない。
これがもしかしたら転生特典とかいうやつかな?
あの木はユグドラシルの木と言われこの森の神木として扱われているらしい。確かに神々しかったし神木と言われると納得がいく。
私はその見回りと鉢合わせてしてしまったわけだ!はは!
私の運の悪さに関してはもう何も言うまい…
神木からあまり離れていない所で足を止める2人。
手の上が暖かくて心地が良く、いつの間にか私を野生を忘れて寛いでいたとか言えない。そもそも私は野生じゃない!
チルマが何の変哲も無い茂みに手を掲げた。
「"我、世界樹に守られし者也。路を開き、我を導け"」
言霊を呟くと魔法陣が浮き上がり、茂みが真ん中から音を立てて割れた
なんだそれ!すげえ!私もやりたい!
魔法を目の前で見た私は歓喜のあまり四肢をばたつかせた
「うわあ!ごめんね!びっくりしちゃったよね!チルちゃんのせいでこの子が驚いちゃったじゃない!」
「私のせいじゃない!勝手に驚いたこいつが悪いんだろう!」
やめて!私の為に争わないで!ただ魔法に感極まっただけなんだ!
慌ててフィーニャの手首に長い尻尾を巻きつけて、掌に顔を撫で付けた
「喧嘩してると思っちゃったのかな…大丈夫だよぉ」
ふにゃっと笑うフィーニャ
私の行動に目を見開くチルマ
「こいつ…私達の言葉がわかるのか…?」
察しが良い子だな!
チルマを見上げ、私は首を縦に振る。
でも怪しいやつじゃないからね!私はただの愛くるしいトカゲよ!
「もし言葉がわかるなら本当にただの下級のモンスターじゃないぞ」
「神木が許した子だもの…きっとこの子は神に近いしい子なんだよ」
フィーニャがまた私の顔を覗き込む。
その瞳はすごく優しくて、なんだか泣きそうになった。
「おばば様に何を言われてもきっと私があなたを守るよ」
微笑むフィーニャの横で溜息をつきながらも優しく微笑むチルマ
涙が滲むのがわかった
本当は寂しくて擦り切れそうだった私の心に優しさが染み渡った
私は声を上げて泣いた




