第83話 密林
眠れない、と思いながら眠ってしまったらしく、気がつくと又、日が中天にあった。
昨日漂着したところに行ってみた。
誰か居ないか、何か役立つ物は無いか、ここが何処か、知る手がかりは無いか。
人は全く見当たらなかった。
ここが何処かも相変わらず、わからなかった。
足を伸ばすと、壊れた船の破片が無数にあり、見た覚えの無い箱も幾つか漂着していた。
(先行した船団も犠牲になったのかもしれない)
気がめいった。
中を改めると、刀剣がたくさん入っていた。
刀剣は当時の主要輸出物である。
槍や甲冑が入った箱も見つかった。
銃も数丁入っていた。
(火縄も弾も火薬もある)
油紙にしっかり包まれていて、湿気てなかった。
(嬉しい!)
心強く抱きしめた。
破れた帆布、縄を拾い、鉈や斧の入った工具箱を見つけたときには、天を仰いで感謝した。
別の箱を開けてみた。
鉱物が入っている。
(硫黄と銅だわ)
これも主要な輸出物である。
あとは、水に浸かってぼろぼろになった屏風や欠けた器など工芸品であった。
いずれも大陸との交易に用いられる物だが、当面、紅にとって必要な物ではなかった。
苦労して箱を皆、木立まで引き上げて、茂みの中に隠した。
その後、偵察を兼ねて、食べ物を探しに木立の中に分け入った。
武衛陣から追われて以来の飢餓だった。
(何で、同じことを繰り返しちゃうんだろう)
森の奥まで入るつもりは無かった。
何が出るかわからない。
でも、食べられそうな物は何も見つからない。
もう少し、もう少しと歩くうち、随分奥まで入ってしまったことに気が付いた。
森は深く、得体の知れない生き物の気配で満ちていた。木々は空を覆い、枝からは蔓が垂れ下がって、うねり絡み合っていた。名も知れぬ色鮮やかな花が、枝の間から差し込む僅かな光を求めて、地上ばかりか木の股にもくっついて咲いていた。
ふいに彼女の鼻先を掠めて何かが飛び、昨晩聞いた悲鳴を上げた。
立ちすくんだ。
鳥だった。
(あたしは)
額の汗を拭った。
(居もしない幽霊に怯えている)
その後、細かい棘が付いている草木に注意しながら、枝から垂れ下がっている細い蔓と、細長い木の枝を採り、地面を掘って、ころころとよく太って大きな芋虫を幾匹か採集した。
鮮やかな黄色や赤の実が、木や蔓に成っている。昨日の嵐のおかげで、よく熟した物がたくさん地面に落ちていて、幾らでも拾えたのは幸運なことだった。日本では見たことも無い植物の実ばかりだったが、匂いを嗅ぎ、注意深く味見し、食べられそうな物を選り分けた。
海岸への道を辿った。
木々が空いて足元が段々明るくなっていくと、我知らずほっとした。
いつの間にか肩に力が入っていた。
箱を隠してある茂みの手前で立ち止まった。
何か、いる。