21 新入生合宿1日目 XIII 『発現』
「.........」
これから自分の『異跡』を使うという緊張が全身をこわばらせる。張り詰めた空気を肌で感じ、思わず燎平は喉を鳴らした。
皆の視線が集まる中、これだから最初は嫌なんだよと駄々をこねたくなる気持ちを押さえながら目の前のアミュールと彼は向き合う。
「...うん、準備できたかな。それじゃあ、まずはさっき渡したキューブを掌に乗せて利き腕を前に出してください」
「......」
言われた通りに掌を上に向ける形で右手を前に出す。彼女にいつになく真剣な口調に、燎平も口端を引き締めた。
「それから、自分の中にある『異元』...感じてる?それを、腕に流してみてください」
「え...流す、っつっても......」
(確かにそれっぽいのは感じるけど、自分の意思で動かせるものなのか...?)
ちらりとアミュールに視線を向けるが、彼女はただニコニコと微笑んでいるのみ。
どうしようもないやるせなさ感じながら、顔をしかめつつ取り敢えず燎平は言われた通りにやってみる。
「…………」
『異元展開』したことによって、『裏側』に入ってから感じていた自分の中にある『異元』のイメージが幾分掴みやすくはなった。
煙のように朧げではあるが、確かにちゃんと存在しているのがわかる。それを何とか右腕に集めようと、イメージしながら『異元』を動かす燎平。
「...そう、そんな感じで、あ、ぐいぐいって押し込める感覚もそうだけど、力んで無理に動かそうとしないで、『異元』に少しずつ行き先を与えてあげるの」
彼女の『『異元感知』』が凄まじいのか、こちらがどういうイメージで『異元』を動かそうとしているかさえアミュールに逐一拾われている。
(む、くぅ.........)
案外、『異元』の操作が難しい。少しでも気を抜いたらすぐに身体の中心に『異元』が戻ってしまいそうである。まるで身体の中心に固定されている弾性の高いバネを無理矢理右腕に向かって伸ばしているようだ。
燎平が苦戦している中、的確な指示をくれるアミュールの『異元感知』の精度に驚く余裕がない程彼は集中していた。
そして数秒後、ようやく前に出している右手に『異元』が到達する。
その瞬間、『異素』のキューブが発光し弾けたかと思うと、掌から勢いよく炎が吹き出した。
「うおぉおおっ!!?」
突然の出来事に完全に腰を抜かし、尻餅をつく燎平。
何か起きるとは思っていたが、まさか身の丈ほどの高さまで炎が出るとは想像すらしていなかったのだ。
彼のはじめての『異跡』である火はすぐに消えたので良かったが、もしそれが継続し、そして結界がなければ周りに被害が及んでいたかもしれない。
「うん、やっぱり」
「ああ、『生成型』の『火』だな」
サーチスの目が淡い紫色に光る。精査の『異眼』が発動しているサインであった。
彼女の隣にいるアミュールも『異元感知』で燎平の『異跡』を感じとる。
「私もサーチスも、実は皆がどんな『異跡』を持ってるか分かってるんだけど、やっぱり自分の目で確かめて欲しくて。燎平君は一番スタンダードなやつだね」
「い、一番普通...」
『生成型』は数ある『異跡』の中の七割を占め、火はその中でもよく見られる四大元素の一つである。
『生成型』の中でも、火の『異跡』はその名の通りトップクラスの火力を持つが、その分燃費が悪い事で有名だ。
搦手や小細工を用いながら戦うというよりかは、力技の正面突破や大技で勝負をするスタイルである。
「だが少年、同じ種類の『異跡』だからといって全てが全く同じではないのだよ。私やアミュはそういうのに過敏だが、それぞれ個人で異なる『異元』の『型』を有している。その型次第で、同じ火の『異跡』でも出来る事は違ってくるという事さ」
「そうそう、一番使われてる『異跡』だからこそその数だけ工夫の仕様もあるってね!どんな風に燎平君の『異跡』が変わっていくのか楽しみだなぁ」
サーチスに加え、結界の中から手を引いて彼を外に出しながらアミュールは笑顔で鼓舞した。
「は、はぁ...どうも...」
一応笑みを作り、頭を下げた燎平は後頭部を掻きながら一応結界から少し離れた、暁達のいるところに戻る。
や否や、来飛が前のめりになって目を輝かせてきた。
「オイオイ、火出せるようになったのかお前!すげぇ!すげぇカッコいいじゃんよ!!」
そう、普通だなんのと言われたが、そんな事は割とどうでもよかった。
燎平も自分の右手をまじまじと見ながら、先ほどの光景を思い出し胸を躍らせる。
(火を操れる能力...!ふおお...かっけえ......!)
ありふれた少年なら誰しも夢を見る火を操る能力。『異怪』どうこうは今は置いておいて、その力を手に入れて喜ばない方がおかしいというものだ。
少年達がキャッキャとはしゃいでいる側で、紅一点である美紋はあんなになるものなのかと呆れていた。
そしてタイミング良く、彼女にアミュールからの指名が入る。
「次は...美紋ちゃん、お願いできる?」
「え、は...はい...!」
自分の番が来た、と緊張からか美紋は若干固い声音で返事をする。
そして言われるままに結界に入れられ、先程の燎平と同じようにアミュールの指示に従った。
(私にも...自分の『異跡』が...…)
男共みたいにあからさまにテンション上がったりはしないが、彼女にとっても確かにこれ以上なく新鮮ではあった。
また『異怪』達と相まみえるのはまっぴら御免であったが、それはそれとして自分にどんな『異跡』が使えるのか興味が無いわけではないのだ。
純粋な興味と皆やってるからという義務感が混ざった心境で、美紋は『異元』を前に出した右手に込める。
すると、燎平の時より少し早く『異跡』の効果が現れた。
「わっ、ひゃっ」
白いキューブが変化したのは、噴水のように上に打ち上げられた水。
辺りが水浸しになる前に、その水に含まれる彼女の『異元』が切れたのか数秒で消滅した。
「…うん。彼女のは『生成型』の『水』だな」
『生成型』の水も、火と同様によく目にする『異跡』である。
水の『異跡』の特徴は燃費と攻防のバランスの良さにある。
すぐに消えてしまいがちで、どちらかと言えば一発屋である火の『異跡』とは対照的に、水の『異跡』は一度作ってしまえば何度でも再利用できる。
そのためかかる『異元』も節約でき、流体なぶん形に囚われないため攻めも守りもその使い手次第という正に発想と応用力が試される『異跡』である。
しかし、そのぶん扱いが難しい。少しでも集中力を乱せば、特定の形を保っていられなくなってしまう事がよくあるのだ。
美紋も例に漏れずその課題に直面しうるのだが、彼女達によれば過多に心配する必要はそれほど無さそうであった。
「今の感じだと、美紋ちゃんは『異元』の扱いが少し上手みたいね」
「え、そ...そうなんですか?」
「ああ、おまけに視たところ『異元感知』のセンスもあるようだ」
戦いたくはないのに能力があるみたいな事を言われ、美紋は複雑な心境になる。
男共の羨望の眼差しを受け心底嫌になった彼女であったが、取り敢えず出来ないよりかはマシであろうと自分の中で折り合いをつけた。
「えー何だよ月ヶ谷オイ、なんかずりぃぞー!」
「そうだそうだー!ずるいぞ自分だけー!」
「アンタ達ねぇ……そこの火の玉小僧は私の水で今すぐ消してあげてもいいんだけど?」
「な、なにをーっ!」
目を光らせ、手でピストルを作り燎平に向ける美紋。相手が彼女となると、普段の上下関係もあってか少しばかり威勢が廃れてしまう彼であった。
「なんだ、結局お前もノリノリじゃねぇかよ」
「う、うっさいわね。私だってたまにはそういう気分になる時だってあるの。柄でもないのはわかってるつもり」
「ま、いいんじゃねぇか?はー!早く俺の番こねぇかなぁ!?次は俺だよな!?」
来飛が期待に胸を膨らませる中、残念ながら次に呼ばれたのは暁だった。
「くぁー!俺最後かよぉ!!」
「はは、すいません来飛君」
「次は暁か!暁はどんな『異跡』なんだろうな!」
テンションが上がりっぱなしの来飛と燎平に見送られ、結界に入っていく暁。
そして燎平や美紋と同じようにアミュールの指示に従い、自分の中の『異元』を利き腕に流していく。
しかし、前の二人とは少しばかり様子が違っていた。
「暁君、意外と時間かかってるね...」
「うん...俺たちの時は大体二分か三分くらいだったけど、今の感じもう五分は経ってるんじゃないか…?」
美紋と燎平は苦戦しているであろう暁を気遣わしげな眼差しで見る。
暁は『異元』を操作し始めてからよほど集中しているのかずっと目を閉じ、少しも動かないでいた。
少し離れたここからでも暁の難しい表情が見て取れる。必死に汗を流すその姿は、いつも一緒にいる燎平の目からしても新鮮に写っていた。
そんな親友達に見守られる中、彼の左腕がピクンと一瞬痙攣した後、ようやく変化が訪れた。
「おお......お?」
目を凝らして見ていた燎平達も彼が起こした変化に気付いたのだが、それがまたなんとも言えない結果であった。
「.........これは...」
当の暁も困惑する。
傍目から見ても明らかにわかるほど反応が大きかった燎平と美紋の『異跡』だったが、暁のそれは違っていた。
具体的には、一回り大きくなったキューブの色が白から茶色に変色し、掌の上で崩れ落ちただけである。
「じ、地味ィ...」
「こら、しーっ!口に出さない!」
思わずポロッと口から零れてしまった燎平の頬を軽くつねる事で折檻する美紋。
この結果をアミュールも『異元感知』で予測していた為か、前の二人と比べて少々言いにくそうな口調になっていた。
「うん、これもわかりやすい。暁君の『異跡』もメジャーな『生成型』の『土』だけど...」
「な、何か問題でも...?」
額に汗を滲ませながら尋ねる暁。しかしアミュールは間髪入れずにそれを否定した。
「ううん、全然。ただ、暁君は元から持つ『異元』の総量が少し少ないようね。それが発動する時間だったり、反応の大きさだったりに関わってるみたい」
「だが心配は不要だぞ少年。そんなもの鍛えれば幾らでも増えるから安心したまえ」
幸も尽かさずフォローしに入る。彼女達はなんの問題もないと話し、そして彼自身も『まぁ最初の運がなかった』程度だと笑っているのが見える。
だが普段なんでも卒なくこなし、誰かに助けられるよりかは助ける側である彼が逆の立場に置かれるとは本当に珍しい事態でもあった。
それにしても、と燎平は一考する。
『異元』という、全く新しく未知なる要素が燎平達の中に元からあるという事実。
今回初めて『異跡』を扱い、その存在をより実感できた。
そして美紋はその扱いが他より上手く、暁は元々持っているその量が少なかった。
(校長は『異元』を元から持つ事は、病みたいなモンだって言ってたけど……)
病にも種類があるように、個人個人で生まれ持った病の症状の重さが違うという事だろうか。
確かに、『異元』を用いて発現する『異跡』は、どう見ても勝てそうにない怪物でさえ倒すことのできる圧倒的なまでの力ではある。
だがそれも所詮使いこなせなければただの宝の持ち腐れ。『異怪』がいる『裏側』に半ば強制的に引き込まれてしまう体質になってしまった今、病と呼称するのは納得であった。
(俺はこれから、自分を守るために頼れるのはこの火だけって事か……)
新しい力が手に入った反面、それを何に使うかを改めて思い出してしまった燎平。
折角の能力も自分の命がかかっているとなると、どうにも素直に喜べなくなった彼であった。
〇〇〇
暁の番が終わり、『異跡』を初めて試すのは来飛残り一人となる。
そして万が一にも事故がないように、アミュールは一人終わるごとに入念に結界のメンテナンスをしていた。
そんな最中、暇を持て余したのか薫はサーチスに話しかける。
「さっちーん!おっちぃ〜!♪」
「はいはいおっちんちんちん」
薫の元気よく突き出された手を受け止める形でハイタッチをする彼女達。(※ツッコミ不在でお送りしております)
「いやー本当すごいよね〜、アミュっちの『異元感知』はさ。わざわざこういう検査しなくてもどんなタイプの『異元』持ってるかわかるんでしょ?薫ぜんっぜんわかんないからね」
「ああ、私もアミュ以上に『異元感知』の精度が高い奴は今まで見た事ないね」
彼女も『異眼』を使うまでの出番待ちで時間が開いているようで、薫のお喋りに付き合うことにしたらしい。
「やっぱアミュっちならどんな『異跡』でもパッと分かるんじゃない?」
「そうだな。見たことないヤツじゃなければ一発だと思うぞ」
「はえ〜、『異元感知』の範囲といい精密さといい、次元が違いますわ…」
「はは、全く。絶対に敵に回したくない一人だね」
軽く笑いながらパチパチと瞬きを繰り返すサーチス。
「…あれ、大丈夫?」
「ん、大丈夫だ。目が少し疲れただけだ」
「最近使いすぎなんじゃない?薫たちが休憩してる間もこの周辺の検査とかしてたんでしょ?あの事件の時だって使いっぱなしだったって言うし…」
少し背伸びをし、サーチスの目を覗き込む薫。彼女の真っ直ぐな瞳を見て、サーチスは少しだけ目を細めた。
「おっ、心配してくれているのかい?優しいねぇかおるんは。お姉さん嬉しくなって濡れてしまうよ、九六点」
「えー!あと四点は!?」
「嬉しいけど、それはいらない心配だと言うことだよ。これも仕事だし、君たちの安全に比べれば安いものだ」
サーチスは優しい声音で薫の頭を撫でる。彼女の手触りが案外気に入っているのか、それとも撫で方の方が上手いのか、どちらにせよサーチスの手の動きに逆らわないでいる薫は満更でもなさそうであった。
「ん……まーたカッコつけちゃって…その目も大事にしないと……」
「大人は格好つけたがるものさ。特に子供の前ではね」
サーチスの生まれながらに持つ目、『異眼』。その能力は様々であるが、彼女のものは『精査の異眼』と呼ばれるものだ。
あらゆる『異跡』や『異元』を形として視る事が出来、その分析力はアミュールの『異元感知』に匹敵する程である。
「そういやさ、『異元感知』と『異眼』ってどう違うんだっけ」
「ん?これは前にも話したはずだが」
「んーそうだっけ?忘れちった☆」
「しょうがないな。いや、まぁ違いなんて少しだがね」
『異元感知』と『異眼』との大きな違いは、時間の執着に大きく帰因している。
『異元感知』は今実際に起こっているものを感知、解析する能力。
そして『異眼』は時間に囚われる事なく現在、未来、過去全てにおいて効果を発揮する。
「薫も知っての通り『異元感知』の方は相手の『異跡』や『異元』の型を読み取る事ができるんだが、私の『異眼』はそれに加えてその場所の過去に起こった出来事や痕跡を見る事が出来る。勿論『異元』関連の事象のみだが、異元』の込め方によってどれくらい視れるかも変わってくるのさ」
彼女の『異眼』は『異元』の痕跡を辿って過去にどんな人が何をしたかを分析できるだけでなく、それを通してこれから起こるであろう未来の事象まで推測できるのだ。
それ故に、『異眼』を持つサーチスならどんな罠が仕掛けてあっても見抜き、対処が可能。
だからこそ彼女はこれ以上なく調査に適役であり、頻繁に駆り出され重宝されるのである。
「あー、そうだったそうだった!すごいよね!」
「まぁ、使い勝手は良いとは言えないがね……」
「……今前と比べてどんな感じ?やっぱ悪くなってんの?」
「どうだかね…微妙な変化だから実際気づかない事が多いんだなこれが」
大きい力を代償なく自由に使えるほど、この世界は甘くはない。それは『異眼』も例外ではなく、大きく分けて二つのデメリットがある。
一つ目は視界内でしか効果を発揮できない事。あくまでも目に付随する能力な為、視界という制約に縛られるのは必然である。
そしてもう一つが、過度に使い過ぎると一時的に失明するというもの。
一気に許容範囲を超えた酷使をすれば、当然悪い影響も出るものである。どれくらい使ったかにより失明の期間も異なり、最悪それで一生目が開かなくなった話もあるくらいだ。
それは普段の視力にも影響する事がある。だからこそサーチスは出来るだけ『異眼』の使用を控え、必要な時以外は『異元展開』すらしない方が好ましいのだ。
「ホラ、自分のチン長がどれくらい伸びたかなんて自分の目じゃ分からないだろ?」
「発音がちょっち怪しかった気がするけど薫はそんな小さいの気にしないから!にひ」
ところで、唐突な下ネタはシリアスな雰囲気を問答無用でぶっ飛ばすのですごい。
薫もその手の話は通じる為、いつしかサーチスと薫はそういうジョークも交えた話を楽しむ仲になっていた。
そして彼女達が歓談している間、結界のメンテナンスが終わったのかアミュールが来飛を呼ぶ。
「おっ、来飛君やるね?どんなだろ、さっちん分かる?」
今までの三人と同じように、彼女の目の力ならば来飛の『異跡』も何なのかわかっていると薫はふんでいた。
ところが、彼女の思惑とは違いサーチスは眉を潜める。
「......いや、全くわからん」
「え!?そうなの!?」
「私もアミュも、彼のは|見た事がないタイプの型だからな」
「………」
今までよりも更に真剣な表情をして来飛を見据えるアミュール。
そんな彼女の頭の中では、ドゥの言葉が反芻していた。
〇〇〇
「...コイツだね?問題児は」
もう既に測定を終えた他の三人と同様に、ドゥの部屋に測量するために入室する来飛。
だが入るや否やいきなり問題児呼ばわりされ、流石に彼も多少驚いた。
「あ?俺?...俺がなんかしたか?」
「問題児って、ちょっとドゥさん...」
来飛の後に続いて入ったアミュールが、部屋の扉を閉めながら言いづらそうに言葉を濁す。
「アンタの『異元感知』でも『異跡』不明、とありゃこりゃ相当問題児だろう?どんなもんかと思ってはいたが成程、さっぱりだね」
「ええ...もしかしたら、詩織みたいに最初から『覚醒者』かもしれません。今日はこの事を貴女に相談しにきたのもあるんです」
「んん...一応調べてはみるが、あまり期待はしないでおくれよ」
来飛を目の前にある椅子に腰掛けるよう仕向けながら、ドゥは忙しなく測量に必要であろう道具を弄り回していた。
「...そういや『異眼』持ちの奴が確かそっちにいただろう?ヤツにも見せたのかい?」
「ええ、サーチスにも勿論見せましたが…彼女曰く、『異元』の型は見えてもそれが何なのか知らなければただの不明瞭さ、アミュ。知らない言語は耳に届いてもその文法、意味を知って初めて理解出来るのと同じだよ、と…」
「ふむ……『異元』の性質は髪に出る、とはよく聞くが…これは…」
色々聞き流していた来飛であったが、自分だけ置いてけぼり感に耐えきれなかったのかそこでようやく口を挟んだ。
「...えーと、何?全く話についてけねぇんだけど...」
「ああ、気にしなくて大丈夫だよ。来飛君の使う『異跡』がどんなものかわかんないよね、って話をしてるだけだから」
「んー...なんか聞いてるとよ、珍しいヤツなのか?俺の『異跡』ってのは」
「ええ、相当に。花蓮と翔璃もあまり見ない『異跡』だし、薫だって『生成型』だけどレアな『波』。『元の世界』の子達は珍しい『異跡』を持ってる子が多いのかしら...」
要領が比較的悪く、まだ聞き慣れない単語とその意味を結びつけるのに時間がかかっている来飛がアミュールの話を理解できる筈もなく、聞いてる途中で彼は考えるのをやめた。
「ところでアンタ、不明って言っても全く分からない訳じゃないんだろう?何か検討はついてんのかい」
「型の感じは雷系っぽいんですけど…なんか違うっていうか、他のが混じってるというか...」
「まぁ、こうして話してても埒があかないね。『新芽』にはキューブ使って実際に『異跡』使わせるのが判断する一番手っ取り早い方法だろう?まだやってないのかい」
「ええ、近々やる予定です。流石にここではやりませんよ」
「当たり前だよ、バカたれ。アタシの工房ぶっ壊したらタダじゃおかないからね」
道具をいじりながら測定をしていたのか、ドゥとアミュール話の話を聞き流している間に来飛の測量は終了していた。
「ま、『異跡』が判明してある程度慣れたらまた武器の方を取りに来な。またデータ送ってくれりゃ適当にそっちも拵えるさね」
「今回もありがとうございました、ドゥさん」
ひと段落し、測量を終えた来飛を先に部屋から出してアミュールが別れの挨拶を切り出す。
だが彼女が外に出ようとすると、ドゥに短く肩を叩かれ引き止められた。
「...アミュール、気をつけなよ。襲撃の件といい、最近何かと物騒だ。何が起こるかわかりゃしない。言っちゃあ何だが、正直あの子達…気味が悪いよ」
「え...?」
サングラス越しに見えるドゥの目はいつになく深刻であった。
「測量の時詳しく調べて初めて気づいたんだが、『異元』の型が全員歪んでるってのはどういう事だい」
「...それは、その」
ドゥは測量時、燎平達の『異元』に普通では考えられない異常性を見ていた。
彼女はアミュールのような『異元感知』やサーチスのような『異眼』は持ち合わせていない。
しかし道具の力で『異元感知』を補強している故に、彼女達とはまた違う観点から『異元』を見ることができるのだ。
そして本来型というのは人それぞれ違い、形が安定してるものである。絶対に歪んだり変わったりしないのだが、彼らの場合は例外であった。
「やっぱり襲撃された今回の件が絡んでるのかい?そりゃその被害者だってのは分かるが…アタシ達からすりゃ、ありゃ一人の人間の器に二人分入ってるようなもんじゃないか」
「…………」
ドゥの指摘に、口元を歪めるアミュール。
俯きながら沈黙以外の答えを返す事が出来ない彼女の顔は、ひどく痛々しく見えた。
燎平「いやーすげぇよなホント、『異跡』ってよ。掌から火が出たんだぜ?ボワッと」
美紋「危なっかしいなぁ…自分の『異跡』で火傷するとかいう間抜け晒さないでよね」
燎平「うわ、それやだわ……一生料理出来なくなる」
美紋「アンタ料理しないでしょ」
燎平「失礼な!ちょっとは出来るわ!ってか料理とかレシピ見て適当にやればなんか出来るだろ」
美紋「まぁ否定はしないけど…そんなに簡単なものじゃないと思うよ」
燎平「そういやお前も料理しないよな」
美紋「失礼な、ちょっとはするよ。ハル姉と一緒によくお母さんの手伝うもん」
燎平「ほーん、最近した?」
美紋「え、うん…肉じゃが手伝った。って、なんで?」
燎平「何でっていやぁ、この前指につけてた絆創膏はそれだったんだなぁと」
美紋「…ッ!」
燎平「え、何ちょっとやめてこっち来ないでイヤァ!あっホント待っておねがい何でオモォ!!」




