第114話 Virginia
人買いの島で、壊れた個所を修理して、帰路についた。
途中、琉球に寄り、トーマスを下ろした。
琉球には、中国からの船がたくさん入っている。ここからイギリスに戻るというのである。
再会を約して別れた。
トーマス・ハリオットは、この後も多方面で活躍した。
新大陸で植民地を調査した。
今のVirginia{意味は処女地}である。
その分け隔ての無い性格は変わらず、原住民との友好関係を築いた。
その過程で原住民の言語の記録のため、独自の表音記号を発明した。
だが、植民地の支配者の傲慢な施策で、原住民との友情はぶち壊しになってしまった。
いつも前向きで明るい人だったが、このときばかりは嘆いたという。
その後はイギリスに戻り、望遠鏡を使って天文学上の幾つもの発見をした。
主なものを挙げると、太陽の黒点の発見からその自転を導き出し、ガリレオが発見した木星の衛星を確認した。
望遠鏡で月を見た最初の人となり、月面地図を作ったのは、ガリレオより早かった。
屈折光学の『スネルの法則』{屈折の法則}を、スネルより二十年早く発見した。
ハレー彗星を発見し、その軌道を導き出すのに貢献した。
弾道学を研究し、軌道は放物線になると結論した。
実に二十世紀まで結論がでなかった原子論{全ての物質は『原子』で構成されているととする仮説・理論・主義}を擁護する立場を取った。
今日、私たちが学校で習う代数計算の表記法も、彼が整理したものである。
彼が発明した代表的な記号に、<と>がある。
かように素晴らしい成果を挙げながら、彼が、あまり世に知られていないわけは、本を少ししか書いていないせいであると思われる。
彼は、新大陸で煙草を知り、健康にいいと信じて手放さず、最後は癌で亡くなった。史上初の喫煙による癌の死亡者ではないかと言われている。
自分の財産を、最後まで自分の面倒を見てくれた召使たちに残した。召使がチップを貯金していたのを頼まれて預り、最後に返してやった。サー・ローリーの莫大な財産を預かっていたのと等しく、誠実な態度で。
彼の座右の銘は、
『まったく何もしないよりも、何にも値しないことをするほうがいい』
というものであった。




