第4話 異能力について(前編)
「前置きが長くなるけど、少し付き合って欲しい」
「生物には、体内を流れるエネルギーがある。それは身体を常に循環していて、生き物の生命維持活動をする上で重要な要素となっているの。成長や老化、体調の不良や良好にも関わるそのエネルギーは、広く知られてはいない。概念的にその存在に触れて、でも専門的な知識がない人は〝気〟だったり〝マナ〟とか呼んで理解しようとしていた。一方、このエネルギーと深く関わりのある人たちは、これを〝命気〟と呼んでいるらしい」
「これは何も人間に限った話ではない。他の動物や植物など、生物であれば誰でも持っているもので、微生物でも恐竜でも関係なく持っている。実際死体でも循環していないだけで命気が残留していたりする」
「労働や運動など身体を動かすと命気はどんどん消費されていき、食事や睡眠など栄養や休息をとると消費した命気が回復していく」
「命気は個人差があり、それぞれ持っている命気の量は一定ではない。より多くの命気を持っている者は運動能力や情報処理が優れ、逆に体格に似合わず命気の少ない者はすぐに体調を崩したり病気にかかりやすかったりする。疲れているときに体調が悪くなるのは、命気が減っているということなの。命気が消耗して生命維持活動に支障をきたしている証拠よ」
「命気は自動的と言うか、無意識のうちに循環しているので、筋肉とは違って意識的に動かすことはできない。そういうものをとらえる神経がそもそもないと言うか、命気そのものを感じ取ることすらできない故に、命気を操ることは不可能とされてきた。しかし、何事も例外はある。ここまで荒唐無稽な話をしてきたけど、ここからが重要」
「命気を自分の意思で操る人は、存在する」
「そういう人たちは意識と肉体との間にフィルターを噛ませることにより、己の身体を客観的に捉えている。自身の身体の流れを客観的に把握することで命気を感じとり、手動で動かすことにより流れを変え、身体に変化をもたらしているの」
「命気を使って元あるものに変化を与えて新しいものを生み出す力を、わかりやすく異能力と呼んでいるのよ」
「異能力を扱う者は遥か昔から存在していた。何も知らない人間は異能力のことを魔法だとか呪術とか、大げさに言う人は神の奇跡だとか言っていたらしい。そして、異能力者を神や悪魔として扱ってきたらしい。神や悪魔他には、天使や精霊、妖精。魔人に夢魔や吸血鬼、亜人、幽霊に怨霊。魔術師だったり超能力者だったり。魔女、シャーマン、賢者、司祭などなど。その呼び方は地域や時代によって変わり、多種多様なものになっている」
「日本特有の呼び名に限れば、妖怪、怪異、悪鬼、陰陽師なんかがあって、名前を上げればきりがない。近年日本は〝妖人〟と言う呼び名で統一されたが、外国が今どう呼んでいるかはわからない。まあ、認識として、人の道から外れた人、って捉えれば問題ないでしょう」
「実は今伝わっている神話や伝説、現代でいう都市伝説なんかのほとんどが、彼ら妖人の仕業であるらしい。まあ考えてみればわかってもらえると思うけど、神話に登場する神々の言動は妙に人間らしいものが多い。家族を持ち、交流し、戦争する。やっていることは人間と何も変わらない。ただ特殊な力があるかどうかの違いなの」
「要するに、世界中の魑魅魍魎は実は同じ種類の生き物で、神話になった存在も、元をたどればただの人間だったときがあるってことよ」
「神話や伝説は有名無名を合わせると無数に存在する。それだけ太古の昔は神を名のる異能力者の存在は絶大だった。しかしその数は時代とともに存在感をなくしていく。神話の神は他所の神や次世代の神に駆逐され、次第に人間によって終止符を打たれる。時が流れて化け物に貶められても、同族や人間と争い、種の絶対数は減っていった」
「そして決定的だったのが、人間による文明や科学の発達。異能力に頼らずとも力と安定を得られるようになったため、異能力と言うオカルトは更に衰退していった。しかし、争いや発展の他に、根本的に異能力が衰退する理由が他にもあったの」
「そもそも、異能力は万能の力ではない。異能力を扱うが故の欠点がある。さっき話した異能力の仕組み、自身の命気を客観的に観測することにより、手動で流れを変えて肉体に変化を生じさせるそれ」
「それはつまり、人間が当たり前にやっている生命維持活動も、手動で行わなければならないということ」
「食べたものを栄養として吸収するのも、酸素を吸い二酸化炭素を排出するのも、身体を巡る血液の流れも、怪我をしたときの回復も、眼に入ってきた光を像として映し出すのも、耳に入ってきた音を脳で再生するのも、嗅いだ臭いの識別も、自身の身体に関わる全てのことを意識のもと、手動で行わなくてはならないんだ」
「もちろん睡眠を取れば身体機能がストップして即死してしまう。妖人は、己の異能力を開発する以前に、己の命を繋ぎ止めることに全力にならなければならない」
「妖人の死因のほとんどは、自身の生命維持活動に失敗したことによるの。それは妖人になったばかりの若者は言わずもがな、ベテランも異能力を使いすぎた故に命気の不足で死ぬことがある。もしそのことを事前に知ることができたなら、誰が好き好んでそんな不都合な存在になろうと思うだろうか」
「そういう様々な事情があるせいで、妖人は時代と共にその数を減らしている。数を減らすのに比例して人々の記憶からも消えていく。今現在どれくらい生きているのかは知らないけど、国内では容易に数えられる程度しかいないでしょう。異能力を持つ者となるともっと少なくなる。けど、確実に存在している」
「そういう存在が人間社会に紛れ、世界から隠れるように暮らしている。これが世界の裏側の話。この世界には、人の道を踏み外した者が影を潜めている、ってね」




