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第22話 珍客
明けて永禄八年の正月元旦、珍しい客人が、年賀の挨拶に武衛陣を訪れた。
南蛮の坊主が二人、二十人ばかりの信者を引き連れて、輿に乗ってやってきたのである。
一人はあちらの法衣に黒い頭巾を被り、もう一人は着物を着て、その上に羅紗の合羽を羽織っていた。
二人は大広間で義輝に謁見して賀詞を述べ、その後、慶寿院の元で饗応を受けた。
紅も給仕の手伝いに駆りだされた。
糸千代丸は、紅が初めて南蛮人を見てさぞかし驚くだろうと期待していたらしく、彼女の顔を盛んに伺っていたが、案外平気な顔をしているのを見て、がっかりしたようだった。
確かに、南蛮人自体には驚かなかった。でも饗応の場で披露された、坊主たちが持ってきた贈り物には、目を見張った。
大きなガラスの鏡、大きな鳥の羽のついた奇妙な帽子、こっくりとしたセピア色に輝く琥珀、良い匂いのする麝香、これは鹿から取れる香料なんだそうだ。
海の向こうには珍しい物が一杯ある。
それが彼女が南蛮人から学んだことであった。