第113話 結着
しかし、抵抗もここまでだった。
接近したので、敵の砲弾の命中率も格段に上がる。
銃弾は船端を穿ち、帆から滑って落ちてきた砲弾が船体に命中して、カノン砲を操縦不能にし、海賊を一人死なせ、三人に怪我を負わせた。側で指揮していた伊之助老人も肩を負傷し、兎丸は、飛んできた鉄片を避けようとして、真っ逆さまに海に落ちるところだったのを、レヴロンが、ひょいと手を伸ばして足を捕まえ、船端から引き上げた。
突破口が開けた、とばかりに、壊れた個所に、スペインの船が、側面をぶつけてくる。
スペイン側でも特に勇敢な兵士たちが、ラ・ロンディネ号に乗り込んでこようとした。
「おお、待ってたぞい!」
シオコが塩辛声で言った。
「暇を持て余してたんじゃ。」
シオコが軽々と振るう大薙刀で、スペイン兵は、船端に足を掛けた途端、真っ二つに切られるか、跳ね飛ばされて宙に舞うことになった。
そのシオコを狙って、スペイン人が鉄砲を構えた。
が、ぐっといって鉄砲を手放すと、のけぞって倒れた。
その顔面には、レヴロンが投げた大きな鉄球が命中している。
助左がすかさず舵を切り、ラ・ロンディネ号は辛くもスペイン船から逃れた。
無傷の三隻のスペイン船に追いかけられて、ラ・ロンディネ号は、湾の奥へと再び追い詰められていく。
崖の下へ差し掛かった。
スペイン船は、三方から囲んで、大砲を放とうとした。
その瞬間、頭上から、巨大な岩が、雪崩のように降り注いだ。
見上げると、崖の上から、原住民が、投石機を使って、岬の突端に立つ女の合図で、岩石を落としている。
甲板が、落ちてきた岩や石で一杯になって、三隻のスペイン船は航行不能になった。
「やった!」
こちらの船上で、シオコと手下たちは喜びの声を上げた。
「宜しゅうござったな。それでは、御免。」
傍らに立つ秀吉の合図と同時に、レヴロンが、シオコの身体に手を掛けて横抱きにすると、海に放り込んだ。
海賊たちは、同じく虎之助たちに抱えられて、海に放り込まれた。
シオコたちは泳いで、仲間の舟にたどりついた。
それを見て取った女は、目も眩むような断崖絶壁から、身を躍らせた。
身体が、どぼん、と沈んで、暫く姿を現さなかったが、ようやく浮いてきて、抜き手を切って泳ぎ始めた。
だが潮の流れが速いうえに、スペイン船から鉄砲を雨のように撃たれて、なかなか前に進まない。
そのうち疲れてきたのか、何処か怪我をしたのか、波間に姿が消えた。
その途端、ラ・ロンディネ号の甲板から、助左が海に飛び込んだ。
ざばん、と海に潜ると、こちらも姿を現さない。
皆がはらはらして見守っていると、ふっと船の際に姿を現した。
忽ち、縄梯子が海に投げ入れられ、気絶した紅を担いだ助左が上がってきた。
背中を押して活を入れると、がばっと水を吐いて蘇生した。
「置いていってくださってよかったのに……。」
紅が空ろな目で言うと、助左は怒ったように、
「俺の船じゃもう、誰も死なせねえ!」
後は任せた、と鞠に言うと、
「船を出す!」
急いで手下と、持ち場に散った。
林鳳たちの舟も半分に減ってしまったが、外洋目指して去っていく。
向こうの舟で、シオコが大きく手を振った。歯を見せて笑っている。
秀吉たちも手を振り返した。
こちらの船も、ゆっくりと動き始めた。
遥かなる日本を目指して。




