18 新入生合宿1日目 Ⅹ 『体験』
「え、えっと…今なんて……?」
確か、今脱げとかなんとか聞こえた気がする燎平達。
いきなりの事に戸惑う彼らであったが、不幸な事にそれは幻聴の類ではなかった。
「何回も同じ事言わせるんじゃあないよ、今から測量をするのさ。服は脱がなきゃ測れないだろ?」
「測量って...何の?」
「あぁ、ごめんね。今日は皆に『裏側』で活動するための『SCC』を受け取って欲しくて呼んだのよ」
アミュールは笑顔で答えてくれたが、質問をした来飛は聞き慣れない単語にますます眉根を寄せる。
「なんだい、アンタまだコイツらに話してなかったのかい?」
「あのですね、『裏側』以外の外で安心してこういう話できる場所中々ないんですからね!?」
「あー、そういやそうだったさね。いかんいかん、普段は外に出ないもんでこういう時はどっか噛み合わんさね」
首を傾けてパキパキと骨を鳴らすドゥ。そりゃ国家機密レベルの話を人目につく場所でホイホイされては堪らないであろう。
「あ...すいません。その、先ほど仰っていた『SCC』とは一体...?」
「あぁ、ごめんね暁君。どうもこの人といると調子出なくて...。それで『SCC』だけど、確か英語で『Spesific Corresponded Clothes』の略だったかな?まぁ、所謂服です。他の『修復者』達が着てたやつね」
「服...」
薫が着ていたバンド衣装もどきや、アミュールの着る巫女衣装もどきがそれにあたる。
『異元展開』の強度を上げる他、様々な効果が着る服によって付与されるそうだ。
例えば、花蓮が着ている『SCC』の機能の一つに『災害種子』収納&射出がある。彼女の場合、身体中に張り巡らされるつたの中を種が通り、指と足先にある先端から飛び出して初めて『異跡』を発動する。
個人の『異跡』によって機能が異なり、その性能に特化した服が最初に割り当てられるのだ。
「さて、ほいじゃあ『異元展開』するよー」
「え?え?」
内容を理解するので精一杯な燎平達であったが、ドゥの勢いは留まることを知らず、どんどん勝手に話が進んでいく。
「…ん?あ!?え、ドゥさんちょっと待」
それはアミュールが何か言おうとしていた事も妨げ、誰かが何かをする余地もなくドゥは瞬時に世界の色素を奪った。
「...ん?」
いつもと少し異なる違和感に、ドゥはサングラス越しの目を細める。
「あ、ぁ...ああ......」
そしてみるみる顔が青ざめていくアミュール。彼女達の視線の先に、原因はあった。
「...?」
知覚まで3秒。さらに認知に1秒。
そして、絶叫までー
「「「ぎゃあああああああああっっっ!!??!?!??」」」
結論から言うと、彼らは全裸であった。
いきなりの事態に混乱し、反射的に局部を手で隠す四人。
「と、とりあえずこれを!!」
『裏側』に入り、私服から『SCC』に衣装を変えたアミュールの紙が彼らの全身を覆う。
「……いや、肌着くらいはつけといても別に構いやしないんだがねぇ。確か、前回の奴らは制服着てただろ」
「そうです…いつもは放課後にそのまま連れてきてたからすっかり失念していました……」
「オイオイ、ないならないで何で代わりのモノを予め着させてこなかったんだい。『裏側』じゃ『SCC』みてぇな『異元』編んだ服じゃねぇと持ってこれねぇんだろ?」
「はい…仰る通りで……」
『異元』を持つものは『裏側』へと吸い寄せられ、入る事ができる。ただ『裏側』に存在する上で『異元展開』をしていないと、鎧を脱いだ裸のような状態になってしまうのだ。
今の燎平達も然り。そして学校が襲撃されたあの事件の時、祓間が突然裸になってしまったのもこのためである。残念ながら元より体内に『異元』を持つ者、『新芽』の成人は今まで祓間以外に例がなかったため、残念ながら教師達には支給されていなかったのだ。
しかし、生徒達は別である。彼らに入学時に配られた制服は、実は『異元』で編まれたもの。燎平達はその制服を着ていたため、『裏側』に突然引き込まれてもそれが必要最低限の『SCC』として当時は機能していたのだった。
「まァこっちもいきなり『異元展開』しちまったのはあるがね。だが予め最低限の準備はさせとくって話だったろ?確か」
「はい…すいません…」
「いやアタシゃいいんだがさ、それ言うのは別のヤツらだろうに。ん?」
つい先程までドゥにとっていた態度も、風船がしぼむように小さくなってしまったアミュール。
そして、彼女は自らの不甲斐なさ故か顔を歪めながら生徒たちに向き合った。
「今回はもう……ほんっっとうに申し訳ありませんでしたっ!!!」
「……あ、ああ、はい…」
幸か不幸か、アミュールの対応が早かったため燎平達が全裸になったのはほんの数瞬の事であった。
とはいえ事故は事故。もう終わったことである。男どもはそれほど気にしていないのか、快くアミュールを許したのだが、問題は美紋であった。
「う、うぅ……。ねぇ…見た?」
裸体を紙で覆われている今も、顔を真っ赤にしながら身体を丸めて局部を隠す美紋。ヘアゴムも無くなっているので、髪が下された状態の彼女の問いにぶんぶんと首を振る燎平達であったが、疑念の眼差しはより一層強くなるばかりであった。
「み、美紋ちゃん……大丈夫?本当ごめんね」
「い、いえ………」
「…あ、そうそう!気休めにしかならないかもだけど、この状態実は全部見えてる訳じゃないから!所々ぼんやりしてるでしょ?」
言われて初めてあっ、と声が漏れる四人。
確かに裸に近い状態ではあるが、よく見ると細部が普段の身体とは違っていた。
全体的に肌の色が少し白みを帯びており、四肢の先端が時々不規則に揺らめいている。念のため秘部も確認してみると、輪郭が曖昧であったり所々霞んで見えた。
考えてみれば、精神が服を着るというのもおかしな話ではある。
「だ、だから…そのぉ……ほ、本当にごめんなさい…。私がもっとしっかりしていればこんな事には……」
「ヒッヒ、アンタたまに出るその気の緩み何とかならんもんかねぇ。いやさ、見てるぶんには面白いから全然いいんだけどねぇ」
愛海のクラスに入ってから早二週間と少し。彼女の仕事ぶりは燎平達から見ても完璧であった。
与えられた役割をそつなくこなし、皆に笑顔を振りまきながら誰からも愛されるような、そんな魅力的な先生。
その像を保つためにどれだけ彼女が努力し、気を張っているかは想像に難くない。
その分というのか、愛海より本来のアミュールである方が彼女の素の面が出てしまいやすいようであった。
「ま、もう少しアタシの仕事が早ければ昨日でも良かったんだけどねぇ。貰った仕事に手は抜けねぇし、何よりあんな事があった後だからねぇ…。多少ボロが出るのもわからんでもないが」
「………」
アミュールの表情に憂愁の影りが差す。
二週間前の学校襲撃事件。幸い生徒には被害が及ばなかったものの、それは一部を除いてを最初に付け足さなければ口に出せない言葉であった。燎平達がここに来たのも、元々はその事件のせいである。
「災難だったねぇ。そっちは色々大変だったんだろ?アタシゃ裏方だから何も出来やしなかったが」
「…ドゥさん。その話はここまでで。それより早く測量してしまいましょう。あまり彼らの時間を取らせたくはないので」
やれやれ、といった風に何らかの支度を始めるドゥ。測量のためと思しき準備をしているのは見て取れるのだが、幾つかの扉を行き来している彼女の手にはメジャーや体重計というものが見当たらない。
その代わりかどうかは定かではないが、今まで見たこともないようなものが奥の部屋に次々と運ばれていった。
「あー、えっとね。実はもう服の方は注文してあるのよ。さっきも言ったけど、今日はそのサイズとか、実際着てみて違和感がないかとか、その最終チェック。だからすぐ終わるから、ごめんね。もう少しだけそのままでいてくれる?」
その間、アミュールもどこから持ってきたのか四人分のブランケットを用意してくれたようだ。
特別暑いとか寒いとか、『裏側』に入ってからというもの感じてはいないのだが、やはりこういったものがあると落ち着くものである。燎平は会釈とともに礼を言うと、アミュールは優しい笑みと共に返事を返してくれた。
「あっ、そうだ。今丁度いいし、ちょっとみんな『異元展開』やってみよっか」
「えっ?」
唐突に話を切り替えるアミュール。
まだ『異元展開』した事がない彼らにとっては、無論ハードな課題である。それをちょっと軽くランニングするか、みたいなノリでさらっと口にしている彼女を見て燎平達は困惑した。
「あのな、センセ。いきなり『異元展開』しろって言われてもよぉ……」
「大丈夫大丈夫。思ってるより簡単だから」
要はスイッチのオンオフのようなもの、と彼女は付け足す。
「貴方達は今精神体なの。つまり、気持ちとかイメージとかがうまく反映されやすいって訳ね。貴方達の身体の中にある『異元』…多分、最初は何かモヤモヤしたものって認識だと思うわ。それを、グイッと外へ広げる感じ…みたいな」
不安で表情が曇ったままの彼らではあったが、とりあえずイメージしてみる。
(んな事言ったって…いや、確かになんかモヤモヤしたもんが中にあるのは何となくわかるけどさ…イメージしろってそんな簡単に出来る訳……)
そう愚痴を言いつつも燎平は少し意識する。瞬間、ブワッと内側からそのモヤモヤが刹那の間に広がり、シャボンの膜で全身を包まれたかのように燎平の身体は彼の『異元』に覆われた。
「出来たわ」
「ウッソだろお前」
隣でウンウンと唸っている来飛が目を見開く。燎平が『異元展開』を成功させたのもそうだが、美紋と暁は彼の別の変化に息を呑んでいた。
「ちょっと燎平、それ……アンタ、髪が…」
「ん?」
「えっ、もう出来たの!?…なるほど。燎平君は赤系だとは思っていたけど、これは綺麗な朱色に染まったねぇ」
アミュールが指を鳴らすと、鏡のように彼の姿を映してくれる一枚の紙が燎平の目の前に現れた。
「お、おわぁ!?なん……えぇ!?」
思わず、そこにいる別の自分に腰を抜かしそうになる燎平。右側のもみあげが少し伸び、彼のボサボサである髪だけでなく瞳の色までもが赤色に染まっている。
そんな変わった自分の姿は、少し気味が悪く思えた。
先ほどまで細部にあった身体の揺らぎは完全に消え失せ、肌も血色の良さを取り戻している。それがアミュールや他の『修復者』と同じく、この『裏側』で完全に安定したというサインなのだろう。
「はーい、じゃあ燎平君に続いて他の皆もやってみてね」
手を打って美紋達に意識を戻させるアミュール。それから他の三人も『異元展開』をしようと試みるが、少し手間取っているようであった。
(普通『元の世界』の子が『異元展開』出来るのに数分から数十分はかかるんだけど…すごい。ここまで早かったのは詩織以来かな…)
やはりというか何というか、彼は何か他とは違う『モノ』を中に持っているのかもしれない。
(グラネード……)
個人的にずっと追いかけてきた因縁の相手にこんな形で再会するとは誰が予想しただろうか。今すぐにでもブチのめしたいという衝動が身を焦がす。だが、奴が彼に取り憑いている以上残念ながらそれは出来なかった。
アミュールが目を細めていると、二つの声で現実に引き戻される。
「うおっ!?」
「わあっ!?」
『異元展開』により、『裏側』に新たに存在が確立できたのは来飛と美紋。
「なんかこりゃあ……」
「うん、ちょっと変な感じね……」
気持ち悪いとか、そう言った不快を感じる類のものではないが、身体に纏わりつくような妙な圧迫感がある。
「おっ、二人とも出来たのね!早い!うんうん、最初は慣れよ慣れ!」
満足そうに頷くアミュール。これが全てではないが、最初に『異元展開』できる速度…所謂その順応力こそがその『新芽』自身の持つ『異元』の質や才能を測る一つのメジャーと言っても過言ではない。
つまり、最初に『異元展開』出来る速度が早ければ早いほど、『異元』をコントロールする能力の素質があるという事だ。
「美紋ちゃんは青系統ね…群青色って感じかな。うん、よく似合ってる」
「あ、ありがとうございます…」
『異元展開』した美紋の髪は見事に黒から碧に染まっており、そのポニーテールの毛先には滑らかなウェーブがかかっていた。
アミュールも前髪の流れ方が『異元展開』する前後で変わるように、色だけでなく毛の質感や生え際も人によっては変わるらしい。
「それで来飛君は……」
「ん、ぷふっ…!」
「ら、来飛……!お前ッ……!」
美紋と燎平が思わず吹き出す。アミュールもやはり何かが面白いのか、口端を綻ばせていた。
「あ?なんだ?お前ら、そんな人の頭見て笑いやがって…」
「…ま、まぁ、百聞は一見に如かず…って言うし。ほい」
先の燎平と同じようにアミュールは簡易な鏡を来飛の目の前に滑りこませる。
「なッ、なんじゃあこりゃあ!?」
それを合図に燎平達は爆笑した。
彼が最も普段とのギャップがあると行って差し支えないだろう。
まず、額を隠していた前髪が一部を除き全て後方へと流れていた。その大部分が金に染まっており、クセを残しながら垂れている前髪の一部とその根元辺りのみ、前の髪の色を残している。
一昔前でもここまで思い切った髪型をしていた奴はそういないであろう。『異元展開』する事でガラの悪さが加速度的に上がってしまった来飛であった。
しかし、当の本人はまんざらでもなかったらしく、
「ぶっ……だーっはっはっはは!!なんだぁこれァ!!これ俺か!?随分と面白ぇ事になってんな!えぇオイ!?」
心底面白おかしそうに口端を釣り上げ、笑い転げていた。そしてピークが過ぎた頃、互いに髪の染まった燎平と顔を見合わせ再び爆笑する。美紋もそれにつられて肩を震わせるなど、何とも奇妙な空間が出来上がっていた。
「ず、随分と楽しそうね貴方達…まぁ、それはそれでいいんだけど……」
半眼になりながらも彼らの様子を見守るアミュールであったが、ふとその輪から外れている一人に目がいく。
三人が無事に『異元展開』出来ている中、暁だけは目を閉じてひたすら瞑想に根を詰めていた。
その事に燎平達も気づいたのか、遠目からじっと暁の事を見つめる。
「あれ、暁…まだなのか」
「……珍しいな。いつもはこのポジションは燎平なのによ」
「うるせぇわ」
哀しき哉、事実である事が多い故にあまり言い返せない燎平であったが、『暁が何かに苦戦する』という構図はかなり久し振りに見た気がした。
少し経っても変わらず集中している暁を気にかけたのか、アミュールが声をかける。
「暁君?大丈夫?出来る速さは個人差があるから、あんまり無理はしないでね」
「…あ、ええ。はい。ありがとうございます」
よほど熱心に取り組んでいたのか、少し反応が遅れた暁。今まで何でも難なくこなしていた彼自身、こういった状況に直面するのは慣れていないのだろう。若干の焦りが顔に浮かぶのを見て取れた。
暁の方はまだ少し時間がかかりそうである。ドゥの方も、声がかからないという事はまだ準備は出来ていないらしい。
「そーするとどうするかなぁ……あ、そうだじゃあ燎平君。ちょっとその『異元展開』解除って出来るかな?」
「え、俺っすか」
いきなりの追加課題に早速腰が引ける燎平。先ほどはたまたま出来たが次はないかもしれない、という懸念が無意識に発生していた。
出来ることなら事を避けたい彼であったが、皆が見ている手前そういう訳にもいかず渋々首を縦に降る。
「…や、やってみます……」
アミュールが先ほど言っていた『スイッチのオンオフのようなもの』とは言い得て妙であり、確かに一度『異元展開』してしまえばこの状態を保つのはそれ程難しくないように思える。
そのスイッチをオフにする。要は、今身体を覆っているシャボンを破ればいい。
燎平は再びイメージをし、今纏っている『異元』を霧散させるように、更に内側から彼自身の『異元』を放出した。
すると、軽い衝撃と共に視界がリセットされる。
「おわっ!」
「ひゃっ!?」
それと共に、思わず来飛と美紋が少し仰け反った。
『異元展開』解除の際、彼から放たれた彼の『異元』で出来た余波が衝撃となって周囲に伝わってしまったらしい。
「うんうん。ありがとうね燎平君」
『異元展開』を何とか解除でき、髪と目の色も黒色に戻った燎平。
「え、なんか…その、まずかったっすか……?」
「ん?いや、大丈夫だよ。悪いとしたら具体的な指示を敢えて出さなかった私だし。それに、寧ろ燎平君は私が見たかった例を出してくれたからね!ぐっじょぶ!」
笑顔でグーサインを出すアミュール。まず生徒であっても礼をする姿勢を見せ、例え失敗したとしても直ぐにリカバーできる所が彼女の教師としての才能の一端であろう。
「そう、今燎平君がやってくれたみたいに、『異元展開』の解除の仕方にも注意点があります。いきなりやってみて、って無茶振りしちゃったけど、具体的に解除する方法は二つ。一つは、今彼がやってくれたみたいに外側に『異元』を放出する方法。そしてもう一つが内側に『異元』を収縮させる方法ね」
こんな風にね、とアミュール自ら展開していた『異元』を体内に戻す形で『異元展開』を解除する。
「…ね?今みたいにやったら『異元』から来る衝撃の余波も出ないでしょ?」
確かに、彼女から『異元』の波動は来なかった。衣服をするりと脱ぐように、自然に解除する彼女の手際には相当な年季が伺えるものである。
「燎平君がやったみたいに『異元展開』は解除できるけど、それだと過度な自分の『異元』が他の人に伝わっちゃうから、基本そのやり方はマナー的にNG。自分だけだったら勿論いいけど、他の人と一緒にいる時は不快にさせちゃったりびっくりさせちゃったりするからね」
「なるほどねぇ…」
『異元』を扱う面で、一応礼儀作法的なモノは他にもあるらしい。そんなルールがあるという事は、それが出来た経緯、即ち『修復者』の歴史や背景があるという事である。
そんな重みを実感しながら、そりゃ何でも好き勝手やっちゃいけないよなぁと彼らは肝に命じた。
「外に放出する方法は『異元』も無駄に使っちゃって効率悪いのよね。『異怪』が威嚇とかによく使う程度かな。それに、今私がやった内側に戻す方法なら『異元』もなら無駄なく回収できるし。お得なんだよ」
つまり、シャボンの例で言うと『異元』という空気を抜いて内側にしぼませるイメージ。
『異元展開』一つでも、意外と奥が深かった。この他にも、この調子だとこれから沢山気をつけねばならない事がありそうで、今から燎平は頭が痛くなるのであったが。
「じゃあ燎平君、もう一回『異元展開』してみてくれる?」
「あ、うっす」
愛海に言われるがまま、燎平は彼女と同時に『異元展開』をする。
すると、前とは異なる事が一つだけ起こっていた。
「え…あ、あれ」
「おお!暁!お前も遂にか!」
今までずっと苦戦していた『異元展開』を彼らと一緒にする形で暁も成功していた。
「これが…『異元展開』……」
彼の髪は肌と同じく焦げ茶色に色づいており、耳が隠れるくらいに前髪の左端の部分が長くなっていた。
「あ、そうそう。言い忘れてたけど、何人かが同じタイミングで『異元展開』すると、共鳴みたいな感じで多少やりやすくなるのよね。うまく自分で『異元展開』出来ない人達は、最初そうやって感覚を掴んでいくのよ」
「なるほど…では僕は、慣れるまで皆さんと合わせて『異元展開』をした方が良いですかね」
「そうね。出来るだけ早く一人で出来て欲しいのはあるけど…慣れるペースは人それぞれだから、無理のない範囲で頑張ろうね」
『異元展開』は、『裏側』に存在する上で自衛のためにも最低限出来ていなければならない。
『修復者』は勿論の事、『施設出身者』も全員必須の項目でもある。
そして、全員『異元展開』し終わった段階で、計ったかのように奥の暗がりからドゥがようやく顔を覗かせてきた。
「おーし、そっちは大丈夫かい?準備出来たよ!好きなヤツから入ってきな!」
来飛「なぁ燎平」
燎平「おん?」
来飛「他の奴が『異元展開』しても、俺らが連動して『異元展開』しないと『裏側』に入れてもあの裸みてぇな奴のままになっちまうんだよな?」
燎平「まぁ本編ではそうだったな」
来飛「じゃあよ、他の奴が認知出来ないほどめっちゃ素早く俺が『異元展開』すれば一瞬裸が見れるって事か?」
燎平「いや分からんけど……それはそれとして見たいよな………」
来飛「だいたいよぉ、裸じゃねぇじゃんかアレ!乳首もま☆こも見えねぇんだろ!?かーっ!夢がねぇ〜!」
燎平「だなぁ………、ん?いや待て来飛。見えねぇんだろ?逆にエロくね?」
来飛「はぁ?お前何言っt……ハッ!?」
燎平「見えないという事は隠すものがないという事ッ!つまりどんなに恥ずかしがり屋さんでも一歩前に踏み出せるという事だッ!!」
来飛「ないからこそ踏み出せる大胆なポーズ…ふむ……ナチュラルにエロいが最もエロい部分を取り除く事によって羞恥心をカバーする……超健全空間という訳か……」
燎平「……ごめんやっぱ何言ってるかわかんねぇわ」
来飛「なんか下話してる時こういうのあるよね」
燎平「…でもさ、無いんだろ?恥ずかしくないんだろ?……頼めばやってくれるかもだぜ」
来飛「え、例えば誰」
燎平「…薫先輩とか……」
来飛「お前………」




