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第89話 宿命
夜になるのを待った。
隠してあった箱から、武器を取り出した。
助左は槍と刀、紅は鉄砲を選んだ。
銃を手にすると、気持ちが落ち着いた。
いつの間にか、その重さにも馴染んだ。
(あたしの両手は、血に染まっている)
同世代の同じ階級の女たち、日がな一日、城に籠って、裁縫や刺繍をし、歌を詠んだり貝合わせで遊び、家族に囲まれ、夫に愛される、奥方や姫君たちとは遠く隔たってしまった、暮らし。
(いつの日か、この報いを受ける日が来るかもしれない)
武将たちの間では、神や仏の信心が盛んだが。
(ただでさえ女は、救われぬというのに。後生なんて、とっくにあきらめている)
ただ思うのは。
(先祖代々、上杉家の為に生きて、死んできた)
曽祖父は、永正の乱{戦国初期、関東・北陸地方で起こった戦乱}のとき、越後・上杉家のために戦って死んだ。
父は、川中島で討たれた。
おそらくは祖父の死にも、何らかの形で上杉家が関わっている。
(これは、宇佐美の家に生まれた者の宿命)
願わくば、その例に倣えることを。
紅が手馴れた風に銃の手入れをしているのを、助左は黙って見ていた。