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神様は異能蒐集家   作者: 杉浦 遊季
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第7話 最強の存在


 時間は現在に戻る。


 意識を雅に明け渡し、素早く病院から出ていく。


 日が暮れ、夜の帳が下りた病院。その正門付近に一台の車が止まっており、気軽な服装をした長身の男性がその車体に寄りかかっていた。


「やあ、遅かったね」


 雅を待ち受けていたのは、オカルト系雑誌の記者をしている、三十代半ばを過ぎた神楽夏景だった。


「あの子があの状態だから、ワタシを呼んだのか?」


 雅は夏景に鋭い視線を浴びせながら問いただした。


「まあね。以前ネタ探しで医療関係の都市伝説を洗っていた時に、不可解な病を患っている少女がいるという情報に行き当たってね。更に取材を重ねてここに辿りついたって話だ。本人にも取材したが、本当に奇怪な症状だったよ。でも本当に奇怪だったのはそれを診察、治療していた医者だったけどね」


 そうなのである。今回の事件の発端は妖人であるあの医師なのだが、そもそも何故あの妖人は医師としてこの病院に勤務していたのか。そして何故大勢のいる院内で異能力の実験をしようとしたのか。そのあたりのことはようとして詳細がわからない。そして今となっては全て闇の中に埋もれてしまったのだ。


「あいつには、何か別の目的があったのでは? その目的の為に異能力が必要になったから開発しようとした、とか。でなければ、単純に異能力を取得したかったとか」


 雅は別の方向から思考してみた。確かにその方面から考えた方が何かしらの結論が出そうであった。


「なるほど、医者になってから妖人化したのか、妖人になってから医者になったのかはさなかじゃないが、元々異能は持ち合わせていなかった。だから自身の医療知識を元に異能を開発しようとした。そしてそのときにたまたま朱里ちゃんが入院してきた。あ、朱里ちゃんは元々別の病気で入院してきたんだけど、まあそれは置いておこう。その朱里ちゃんを使って異能力の開発に手をつけたってことだな。こう考えれば、一応筋は通る」


 医師が異能力で何をしようとしていたのかはわからずじまい。しかしその驚異は既に取り払われたので、あとは放置してもよい案件であった。


「ともあれ、今回朱里ちゃんを取材した段階で、異能力が絡んでいると判断できなかった俺に責任の一端があるのかもしれないな。正直、今回雅ちゃんに頼んだのも、悪い予感がするって程度だけだったからな。……ところで朱里ちゃんのその後は?」


「異能力に関しては全て除去した。もう異常はない。命を脅かすものはもう何もない。ただ長い間の入院生活で衰えた体力はそのままになっている。すぐに日常生活に戻れるかどうかは難しいかも」


 異能力は消し去ることはできたが、あの子が戦った三年半の時間までは戻らない。彼女はこれから失った時間から立ち直り、再び日常を刻み続けなければならないのだ。


「そうか。そこは異能力関係なしに見守っていかなければならないのか。……それはそうと雅ちゃん。君を千秋の家まで送るから乗りなよ。もう夜も遅いし、女子高生がいつまでも出歩いていたらよくない。さあ、早く」


 夏景はそう促し、車に乗り込もうとする。


「いや別に、一人で帰れます。そんなに遠くないですし、時間もそこまで遅いってわけでもないです」


 正確には一人ではなく、二人なのだが。


 雅が夏景の申し出を断ろうしたが、「まあまあ、いいから」と雅を後部座席に押し込み、半ば強引に乗車させた。


 夏景は運転席に座り、安全確認をした上でハザードランプを消して車を出した。


「君も珍しいよね。人間であってもただの人間ではないし、妖人であってもただの妖人ではない。不思議な存在だ」


 夏景は運転しながらバックミラー越しに雅を見てくる。雅は夏景と目が合うとすぐに視線を逸らし、車窓から夜の街を眺め始めた。


「そんなことないよ。昔から憑依とか降霊の術があるのだから」


「確かに。日本に限って話せば、イタコとか巫女とかは古くから存在している。妖怪の伝承とかだと狐憑きとかがあるしな。ただ本当に霊体を下ろしているのはごく一部で、実際殆どは偽物だけどな」


「ワタシもまさか、こんな形で妖怪にとり憑かれるなんて思ってもいなかったよ」


 皆私のことを悪霊のように話を進めていく。まあ、多方間違いではないので反論はできないのだが。


「人間の人格と妖人の人格。人間である雅ちゃんの人格と、妖人である神楽家の神様の人格が、一つの身体の中に収まり、そして共存している。非常に面白い話であり、興味をそそられる」


 夏景は一度区切り、「ただ……」と呟いてから続きを話す。


「君たちを見ていると、思ってしまう事があるんだ。君たちみたいな存在は、理想形であるけど同時に驚異であるってね」


「どういうこと?」


「簡単な話だよ。生命維持を手動で行う妖人が、生命維持を自動で行う人間にとり憑くってことは、妖人は生命維持の保証が得られ、人間は異能力という力を手に入れることができるってね。互いにデメリットを打ち消し合っている関係。当事者たちは理想的な形態を得るが、それと対峙する者は絶対的な存在として捉えざるを得ない。それを理想形と驚異と言わずに何という」


 雅はずっと夜景を見ているので、私には夏景がどのような表情をしているのかはわからない。ただ私には険しい表情をして警告しているように思えてならなかった。今の私たちは、人間は疎か、妖人ですら赤子の手を捻るように対応できてしまう。命気の操作による生命維持を気にすることなく、全力で思うがままに異能力を行使できる地球上最強の存在。そんな存在が下手に行動していらぬ敵を作らないようにと警告しているかのようだ。


「ところで話は変わるけどさ」


 ここで会話の方向性を変えたのは、今までとくに意見を述べなかった雅であった。恐らく承知の上の事柄を改めて言い聞かされて不愉快に感じたからだろう。


「あんたは取材の一環でここまでしたのだろ。今回のことはどう記事にするつもりだ?」


 雅は正面を向き、バックミラー越しに夏景を見据えた。夏景自身はその質問に表情を緩めて微笑した。


「異能力の存在は世間に浸透していない。故に異能力が絡んだ時点で、もう記事にすることはできない。今回はそうだな……まあ、結果だけをかき集めて適当にでっち上げるさ」


「後日朱里ちゃんに取材を申し込むか」と微笑みながら独り言を呟く夏景には、その記事の完成形が見えているように見えた。


「それと、今回のことは千秋さんに報告するから。全部」


「え!? 勘弁してくれよ。毎度半殺しにされるんだから」


 夏景は困惑した様子であるが、口八丁である彼なら何とか凌ぐことができるだろう。今までがそうだったように。


 こうしてまた、世間の影で一つの事件が解決を迎えた。世界の裏側で闊歩する人の道を外れた者たちは、常に厄介事を生んでは消えていく。その事が、現代では最悪でも都市伝説レベルでしか浸透せず、太古の昔みたいに神話にならないだけでも幸運なことなのかもしれない。



〈了〉



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