表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火の如く 風の如く   火の章  作者: 羽曳野 水響
47/168

第45話 雪辱

        挿絵(By みてみん)



 三好三人衆は、松永久秀の味方がこもる家原城をまず落とし、京を見下みおろす将軍塚のとりでを炎上させた。そこから二手ふたてに分かれて、薬師寺九郎左衛門を先陣せんじんに、本圀寺へと攻めかかった。

 永禄十二年一月五日。

 矢合やあわせを合図に合戦が始まった。

 寺の周辺には火が放たれた。

 おりからの北風にあおられて、黒煙と炎が渦巻うずまいて、こちらに押し寄せてくる。

 十重とえ二十重はたえと囲まれて、御座所ござしょが落ちるのは時間の問題と思われたが、公方側はよく守った。敵が突入してくればそのたび、押し返した。特に若狭わかさしゅうの活躍は目覚しく、薬師寺軍の本陣に肉薄にくはくして奮戦したが、惜しくも槍を付けられて、次々と戦死していった。

 糸千代丸は、公方の側近くを守り、紅は、明智光秀率いる鉄砲隊に属した。

 平和な現代からは想像もつかないが、当時の寺は堀に囲まれ、石塁せきるいを築き、兵を備えたれっきとした『城』である。

 紅たちは石塁に陣取じんどった。上端の幅が二間{約四メートル}程のものである。ここは重要な防御線なので、僧兵が自在じざいのぼりできるように、雁木がんぎ{石塁の城内側を全面的に幅広い階段状にしたもの}になっている。兵たちは雁木に身を伏せて、鉄砲を構えた。

 光秀は風の向きをみて、発射に最適さいてきな瞬間をはかる。

 彼の合図あいずで、いっせいに撃つ。

 一気いっきに三十騎も、ばたばたと倒れた。

 光秀の指揮は合理的で、状況判断も的確てきかくだ。

 さんみだして逃げまとう敵に、味方の意気いきは上がる。

 が、次の瞬間、光秀の肩に矢が突き刺さった。手にした軍配ぐんばいを取り落として、後ろへのけぞった。

「明智さまっ!」

 紅が駆け寄ると、気丈きじょうに声をしぼった。

「見えますか、あの、赤い旗の下、光っているのが。」

 目をらした。

「はいっ、見えます!」

「敵の大将のかぶとが光っているのです、おそらく。撃てますか?」

 遠すぎる。

 思ったが、同時に口をついて言葉が出た。

「はいっ、撃てますっ!」

 ねらいを定めた。

「あせらなくても大丈夫。落ち着いて。合図します。」

 光秀が頃合ころあいはかる。

 猛風がんだ。

「今です!撃って!」

 引き金を引いた。

 光る物が後方へ吹っ飛ぶ。

 敵の本陣は騒然となった。

 光秀と顔を見合わせて、同時に息を吐いた。

「腕を上げましたね。」

 光秀がめてくれた。

 紅は言葉も出ず、頭を下げると、ひたいの汗をぬぐった。気を取り直して、新たにたまを込めようとすると、誰かが横から新しい鉄砲を渡してくれた。

「ありが……。」

 ふと横を見て、気が付いた。

「猿!」

 紅が居る塀の内側にも、うなりをたてて矢が続けざまに飛び込んでくるのに、猿若はにこにこしている。

「お久しゅうございます。」 

 朝の散歩の途中で、たまたま出会ったかのように、穏やかに言った。

後詰ごづめが近づきつつありますので、お知らせに参りました。」

 三好勢が攻めあぐねている間に、鞠の知らせを聞いて、摂津せっつの豪族たちが兵を率いて駆けつけてきたのである。

 摂津軍は、三好勢と桂川で激突した。

 援軍は真冬まふゆ強行きょうこう軍で疲れきっていたが、黒煙を上げて戦った。伊丹いたみぜい奮戦ふんせんで、高安権頭ら敵の猛将を次々に討ち取った。

 東寺とうじでも近江おうみぜいが対戦し、敵八百騎を討ち取った、との知らせを公方が受けているところへ、囲みを破って三好の決死隊が突入してきた。

 光秀の隊も駆けつけて、乱闘になった。

 公方が逃げようとして、つまづいて倒れた。

 糸千代丸は、身をていして公方を守ろうとした。

 白刃はくじんが、二人の頭上に振り下ろされようとした、瞬間。

 相手の首がすっ飛んだ。

 部屋に飛び込んできた男が、抜く手も見せず刀を振るったのだ。

 首の無い身体が、飛沫しぶきらしながら、どうっと倒れた。

「待たせたな。」

『彼』は言った。

上総かずさのすけさまっ!」

 光秀が叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ