28 2日め 士郎の朝
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各々の気持ちなど、誰も知らない。
誰が笑おうが、そして死のうが関係なく今日がやってくる。
空は雲を薄く端に少し延ばすばかりで、青く澄んでいる。
初めて城に踏み入った時、処罰を受けに行くというのに新しい環境、見慣れない立派な建物に不覚にも心躍らせてしまった。
やはり、気楽に捉えていたのか、いや、気が張っていたという方が正解だろう。頭に血が上っており、嵌められて捕まった事や、子供たちをどうすれば護れるか、そんな事ばかり考えていた。
いっそ、そのまま殺されていれば良かったのかもしれない。子供たちのためだ、強い意志のまま死ねたなら潔いものだっただろう。
だが、死ぬまでに猶予があるとどうだろう。子供たちを護りたい、その思いだけが頭を占めてくれない。
死にたくないとか、どうやったら逃げられるかとか、そもそもなんで俺だけがこんな目に遭うのだとか、だんだんと暗く情けない気持ちが覆ってくる。
そして、あの姫だ。
もっと悪人なら良かった。誰が見ても嫌な奴で、こいつさえいなければ国が平和。そんな姫ならば。
姫は世間知らずではあるが、優しく可愛らしく笑う、町の子たちと変わらない、いや、それ以上に純粋で素直な良い子、そんな印象を受けてしまった。
己の身が可愛いのは勿論だが、単純に姫が居なくなればいいともとても想像できない。
一晩考えながら寝たものの、結論は出ないままである。
「おい、時間がないぞ。」
考えを晴らすように顔を何度も洗っていたので、下人の男にせっつかれた。
顔を洗い、朝餉をいただいた後、新しい着物に着替えさせられて姫の元へ向かう。
毎日、着物を変えるなど初めてのことだ。
生贄は危害を加えそうにない限りはなるべく姫の側にいなくてはならない。なので、早く身支度を整えなくては。
長い時間、姫と居ることで姫に与える影響を大きくするためのようだ。何が要因か分からないので、あらゆる手段を尽くして殺戮を止めたいということである。
これは、双方、非常に辛い処遇だ。
人というものは、一緒にいる時間が永いほど、愛着を持つ。よほど馬の合わない者を除いて。
奇しくも、昨日だけで姫と気が合う方だと分かってしまった。
姫にとっては仲良くなる者を手にかける苦しみ、こちらにとっては親しい者から裏切られ殺される苦しみがある。殺戮時には姫に自覚がないのだから、裏切りではないのだが、親しくなればそう感じてしまうだろう。
重い気持ちを拭えないまま、身支度に歩を進めた。




