表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火の如く 風の如く   火の章  作者: 羽曳野 水響
105/168

第103話 シオコ

       挿絵(By みてみん)



 身柄みがら拘束こうそくし、労働をいているくせに、塩五郎太夫は、助左たちに対して、なん屈託くったくい。同じところで生活しているのだからそく、仲間だと信じきっているようなふしさえある。

 彼は一応いちおう、この大海賊団の副将ふくしょうだというのに、関羽髯かんうひげやしたしの立派りっぱさに似合わぬこの気軽きがるさはどうであろう。そういえば他にも何人か日本人もいるようだが、中国人たちに混じっても、何のへだてもである。

 海賊たちは皆、塩五郎太夫のことを、シオコ、シオコと呼ぶ。

「いや、拙者せっしゃの名は、連中れんちゅうにとって、長すぎるようでござる。貴殿きでんらも、そのように呼んでくださってかまわぬ。」

「貴殿はどうも、かような場所にふさわしい御仁ごじんには見えぬが」

 秀吉が尋ねた。

一体いったいどういう経緯けいいで、海賊の仲間に加わりなすった。」

 元々(もともと)は、山陰さんいん地方をりょうする山名やまな氏の家臣かしんで、因幡いなばだという。だが国人こくじんの勢力が強くなり、主家しゅかの勢力はおとろえ、混乱の中で、牢人ろうにんすることとあいなってしまった。

 塩一族は、生業なりわいを、海に求めることとなったのである。日本海側は、大陸に近い。

 この頃はまだ、身分制度もゆるやかだ。百姓出身の秀吉が武士に成り上がったように、武家ぶけにして商人、という人物も珍しくなかった。

 そのうち、中国の商人ともつながりが出来た。

 それが、

外洋がいようでは海賊をしておりましてな。」

 つまり貿易商人にして海賊、というやからだったのである。その仲間になって、いつのにやら海賊、しかも伝説の海賊と呼ばれる林鳳の副将にまでのしあがった。これは彼の、こだわりの無い性格によるところも大きいだろう。

「海はいい。」

 シオコはガハハ、と笑った。

何処どこの国からも自由だ。」

 当時、領海りょうかい、という概念がいねんは無い。

「拙者、この稼業かぎょうを始めてからというもの、仕える主君しゅくんに頭を下げることが、つくづくいやになりもうした。」

 昔、港町は平和であった、と、この海賊は言う。

「皆、港に入る目的は、交易こうえきでありましたからな。」

 商人は皆、国の力を背景に持たない。

 それが、スペイン人が来てからというもの、変わった。

彼奴等きゃつらは上陸すると、とりでを築き、原住民を支配しました。」

 本国ほんごくの力を背景に、よその国に領土を持ち、そこを足がかりに支配を広げていくのが彼らの常套じょうとう手段しゅだんだ、というのである。

「しかも彼奴等は、宗教によって心まで支配しようとする。教会は領土を持ち、裁判権までゆうします。一国いっこくぬしなんら変わりは無い。」

「どうして彼らは、このような未開みかいの地を求めるのでしょう?」

 佐吉が聞いた。

「この地には、特に名物めいぶつといえるものはござらぬ。」

 シオコは言った。

「ただ、ここは足場あしばとして重要です。何故なぜなら彼奴等は、海をへだてた地にも、大きな領土を持っておりますでな。」

 新大陸を支配したスペインは、銀山ぎんざんゆうした。ちょうどその頃、『アマルガム法』という新しい精錬せいれん法が開発され、銀の輸出は飛躍的ひやくてきに伸びた。スペインは銀を中国に持って行き、中国産の生糸きいと絹織物きぬおりものを購入した。

 フィリピンは、スペインのアジアにおける基地として重要な役割を果たすことになったのである。

「彼奴等は、我らと違って、遠くまで航海出来る船を持っております。」

 シオコは言った。

「そのうち日本も、補給地ほきゅうちとして求めるかもしれませんな。」

 秀吉は興味深そうに話を聞いていた。

「いやはや、面白おもしろい話をたくさん聞かせていただいた。我らも、貴殿きでん助力じょりょくしまない。」

「あんなこと、言っちゃって。」

 鞠が紅にささやいた。

大丈夫だいじょうぶ、ですかね。」

「信用をて、油断ゆだんさせるつもりよ、きっと。」

 紅は言った。

「それにしても、織田家中(かちゅう)では出世頭しゅっせがしらで知られる男よ。エスパーニャと実際戦ったら、どうなるのかしら、ものよね。」

 その機会は、そう遠からずやってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ