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えふらんく★らばーず  作者: 細茅ゆき
1.足緒高校歴史研究部へようこそ!
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翠風スクールロード

 私こと矢ノ崎(やのさき)飛鳥あすかは、中学時代の同級生にしてクラスメート、三郷みさと美里みり(通称ビリ子)と共に、自転車で林道を走っていました。


 小高い山に囲まれた、北関東の扇状地せんじょうち

 その西側に建つ県立足緒(あしお)高校までの道は、ただひたすらの登り坂。

 向かい風にセーラー服の襟をなびかせ、新緑に包まれた車通りの少ない道をのぼっていきます。


 そんなさわやかな朝の時間。しかし二人の間に交わされていたのは、例によって例の事件。


「まあ…それは…傷ついただろうね、遙平ようへい君は」


 立ちこぎしながらヒーヒー言ってる私と違い、変速機つきの自転車に乗るビリ子は、とても涼しい顔をしています。なんと小憎らしいことでしょう。


「勇気を出して告白したのに、よりによって無言だよ。ボクだったらショックで立ち直れないよ」

「でも…、フッたわけじゃないし。ただ返事しなかっただけだもん…」

「アスカがそのつもりでも、遥平君がフラれたと思っていたら一緒じゃない?」


 あまりの正論に、ぐうの音も出ません。


「遥平君は思い込みが強いからね。フラれるとさえ思ってなかったかも。無言で態度保留されるなんて、想定外だったと思うよ」

「遥平君のこと、よく知ってるんだ」


 ビリ子はほんの少しだけ口をつぐんで、


「小学校から同じクラスだったし。多少はね」

「ふうん…」


 ビリ子の言う通り、遙平君は、私の曖昧なリアクションのせいで傷ついたかもしれない。だけど私だって、無傷だったわけではありません。


 ビリ子に言われるまでもなく、ちゃんと返事ができなかったことを、私はずっと悔やんでいました。


 その場でOKと言えなくても、自分の本心をうまく伝えられたのなら、この通学路もビリ子とではなく、遥平君と走っていたかもしれません。


 だけど、あの時の私は、その方法を思いつけませんでした。

 今でもどうすれば良かったのか、分かりません。


 遙平君に嫌われてしまったかもしれないと思うと、胸がキューッと苦しくなります。

 この気持ちをどうすればいいのか。もてあましてしまった私は、今日もビリ子に愚痴ぐちをもらすのでした。



 県道と交わる交差点で、赤信号に止められました。

 この交差点を渡れば、目指す学校はあと少し。

 桜の花びらが、春風に乗って舞っています。きっと、高校の桜並木から運ばれてきているのでしょう。


「でね、今度はアスカの方から…」

「うん…」


 と、今後について話している私たちの隣に、スポーティな自転車が止まりました。確か、クロスバイクという種類の自転車だったはず。


 あまり他人に聞かれたくない話です。思わず会話も途切れます。


 クロスバイクに乗っているのは、フチ無しメガネをかけた学ラン男子。風に撫でられてきたのか、髪はちょっとラフなカンジ。スラッとした長い脚が、彼と自転車を支えていました。


 なんとなしに顔を向けると、彼もこちらにチラッと視線を向けてきました。

 瞬間、彼は身体を反らし、「あれぇ?」という声をあげました。


「恋愛に悩んでた窓際女子だ!」


 え? 知り合い?

 小首をかしげると、「オレだよ、オレ!」と詐欺師みたいな自己アピール。

 言われてみれば、どこかで見たことのある顔です。


「隣の席じゃないか。夏梅なつめ隼斗はやとだよ」


 ああ、そうでした。メガネをかけているから、分かりませんでした。


「学校始まってもう三日目だよ、隣の席の顔くらい覚えてよ」

「あなただって私のこと、『恋愛に悩んでた窓際女子』って言ったでしょ?」


 夏梅君の偉そうな抗議に、私もつい言い返してしまいました。


 だけど、


「オレはちゃんと、キミの名前覚えてるよ」


 彼は自信ありげに、ニッと笑いました。


「窓際トト子ちゃんだよね?」

「ちがうわ!!」


 信号が青に変わると、「アッハハ、また教室で~!」と笑い声をあげ、夏梅君のクロスバイクは去っていきました。


 なんと、なれなれしい男でしょう。ムッときました。


「でもさ、夏梅君って、ちょっといいかも?」


 私たちは、同時にペダルをこぎはじめました。


「気にいったの? ビリ子?」

「そういうわけじゃないけど。ああいうタイプの男子って、女子からの人気があがりそうじゃない?」

「どこが? あんなヤツ!」

「ほら」


 ビリ子がピッと、私の顔を指さしました。


「そんなに親しくないはずのアスカに、『あんなヤツ』って言わせてる」


 何かいけない事を言ったのかも。思わず手で口をふさいでしまいました。


「フフン~」


 それ以上言葉をつむぐことなく、ビリ子は機嫌よさそうに鼻歌交じりにペダルをこいでいます。してやったり、とでも思っているのでしょう。小癪こしゃくな女です。こちらも「フン」と、鼻を鳴らしてやりました。


 目指す校門は、もう少しです。


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