第110話 壺
助左は、船に積む荷を点検したが、幾つかの物に、目を留めた。
「鹿が居るんだ。」
鹿皮を手に取って、言った。
傍らで手伝っていた紅が、
「森の奥に、群れで居ます。小さいけど、たくさん。」
「これは、なかなかいい皮だ。」
助左は言った。
「鹿皮は軽くて丈夫だから、武具や甲冑によく使われる。今度来たときには、ぜひもっと持って帰りたいな。」
紅が抱える壷に目を留めた。
「それは何が入っているんだ?」
「水、です。」
振ってみせた。
たぷたぷいっている。
「口が狭いから、船が揺れても毀れにくいし、密閉されているから、中身が傷みません。」
「貸してみろ。」
ためつすがめつした。
「ふむ。」
興深そうに何時までも離さない。
「これは面白い。」
何処が面白いのか、紅にはわからなかった。
粗い赤褐色の素地に、薄飴色の釉薬が淡くかかっている。ざらざらとした肌は艶が無い。大きい割りに軽くて、小さな耳が二つ、飾りに付いている。殆どの壷の底は、へこんでいる。よく読めないながら、字印が付いている。
「実用的っていえば、実用的ですけど」
紅は言った。
「面白いってほどでも。」
「これは、ここの産では無いかもしれん。」
助左は、紅の言葉なぞ耳に入っていないらしい。
「そういえばこの島は、中国人が商売で、よく訪れているようだな。これも元々は、中国産なのかもしれない。」
独りごちた。
「挨拶に、顔を出すか。」