29.1
基本的に1日を士郎と過ごす事は聞いている。朝餉を食べたらすぐに向かうとの事である。
それが、何故だかすごく待ち遠しい。
今までこんな気持ちになる事はなかった。そう、今までの、贄と呼ばれる者たちとも、もちろん長い時を過ごした。けれどそれは苦痛だった。
初めのうちは、なんとか生き延びようと腫れ物に触れるように機嫌を伺ってくる。眼に映るものを手当たり次第に褒める。私の容姿、着物、しまいには床の板の枚数が吉数だとか。その下卑た上部の言葉は、贄ごとに幾度と聞かされた。
私の心を開けば、殺されないで済むかもしれない。皆、そう思い、いや、そう言われているのかもしれない、必死になって言葉をかけてくる。実際には解決策は見つかっていないのだ。心を開く事が答えでは無いと思う。
それならばとっくに殺戮は終わっている。
可愛がっていた猫の首、初めてできた友達の転がる目。
意識が戻ってきた時に、最初に捉えるそれらは私に絶望を与えた。
どうして。どうして、あんなに好きだったのに。ずっと一緒にいたかったのに。壊してしまうの?誰がこんな酷い呪いを与えたの?私が何をしたっていうの?
誰かが殺したならその犯人を憎み、私は怒りをぶつけられる。しかし、はっきり覚えが無いとはいえ、手に残る血と、ぼんやりとした肉を刻んだ感覚、高揚感が残っている。
私がしたという事は確実で、私は私を恨むしかなくて、でも自分で止められないことで。
私は、私が憎い。気が狂いそうだ。




