12.2
土牢は、捕らえたばかりの盗賊を放り込んでいたようなところだ。
急ごしらえの牢屋だが、だからこそ牢屋としての役割は強い。荒い手掘りの壁は不安を与える造形である。土を掘るので、低い崖の下などに設けられる。
必然、外気より低く、湿っている。異形に近い蟲が蠢き這っている。じめっとしたところの蟲はどうして、脚が多いのだらう。進路を変え、進む際にも後ろの脚が、まだ前の道を空踏みする。
その舐めるような動きが、精神を減らしていく。
外界とは違う空気を纏ったその地は、異様に心細さを加速させていく。
ー ー そんなところへ、少女を1人ずつ閉じ込めることが最後の試験である。
昼食を食べた後、すぐに放り込まれる。そして、
「誰が来ても口をきいてはいけない。」
これが、試験内容である。口を開いていいのは、この牢を出てからであると。
過酷な牢に入れられただけで、泣いてしまう者もいたらしい。
それでも、職のために少女達は耐えた。百足が足元を掠めても、堪え忍んだ。
そして、時間は過ぎていく。脱水を起こさないために水だけは用意されていたが、それ以外は何もない。
用を足したくなったものは、屈辱に耐えながら、端を厠とした。
長い時間が過ぎ、夕刻となっても何も音沙汰がない。
日が陰るとともに、不安は煽られていく。
まだ、年端もいかない少女たちは、このまま、出してもらえないのではないか、忘れられているのではないか、と急激に心細さを感じ出す。
そんな時に
「大丈夫かい。まだ、耐えられるかい。」
と、少女の母が顔を出すのだ。
「もう、辞めてもいいんだよ。辛かったろう。」
このまま死ぬのではないかというところに、母が現れる。これほど、安堵を得ることはない。
多くの少女が、泣き、母に助けを求めた。
ー ー そして、大半の少女がここで脱落した。
誰とも口をきいてはいけない。
簡単なことのようだが、極限に追い詰め、母を登場させる。そして、母にも娘が話すように命じている。
大方、母には娘に返事させることが正しいように伝えているのだろう。そうしなければ、少女を試すことにならないからだ。
極限に追い詰められた後の、会話を見たいから、優しく、娘が話しやすいように声をかけろとでも言われたのだろう。
なんとまあ、卑劣な手であろうか。
だから、私が母が来ても声を全くあげなかった時、母はだんだんと焦って、そして怒りの眼差しを私に向けたのだ。
しまいには、役立たずが!と罵っていた。
元々、母には真ん中の不出来な私が要らなかった。
だから、私は母を慕う気持ちもなかった。
それだから、この試験は上手くいったのかもしれない。
大好きな母だったら。
試験内容も忘れて、飛びついていたのだろうか。
たとえ、試験では不正解でも、その方がずっと幸福なことに思える。
この段階で、私ともう一人が残ったらしい。
すっかり日が暮れた頃、最初の試験官が牢の前に立ち、試験を命じた時とは一転して、優しい声色で
「よく頑張ったな。これで試験は終わる。どうだ、きつかったか?」
と尋ねた。
そして
ー 「はい。辛かったです。」
涙をこぼして、答えた。
そして、もう一人の少女は試験に落ちた。
私は、捻くれているのだろう。
無言で、試験官を睨みあげていた。
こんな試験を科すのは、よほどの意図があるのだろうが、酷な仕打ちをするものだと、そんなことばかり考えていたからだ。
試験は、誰が来ても口をきいてはいけないというもの。
ということは、あの手この手を使って、口を聞かせようとしてくるはずだ。
気力を失わせる土牢に入れてのことだ。大方、不安が安心に変わる時が狙い目だろう。
そこまで、考えていた。
だから、母が来た時は、一般的な少女になら、なんと難題なことをさせたのかと思った。
そして、最後に試験官が声をかける。
もう、試験は終わったと思うから、思わず声も出るだろう。
その上、相手は試験官だ。丁寧に応対をしなければならない相手を無視することはできない。
ー ー 普通ならば。
試験官は、はじめに言っていた。
口をきいてもいいのは、牢を出てからだと。
ならば、牢を出る前に試験官が何を問いかけようと答えてはいけないはずだ。
ここまで、試すのかと、私は睨み上げてしまった。
もっとも、それが無礼であったとしても正解に辿りつけた者が私だけだったので、多少は目を瞑ってくれたのかもしれない。
こうして、私 ー ふさ は宮仕えの下働きとなった。




