16.2
「ここだ。」
最上階に着き、鉄の扉の前に促された。鉄は随分の年月を吸っていて、黒くなっている。襖のように横滑りして開く扉だ。
扉の重なりの中央に鍵穴が開いている。中がどのようになっているかは分からないが、こんな牢屋を彷彿とさせる部屋に姫がいるのか。鍵までかけられて。
豪奢な城に住まう者、ましてや王家の者など、何の不自由なく暮らしていると思っていた。
しかし、目の前の事実は、自分がいかに無知で浅はかだったと知らしめる。
中には姫がいる。そして、自分はその姫に殺されるという。一体、姫はどのような人物なのか。今までに味わったことのない緊張が背中を伝う。
ふさが、扉の鍵を開け、右横に滑らせた。
ダンと重い音が響く。
暗い扉の先は思いの外、明るく、奥に少女が座っていた。窓から光が差し込んでいる。
だが、少しひんやりとした空気が身を重く包む。
部屋はかなり広い。8畳間を3つ繋げたような大きさである。
少し、異様なのは黒光りする板間で部屋が覆われていることだ。
大抵、こういう部屋は畳張りで壁面も明るい色を用いる。
だが、ここは壁も床も天井も真っ黒だ。畳は奥の少女が座っているところに申し訳程度に置かれているだけだ。板間の上に3畳ほど敷かれた畳の奥には蛇腹折りの金屏風が置かれている。
全てを黒の板間にしているのは、恐らく汚れ、特に血痕を落としやすくするためだろう。また、血は固まると黒くなる。その落ちなかった汚れを誤魔化すためにあるのだろう。
金屏風と一段高い畳、その上に鎮座する少女。少女は金の冠に赤の打掛を着ている。
その姿は雛人形のようだ。
しかし、お内裏様もなく、一人ぼっちの様は、冷えた空気と相まって非常に裏寂しさを感じさせるものとなっていた。
また、彼女は口を固く結び、板間の中間辺りをじっと見ている。こちらは見ない。無表情な姿は、本当に人形なのではないかと思わせた。
ふさが、声を張る。
「月姫様、新しい罪人連れてきました。」
凛とした声で、用を伝えたあと、深く一礼をする。つられて、俺も頭をさ下げる。
ふさが名乗れと言っていたので、
「私は、士郎と申します。よろしくお願いします。」と、手短に挨拶をし、頭を下げた。
顔を上げると宙を見ていた少女がこちらを見ている。その瞳は険しい。




