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神様は異能蒐集家   作者: 杉浦 遊季
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第1話 異能蒐集家

 目的地はエレベーターから然程離れてはいない。エレベーターを降りた私は、白を基調とした病院内に同化するかのように気配を消して廊下を歩む。それが功を奏したのかはよくわからないが、幸いにも誰かの目にとまる前に、私は目的地の扉の前までたどり着くことができた。その部屋の表札には「南條朱里なんじょうあかり」の名前のみ書かれ、この病室が個室だということを示している。この病室の扉を開けるのはこれで二度目なのだが、私の意志としては初めてだった。


 ノックせずに病室に入る。室内は窓の外の夕日が入り込み、燃えるような朱色をしていた。その朱色の病室の中、ベッドに横になっている目覚めない少女を見やると、失礼ながら、ここが火葬の炉の中ではないかと錯覚してしまう。それほどまでに、彼女から生気を感じることができなかった。


「君は、誰だい?」


 少女が眠るベッドの傍らに、白衣を纏った痩身の男がいた。病院であるので、この男が医師だということはわかったし、この少女の病室にいることで、主治医か何かの関係であることが窺える。


「君は、朱里さんのお友達か何かで?」


 医師は困惑する。それもそのはずだ。いきなり片耳だけ異様な数のピアスをつけ、首には厳ついヘッドホンを下げた派手な女子高生が、音も立てずに入室してきたのである。朱里と呼ばれた病弱な少女とは真逆の性質をもった少女であるため、戸惑わない方が異質であった。


 しかし私はそんな医師の反応を無視し、無言のままその医師に歩み寄る。そして徐に彼の右手を掴むと、念を一つ込める。その瞬間、突如耳をつんざくような破裂音が室内に響き渡る。それに伴い、医師はその場に倒れ込んだ。


「ガッハ……」


 意識は朦朧とし、身体は痙攣する。それでも医師の目は私を見据えていた。


「静電気の出力を増幅させた〈電撃の異能〉よ。手の指一つ一つを電極にして放電させたの。簡易的なスタンガンってところかしら」


 医師のその視線が、今起きた出来事の正体を問うように見えたので、私はあっさりと種明かしをした。私もこの医師に聞きたいことがあったので、私はその場にしゃがみ込み、医師の顔を覗き込む。しかし光源が窓から差し込む夕日のみなのと、ベッドの物陰に倒れ込んだことにより、蹲る医師の表情がよく見えなかった。


 仕方なく私は〈発光の異能〉を人差し指に使う。〈発光の異能〉の原理はホタルと似ている。体組織を操作することで体内に、今回は人差し指の中に発光器を作り、それを皮膚の内側から光らせているに過ぎないのだ。私がその異能を発動させたことにより、医師はホタルの光りのような薄い緑色の光りに照らされる。


「お医者さん。ちょっと聞きたいことがあるの。話してくれる?」


 私は年相応の少女に見えるように言葉を選び、愛らしい笑顔を添えて医師に訊ねた。


「ガ……あ、……な、にが……?」


「どうしてこの子に異能力を使ったの?」


 そして私はスッと笑顔を消し、口調を変え、冷徹に本題に入る。まるで天使が悪魔に化けたかのように。


「……君は、妖人あやびと……なの、か?」


 何を今更。


「そういうお前も、妖人でしょ?」


 現代の人は、異能力を扱う者のことを〝妖人〟と呼んでいる。


 しかし私は、その呼び名に慣れることができずにいた。昔は異能の者を妖怪や怪異、ときには悪霊や悪鬼などと呼んでおり、私もその世代の者なので、ただ単にころころ変わる呼び名に対応できずにいるだけなのだが。しかしそのことは、今はどうでもいい。


 私が妖人であることに気がついた医師は、顔を歪めて恐懼した。だが、異能の者同士が出会うことに、そこまでの反応をしなくてもいいと思う。そもそも〈電撃の異能〉の一撃を食らう前に、接近された時点で気配か何かで気づいて欲しいものだ。もしかしたら、この医師は同胞と出会う機会が少なかった若い妖人なのだろうか?


「妖人になってまだ浅いと見た。しかしその若さで独自の異能を開発したことは、褒めてやろう」


 まるで孫が初めて歩いたことを褒める老婆のような口調で、横たわる医師に優しく言葉をなげかける。


「しかしな……」


 私は口調を落とし、


「お前の、体内に悪性の体組織を作り上げて相手を弱体化する異能、少々使い勝手が悪いぞ。はっきり言って、今のままじゃ使い物にならん」


 医師が独自に開発したであろう異能に忌憚ない評価を下した。


「なッ! ……どう、して」


「どうして自分の異能のことを知っているのか、と言いたいのだろ。いいだろう。教えてやろう。私は〈理解の異能〉というものを取得している。その異能は、異能力によって生じた事象や異能力そのものに触れれば、その異能の構成、仕組み、原理など、その異能のことを全て察して理解することができる。数多の異能力に触れてきた経験から類推するその過程そのものを異能力化したものだ。そしてその理解した異能が私に扱えるものであるならば、私の異能コレクションに加えるだけのこと。わかったか?」


 未だに痙攣し続ける医師であったが、その眼を見開くことはできるみたいだった。


「私はベッドで寝ているこの子から、お前の異能を理解し、蒐集した。それで、訊きたいのだけど、どうしてこの子に異能を使った? なぁ?」


「…………」


 医師は真実を話そうとはせず、ただ恐怖に震えるだけだった。さながら蛇に睨まれた蛙のように、絶対的な強者を目の前にした弱者であった。私は仕方なく再び〈電撃の異能〉を使い、空中に放電することで音による威嚇をした。それにより医師の恐怖は増幅したようで、私に従うほかないことを理解した。


 医師は訥々と語りだす。事の次第を聴き終えるのに、相当な時間を費やした。夕日が沈み、室内は暗闇に包まれていて、明りが指先の〈発光の異能〉だけになっていた。


「なるほど、ね」


 やはり私の予想通りであった。


 私は上体を起こし床に座り込む。


「だったらいい方法があるよ」


 そして私は唐突に横たわる医師の口に左手を突っ込む。突然の異物侵入に医師は喘ぐこともできずにただただ悶える。一方私は、細胞の結合具合を調節して身体の形状を自在に変えることのできる〈変化へんげの異能〉を駆使し、手先の形状を巧みに変化させて身体の奥の奥まで左手をねじ込む。


「格の違いを見せてやるよ。その身体で己の異能の完成形を感じるがよい!」


 私は先程蒐集したばかりの未完成の異能、〈悪化の異能〉と名付けたその異能力に独自の解釈と修正を加え、私なりに完成させたそれを医師の奥底に発動させる。


 医師の体内に特大の悪性腫瘍を作り出し、私は左手を引き抜いた。


 当面の目的は果たせたので、私は立ち上がり病室の扉に向かって歩き出す。医師はそのまま放置しても構わないだろう。異能とは関わりのない病院関係者が発見して、勝手に後始末してくれるだろう。現に見た目は、急の発作で倒れ込んでいるようにしか見えないのだから。


「おま……え、は……誰……だ?」


 医師が朦朧とする意識の中で、懸命に問いかける。私は医師が倒れている方に向き直る。


「私は、異能蒐集家、とでも名乗っておきましょうか」


 私はそう告げると、首に下げているヘッドホンを装着し、周囲の音を遮断する。そしてそのまま退室した。



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