表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火の如く 風の如く   火の章  作者: 羽曳野 水響
90/168

第88話 競り

 女が驚いているのを見て、又、笑った。

 自分を嘲笑あざけっているようだった。

「主人の権限けんげんを使って、お前に言うことを聞かせようとしてるわけじゃねえ。俺が勝手かってにお前のこと、想っているだけだ。」

 何て言ったらいいかわからなかった。

随分ずいぶんと困らせちまったみたいだな。いいんだ。ただ、自分の気持ちを伝えたかっただけだ。忘れてくれ。」

 視線を広場に戻した。

「全員がつかまっちまったわけじゃなさそうだ。生きてて、逃げたんだったらいいんだが。おっ!」

 身を乗り出した。

「驚いたな、仲間もりにけちまってるぞ。」

 濃い茶色い髪に茶色の目をした南蛮人が引き出されてきた。

後生ごしょうを知らねえ連中れんちゅうだ。本国ほんごくにバレりゃ、地獄じごく行きはまぬかれないというのに。」

「地獄行き?」

人身じんしん売買ばいばいは、奴らの宗教で禁止されているんだ。」

 広場から目を離さずに、言った。

「でもいいもうけになるから、やる者は後を絶たねえ。航海から戻った後は、地元の教会に駆け込んで後生を祈る。教会の方はというと、本国からの援助がすずめの涙ほどなんで、自力じりき生計せいけいを立てなきゃなんねえ。後ろめたい商売をやってる連中ほど、金離かねばなれがいい。どっさり寄付きふをしてくれるお客さまを、大事だいじにしねえわけにいかねえだろ?かくして汚い金は、清浄せいじょうな教会に寄付されて、綺麗きれいな金に早代はやがわりってぇわけさ。それにしても身内みうちを売るたぁ、世もすえな連中だな。たぶん、凶状きょうじょう持ちだ。」

 さらに様子を探った。

 村にいるのは全部で、三十名ほど。

 見張みはりは一応いちおう、立てているが、ここまで司直しちょくの手が伸びることは無いらしく、弛緩しかんしきっている。

「もう少し人数がいりゃ、殺さずにつかまえて、役所にき出すことも出来るんだが。」

 助左が言った。

「しやあねえ。殺し合いになっちまう。」

「あたしのこと、心配して下さってるなら」

 余計よけいなお世話せわだ。 

御無用ごむようですから。」

 助左が舌打したうちした。

可愛かわいくねえ女だな。」

(起きていると)

 紅は思った。

(やっぱりこうなっちゃう)

 昨夜のことが夢のようだ。

 彼の腕に抱かれて眠るなんてこと、二度と起きない。

 あたしと彼の道は、永遠にまじわらない。



       挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ