腹が減っては戦はできぬ
Good morning, everyone!
皆様おはようございます、いい朝ですね。
あああ…良かった、死んでなくて…
本当にそれだわ。もしかしたら寝ているうちに外敵に襲われるとか、不慮の事故とかで死んでいてもおかしくない状況なのだ
一晩無事に命を長らえれただけでも儲けもんなのかもしれないな
お腹が異常に空いた以外はとてもいい朝だと言える。
根の隙間から体を出し、お世話になった巨木を見上げる。
一晩守ってくれてありがとうね
お陰で安心安全に眠れたよ。
心の中で巨木にお礼を言うと、それに答えるように葉が揺れたように見えた。
とても優しく揺れる木を見つめるとどうしてか、とても心が落ち着いた。不思議なこともあるもんだ
木が答えてくれたような気がしたけど、ここは私の知らない異世界
木に意思があってもおかしくない、とは思ったものの葉の揺れはすぐに収まり、きっと見間違いだったのだと思うことにした。
巨木から離れ、食料と飲み物探しに勤しむ。
舌を出す事で匂いがわかるお陰で食べれそうな物を探す事には苦労しなかった
もちろん昨日のコオロギや、でかすぎて蛇と見間違ったが多分ミミズだと思われるモノにも遭遇したがそこは上手いこと逃げた。
何回も遭遇する事によってあいつらの匂いを嗅ぎ分けることも出来るようになり、次第には避けれるようになってきたのは大きな収穫だと思う。
虫以外の匂いも分かるようになり、今私の目の前には赤い木の実が生った木がある。
ただこの体でこの木を登れる気がしないんだが……
しばらく悩んだ結果、私は木に手をかけた。落ちませんように、ただそれだけを願って一歩ずつしっかり爪を立てながら手を出していく。
問題なく登れている。心の中は焦りまくっているけど。
落ちたら死、そう考えるとまず下なんか見れない。
もう気が付いているだろうけど私は極度のビビりなのだ。
それでも生きる為には絶対何かを口にしないといけない。
今目の前に食べれるであろう物が存在しているのであればこれを逃すのは良くない。
必死で私は登り続けた
ビビりながらも一歩一歩確実に登り、一番下の枝にたどり着いた。
思ったより全体的に枝が細いな
私が小さすぎて木に見えているだけで実は特に大きい木ではないのかもしれない
確かに昨日寝床に借りたあの巨木に比べると雲泥の差だが私にとってはでかいことには変わりないのだ。
まぁそこを気にしていても仕方がない。
木の幹から細い枝に体を移した。
細い割にしっかりしている、というか私が小さい&軽いお陰でこの枝に乗れているんだと思われる。
小さくてよかったーーー!
乗ったところでしなりもしないし、これなら安心安全にあの赤い木の実までたどり着ける。
どんどん足を進め、無事に赤い木の実までたどり着くことが出来た。
出来たのだが、この木の実をどう下まで運ぶかだ。せっかく目の前に食べ物があるのに地面は遙か下。
安定しているとは言え、この枝の上でご飯を食べれるかというとビビりの私には厳しいものがある。
落とせる何かがあれば良いんだけど……
しばらく考えた後にあることに気が付いた。あるじゃないか、自在に扱えるものが。
そう!我が尻尾!
細いしひょろいし全く頼り甲斐のなさそうなこの尻尾だ
でも強みは自在に操れる事と長さ
この長さなら木の実にも届く
体を反転させ、木の実に尻尾を向け思い切り薙ぎ払った
思いのほか簡単に枝から離れた木の実は地面に落ちていく
後先考えずに落としたが木の実は潰れていないだろうか。
慌てて下を覗き込むと木の実は無事に地面に落ちていた。
しまった。ビビりのくせに何も考えず下を見てしまった
遠い、地面が。眩暈がした。
これ以上、下を見続けると本当に落ちてしまいそうな感じがして私はすぐに顔を上げる
汗なんか出ていないだろうが、人間の時の私だったら滝のように汗をかいているに違いない。
態勢を整え、息を整える。
とりあえず食料は確保できたが、一粒で足りるだろうか。今のこの空腹具合を考えると何個か落としておくのが吉と見た。
近くで生っている木の実を何個か落としておいた。
そしてすぐに新たな問題に直面することになる。
そう、どう下に降りるか、という問題だ。
幹に戻るまでも極力下を見ないように正面だけを見て枝を渡ってきたが下に降りる時は絶対に下を見なければならないわけで。
詰んだくね?これ詰んだよね?
落ちたら確実に死ぬ高さをどう降りようか
よし、ここでまたいい様に考えてみよう。
私自身今の私の生態はよくわかっていない
生前見たトカゲやヤモリは壁を簡単に登っていたりしていたような気がする。
もしかしたら今の私なら実はビビることなく木登りなんか余裕のよっちゃんでできてしまうんじゃなかろうか。
そう、今こそ私という生態を知るチャンスなのだ
意を決して幹に手を伸ばす
行きと一緒だ。
しっかり爪を立てて、一歩一歩確実に。
行きと違うのは、頭上に葉や空が見えず頭上に地面があると言う事。
もちろん相変わらずビビってるよ?
でもビビって前に進めないんじゃ、この世界に転生した意味がない。
私は生きるんだ。新しい私として、トカゲとして生きるんだ。
自分を鼓舞しながらゆっくり前に進む
どんどん近づく地面に、次第に心は落ち着いていく。
そうこうしているうちに私の足はしっかりと地面についた。
人間やっぱり地に足つけなきゃね!
いや私人間じゃなかった、トカゲだった。
トカゲでもやっぱり地に足つけなきゃね!うん!
落とした木の実を落ち葉の下に運んで、やっとこの世界にきて初めて食事にありつくことが出来た。
葉っぱに隠れながらむしゃむしゃと赤い木の実を頬張る。
それにしてもこの赤い木の実くそ不味いな!笑えるぐらいに不味い!
非常に苦い。苦いし酸っぱいし渋いし、奇跡的な不味さでむしろ感動した。
なぜこんなくそ不味いものを口にしているかというと、匂いがすごくよかったんだ
甘酸っぱいべリーのような香り、見た目もベリーっぽいし絶対美味しいだろうと思って食べたらこれだよ。
ここで私の運の悪さがまた発揮されましたね。
とは言え食べれない訳ではない。
食感はリンゴに似てシャキシャキした感じで噛んでいくうちにどんどん粘度が増していく
今では口の中がにっちゃにっちゃしている
ねちゃねちゃじゃなくにっちゃにっちゃって感じ。
面白い食感を楽しみつつ一つ目を食べ終えた。
二つ目に手を伸ばした時、生前同期と一緒にゲテモノをよく食べに行っていたのを思い出した。
その同期も社畜仲間で、お互いが早く退勤できた時に食べに行っていた。
よくゲテモノを食べに行っていたせいかこのクソ不味い木の実は難なく食べれる、不味いけど。
なんならゲテモノのほうが美味しい。そりゃちゃんと調理もして頂いてるし見た目がアレなだけで全然美味しい。
その同期はある時体調を崩し、そのまま会社を辞めてしまったのだが。
同期はその子以外にもたくさんいたがどんどん辞めていったな
きっとあの子たちの選択が正解だったんだろう。
同期たちが私と同じように社畜としてあの会社で人生を潰されなくてよかった。
少し感傷的になってしまったが、とりあえずこの木の実くそ不味いな。
この不味い木の実のおかげで私の意識を現実に戻してくれる。
今私は社畜じゃないんだ。
この自然の中で生命にしがみつくだけのちっぽけな存在なんだ。
会社にいいように使われていた時も自分はただの駒でちっぽけな存在だと思っていた。
でも今私は駒じゃなく、自分の意志で生命にしがみついている。
駒ではなく、やっと私は私になれた気がする。
いつ死ぬかもわからないけど死ぬその日まで私は私として、この世界に、この命にしがみついてやろうと思った。




