8
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ひどく、頭がぼんやりとする。微睡みの中にいるような感じだ。
今がいつなのか、そう考え始めた時と今では、既に随分の間が経っているのかいないのか。
毎度のことながら、夢から醒めた、いや、まだ半分夢をたゆたっているこの感触に慣れない。
ー 慣れたくはない。
この感覚があるという事は、今回もまた、私の願いは叶わなかったのか。
ー もう、誰も失いたくない。
それが無理なら私を ー。
いつものように、冷たい空気の満ちた部屋に、少女は鎮座している。無表情に佇むことが多かったとはいえ、今はまさに虚ろな人形のようである。
瞳は宙を見ているが、何も映していない。
あの子の笑顔を最期に見たのはいつだっただろう。
もう、数日は見ていない気がする。
死期が迫るにつれて、あの子は怯えてしまった。
せっかく仲良くなれたのに。
ただ、わたしの機嫌を取っていれば生きられるかもしれないという、一縷の望みで、あの子は私に話しかけていた。
だが、怯えているのは目に見えた ー いや、普通なら隠し通せたかも知れない。怯えを見慣れた私は、見抜いてしまう。
心からの、私の好きだった笑顔は、見れなくなってしまった。
あの子との最後の記憶はなんだろう。
いつも、最期は曖昧なのだ。眠る瞬間が分からないように、事の前後は、はっきりしない。
もちろん、最中の記憶もない。
それが救いと言えばそうなのだけれど。
空を見やると、限りなく丸に近いが、これから、欠けていく月が嗤っている。
今日に限っては、鈴の音は鳴らない。今はまだ、抑えつける必要がないからだ。
そして、また鈴は響き、その音を増して、今日を繰り返すのだろう。
ー 人の命を貪りながら、私だけが一人、生きていく ー。