表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火の如く 風の如く   火の章  作者: 羽曳野 水響
89/168

第87話 人買いの浜

     挿絵(By みてみん)



 船から降りた連中れんちゅうは、なわ一繋ひとつなぎになった人々をきたてながら、出迎でむかえた者たちと共に森を進んでいく。

 しばらく進むと、森が切れて又、浜辺に出た。

 波がおだやかなので、どうやら内海うちうみのようだった。

 そこに、建物がいくつかと広場があった。

 村、というには殺風景さっぷうけいで、普通の村なら居そうな、子供や動物の姿も見当たらない。

 助左が紅の肩をつつき、引っ立てられている人々を指した。

(於寧さま、鞠さま!)

 うつむいて歩いている二人の姿を見て、ああ、とりあえず生きている、良かった、と思った。

 らわれた人々は、二つの小屋こやに入れられてしまった。

 南蛮人なんばんじんたちは、広場で酒盛さかもりをしている。笑ったりしゃべったり、御馳走ごちそうも運ばれてきて、皆、いい機嫌きげんだ。

 そのうち奴隷どれいたちが、広場の前にもうけられた舞台ぶたいの上に一人一人、引き出されてきた。

 様々(さまざま)な人種の人々がいる。

 肌の茶色い人、黒い人、東洋人とうようじんも混じっている。

 商人たちは、指を何本か()()()()()き出して、どうやらりをしているらしい。調子よく競り落としていく。落札らくさつが決まると笑ったり手をたたいたり、握手あくしゅして終わる。競り落とされた奴隷たちは分けられて又、小屋に追い立てられていく。

 そのうち、寧々が引き出されてきた。

 色白で豊満ほうまんな美人の寧々は、異国人いこくじんから見ても魅力的みりょくてきらしく、皆、目の色を変えて熱心に競っている。

 競りは白熱はくねつしたが、とうとう落札された。

 寧々が小屋に連れて行かれようとすると、

「おいっ、嬶殿かかどの、嬶殿!」

 叫んでいる。

 秀吉が引き出されてきたのだ。

 大暴おおあばれしているが、悲しいかな、非力ひりき詮無せんない。

 そのうち寧々は、引っ立てられて行ってしまった。

 一人残された秀吉は、南蛮人たちに、いい笑いものにされている。言葉はわからないが、馬鹿ばかにされているのはわかるらしく、秀吉は()()()()だが、如何いかんせん、どうにもしがたい。

「何を言っているのかしら。」

 紅がささやくと、

「『こんな小さくて力の無い者は、何の役にもたたないだろう』ってあざけっているのさ。」

 助左が言った。

奥方おくがたのほうが、十倍はいい値段で売れたぞ。」

「へえ。」

 ちょっと見直みなおした。

「わかるんですか?」

「俺、○○○に、大陸たいりくにずっと暮らしていたんだ。親父おやじが○○○だったから。」

「?」

ミン天川マカオというまちがある。親父はItaliano(イタリア人)だった。」

 彼が自分の知らない言葉をあやつっているのが不思議だった。

「そういや」

 助左は紅の顔をまじまじ見た。

「お前も、俺の風体ふうていを見ても全然、違和感いわかんねえみたいだよな。」

「あたしは越後のですから。坊ちゃまみたいな髪や肌を持つ人たちがよく、毛皮なんかを売りに来てました。」

「そっか。」

 ふっと笑った。

「他人にじろじろ見られるのがいやでよ。天川でも、こんな髪や肌の色の人間は珍しかったから。日本じゃ尚更なおさらだしよ。いっつもちゅうぶらりんな気分だった。」

 助左は、視線を奴隷の競りに戻した。

「子供の頃はよくいじめられた。この髪や肌のせいで。」

 お天気の話でもするかのように言った。

「えっ?こんなに綺麗きれいなのに?」

「へっ」

 鼻で笑った。

有難ありがとよ。」

「ほんとにそう思ってますから。」

 お世辞せじだと思われたのだ、と感じた。

「坊ちゃまのこと、素敵すてきだって思ってます。」

 言えば言うほど、うそっぽく聞こえてしまう。

 あせった。

「お前が俺のこと、けむったく思ってるのは、わかってる。」

「……。」

 ふっと笑った。

「奴隷たちを解放するさい、戦いにならざるをねえだろう。お前は又、飛び出して行って、怪我けがするかもしれねえ。」

「御心配有難うございます、でも」

 言いつのろうとする紅をせいして、

「俺が死んじまうかもしれねえし。もしそうなったとき、やっぱり言っときゃ良かったとか思うのはいやなんだ。今回に限らず、この稼業かぎょう、命がいくつあってもりねえんだ。だから、俺は、刹那セツナを生きている。」

 紅を見た。

「俺、お前が好きだ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ