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不条理の修復者  作者: 麿枝 信助
第二章 舞い咲く恋慕は蝶の如く
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12 新入生合宿1日目 Ⅳ 『亀裂』

 

 

 ふぅ、と息を吐くと共に肩の力を抜く。それによってスイッチがオフになったのか、どっと疲れが体の奥から流れ出てきた。

 

 「ん、んン〜〜ッ、はぁ…」

 

 汗に濡れたジャージを脱ぎ、ぐぐっと伸びをする美紋。

 

 ドッジボールの試合で最後負けたのは残念だったが、彼女なりにベストは尽くした。女子の中でも最後まで残った方だし、チームにも貢献はしたと思う。

 

 あまり普段使わない筋肉を酷使したため、迅速な休息を!と腕と脚が喚いているのが煩わしい。私もまだまだだなぁ、と今のうちからこれでは将来どうなってしまうのかと考えていた矢先、甲高い声によってその思考は遮られた。

 

 「にひ、もう疲れちゃったのカナ?美紋ちゃんは。もー、ダメだよ若いんだからあれくらいで疲れちゃ!」

 

 「……貴女と一緒にしないでください」

 

 「一緒だよー!年も体格もそんな変わらないじゃん!美紋ちゃんもやってないだけでできるんだから!じゃ!薫はおっ先〜!」

 

 やっほー!温泉露天風呂ーっ!と一瞬で服を脱ぎ捨て騒ぎながら温泉へ突撃するわんぱく薫先輩。

 

 バシバシと彼女に肩を叩かれた所をさすり、目を細める美紋。そういう事じゃないでしょ…と疲労の原因が身体の面だけによるものではない事を察しながら再び大きな嘆息を漏らした。

 

 「元気だねぇ、かおるんは」

 

 「元気っていうか、すぎるというか……」

 

 こめかみを指で抑える美紋の隣で微笑む陽乃。陽乃や当の本人、薫には分からない事かもしれないが、やたらテンションの高い人の側にいるだけで体力が持っていかれるという現象が美紋の疲労を加速させる一因だった。

 

 意識しているとしていないとで勿論差は出るが、自分とのテンションのギャップについていけず、逆にこちらが疲れてしまう。皆、楽しんでる〜?(私は楽しんでるしこの場は楽しいモノだから)楽しんでないワケないよね?ね?(圧)というような強要を過度に意識してしまい感じてしまうのである。 

 

 相手の顔色を伺い、周りに合わせてしまう人ほどすごく分かるお話。勿論相手がそう口に出しているわけではないが、その場の雰囲気や表情で何となく察してしまうもの。

 

 美紋もそういった類のテンションに自分まで合わせていけない人間であり、逆にまたその事自体に何となく罪悪感というプレッシャーとストレスを無意識に抱えてしまう人間であった。

 

 「にしても……」

 

 思いの他それがキツかった。今まで恵まれていた方なのか、ここまで自分と『合わない』波長の人間と同じ時を過ごすという経験は生憎なかった。

 

 そんなおめでたい性格をした人と四六時中、寝るときも食べる時も一緒でないといけないのだ。こういう時は一緒にいればいるほど波長の合わなさが表に出てしまい、雰囲気が悪くなるだけのお先真っ暗コースになるのは目に見えている。合宿というスタイルがこうも裏目に出るとは。

 

 例えば、目の前にある雑に籠に入れられた衣服とか。どうしても些細なことでも目についてしまう。こう自分は他人のあれこれを気にする人間ではないと思っていたのだが、認識を改める必要がありそうな美紋だった。

 

 そう彼女がどうしたものかと呻いていると、ふと隣の違和感に気づく。

 

 「……?どうかした?陽乃ちゃん」

 

 「え、いや?なんでもっ?」

 

 「大丈夫?声裏返ってるけど……」

 

 「あぁ大丈夫大丈夫!ちょっと考え事してただけだから…!」

 

 (い、言えない…!身体が綺麗で見とれてたなんて…!変な人だって思われちゃう

 ……)

 

 先程からチラチラと横目で美紋の身体をつい盗み見てしまう陽乃。彼女が脱ぎ始めて露わになったそれらは、今まで隠されていた事もあってか見るだけで何か冒涜性を感じるまでのものだった。

 

 無駄な外出はしないせいか、透き通るような白い肌。そしてポニーテールから解放された漆細工のような髪。肌の白と髪の黒がコントラストを生み、それはもう見事に調和していた。

 

 また、ポニーテールから生まれるボーイッシュさが殻を破り、そこには一人の紛れもない『女の子』が確立する。ポニーテール少女が髪を下ろしたときのエンジェル度の高さといったら筆舌に尽くしがたい。

 

 加えて美紋は小さい頃から習っていた習字や空手のおかげで理想的な姿勢、腰回り、筋肉のつき方をしていた。

 

 黒子や生まれつきなどは見当たらず、手足の細部に至るまで細く、長いラインが流れるように形作られている。さらに身体の露出が増えたぶん相対的に小さい顔がより小さく見える。

 

 胸部こそ控えめではあるが、余分な脂肪を一切排した正にどこに出しても恥ずかしくない完璧なスレンダー体型であった。

 

 (顔もとびきりの美人で、身体も完璧とか私なんかが隣にいていいのかなぁ……)

 

 自分に自信が持てない傾向にある陽乃にとって、美紋の存在はある意味自身の劣等感を引き起こす引き金の様なものだ。そんな目で友達を見ちゃいけない、と一瞬脳裏に浮かんだ罪悪感から目を逸らすように眼鏡を外す陽乃。

 

 「あれ、陽乃ちゃん眼鏡外すんだ」

 

 「え?そりゃ外すよ。湯気で曇っちゃうでしょ?」

 

 「いや、付ける人もいるからさ…そう言えば視力ってどれくらいなの?」

 

 「んーと、裸眼で1.2で、眼鏡つけたら2.0かな」

 

 「そっか、授業中だけ眼鏡かける人もいるけど、じゃあ陽乃ちゃんは必要なかったかもね、一番前の席だし」

 

 「も、もう!その話はよしてよ!ちょっと恥ずかしいんだから……」

 

 あははと話に花を咲かせながら服を脱ぎ終え、湯に向かう二人。その間、美紋は内心穏やかではなかった。

 

 (私、知らなかった……貴女こんなに……)

 

 歩くたび、しゃがむたび。心地よく弾むそれら。

 

 服の上からは予測できなかったその存在感サイズ

 

 例えいかに手足の形が綺麗であろうと、腰回りが細かろうと所詮それらはサイドディッシュ。嗚呼哀しき哉、デザートがパフェでもメインディッシュがもやしのみならそれは豪華とは呼べないのだ。

 

 それは胸。所謂おっぱい。神々しき女たらしめる二つの象徴マリア

 

 それがあるだけで男は無条件で傅き、崇め、こうべを垂れる。その優しさと柔らかさはあらゆる悪を払い、邪を浄化する。一度その温もりに触れれば泣き喚く赤子だって笑顔を見せ、過労で死にそうなおっさんだって安らぎを得るのだ。

 

 年、性別、人種、そんな隔たりはおっぱいの前ではなんの意味も成さない。全てに対し平等に愛を分けることができる万能、それこそがおっぱい。

 

 おっぱい万歳。おっぱいは世界を救うのである。

 

 そんな予想だにしなかった『おっぱい』が美紋の横で揺れる揺れる。

 

 おっとりしているようで見せつけるかの如く確かに『ある』陽乃のそれらは、美紋のものを心なしか嘲笑っているかのようであった。

 

 (ひ、陽乃ちゃん……恐ろしい子……ッ!)


 「陽乃ちゃんって、い、意外と……」

 

 「や、やだ!その先はなんか聞きたくない……でも私、最近おやつ食べてないし……」

 

 「そういう話じゃねぇんだよぉおおおお!!!」

 

 「え、何!?急にどうしたの美紋ちゃん!?」

 

 「ハァ、ハァ……ご、ごめん、ちょっと気をやっちまって」

 

 「大丈夫?疲れてるぶん早く休んだ方がいいよね!私も肩こりが最近ひどくて……」

 

 「そういうトコだぞコナクソぉおおおお!!!!」

 

 「えっ、ええ!?美紋ちゃん!?」

 

 現実は非情である。

 

 同い年だからこそ浮き彫りになる明確なその差。普段何食べたら、とかどんな運動したら、とか聞くとそんなにやってないって答えが返ってきた時のダメージがデカすぎるのであえて聞かない。これこそリスクマネジメント。

 

 「頭大丈夫!?……あ!いや!ごめん今のはそういう意味じゃなくって……ッフw」(時間差攻撃型のツボ)

 

 「分かってる……分かってるんだよ………全部ゥ……………ン、フフッw」(時間差攻撃型のツボ)

 

 意図しない間違いをした自分、もう何やってんだか最終的に馬鹿らしくなった自分に対してそれぞれ笑いのツボの時間差攻撃!

 

 ひのとみあやは『じみにわらいからぬけだせなくなるやつ』におちいった!

 

 「何やってんのあの子達……」

 

 クスクスと肩を震わせ、口元を手で押さえながら温泉の扉を開けて入場する二人に流石の薫も半眼になる。

 

 そのツボった状態も長く続くかと思えば、目の前に広がる温泉の雰囲気が上手く止めてくれた。

 

 まず目につくのは床と壁のデザインである。灰色よりの黒で塗られた正方形のタイルが敷き詰められており、その規則正しい並び方が清潔感を醸し出す。汚れにくく、掃除しやすい作りにもなっているのであろう。

 

 次に湯船やシャワーなどの設備。部屋自体は長方形で、大きさもこの宿の美紋達の部屋の四倍はありそうな程広いのだが、その壁に沿うようにシャワー台が並んでいた。間隔も狭すぎず遠すぎずでお互い洗ってる時に水がかからないよう工夫されている。色も白で統一されており、キレイ好きな日本人は勿論外国人観光客にも納得のデザインらしい。

 

 湯船も部屋の大部分を占める面積で迫力満点ときた。楕円を二つ、斜めにずらして重ねたようなデザインで、下から湧いてくる形で新しい湯が供給される仕組みとなっている。

 

 そして何よりは、広がる肌色の花園である。美紋達にとっても、同年代の一糸纏わぬ姿を見れるのは比較の対象を作る良い機会となるのだ。

 

 「わぁ……すっごいねぇ」

 

 「うん、こんなに広い温泉もしかしたら初めてかも」

 

 三組の女子は十五人。手前の方のシャワーは埋まりつつあったが、奥の方はまだまだ空きに余裕があったのでまずは身体を清めるべく奥へ進む二人。

 

 のんびり会話しながらもいいが、四十分という割りかし短い時間の中で入浴を済ませなければならないのだ。乙女的にはもう少し髪の手入れや湯に浸かりながらのお話に興じたいところであるが、スケジュールは絶対。しかもその中に部屋から温泉への移動も含まれているので、着替えやシャワーも込みだと湯船に浸かる楽しみは実質それほど残されていないのだ。

 

 意外と余裕がないので急ぎ足でさっさと汚れを落としに行く。実は公共の温泉にある桶とか、便座とか、見知らぬ他人が使用したものに対し少しばかり抵抗がある美紋。本来ならばタオルでも下に敷きたい所ではあるが、ここはぐっと自重した。便座に座る時も、必ず紙で一応拭いてから使用する程度には彼女は潔癖であった。

 

 たまに年季の入った温泉に行くと水の出が悪かったりするのだが、ここでは勢いは問題なかった。隣の人にかかる防止の為なのは頷けるが、ここに至っては隣の感覚が十分に空いているためそのような心配もないのであろう。

 

 実は彼女が使っているシャンプーやリンスにも拘りがあったのだが、まぁ二日ぐらい大丈夫だろうと流石に持参してはいなかった。旅行用の小さいヤツに移し替えるとしても面倒だし何より荷物を増やしたくはない。

 

 ところで、髪を洗っている最中、ふと意識すると背後に気配を感じる事があるとか。一人で自宅の風呂でならまだわからなくもないが、ここは温泉。人の気配で溢れている。

 

 しかし、美紋がそう確信する前に軽い衝撃が彼女の背中を襲った。

 

 「みーあーやーちゃん!」

 

 「ふわぁっ!?」

 

 軽い衝撃でも折れてしまうのではないか、と思えるような細い両腕が美紋の視界に飛び込む。と同時に、ほのかな暖かさと重さが彼女の背後にあった。

 

 「……何いきなり抱きついてるんですか」

 

 「にっひひ、背中流してあげようかと思ってさ!」

 

 「…いえ、自分でできますので。結構です」

 

 「そー言わずにさ!裸の付き合いってヤツじゃん!」

 

 えぇ……と思わずしかめっ面をしてしまう美紋。突然の事で目に石鹸水が入ったため早速不快度はマックスである。

 

 ぴっとりと薫の胸部が美紋の背中に接しているのが小っ恥ずかしくなったのか、それともこれ以上抵抗する方が気疲れすると予測したのか、美紋は渋々といった形で彼女の要求を承諾した。

 

 「よっしゃ!早くそう言ってよね〜!…うお、髪超サラサラじゃん」

 

 丁度洗い終え、身体に張り付いた美紋の髪を一纏めにし彼女の肩にかける薫。他に美紋達のようにキャッキャウフフと流しあいっこしているグループがいればまだ気が楽なのだが、残念ながらそんな人影は見当たらない。自分たちだけこんな事をしているという異質感が何とも引っかかり、美紋はモヤモヤを心の中に溜めていく。

 

 (解せぬ……何で私だけこんな事に……)

 

 「…前も洗おっか?」

 

 「変態か!いや結構です!!」

 

 サラッとこういった発言をできる辺り、根本の部分でもう違うのだろうと美紋は察する。そのせいもあってか、美紋の気持ちを知る由もないと言った風に黙々と背中を流し始める薫。意外な事にやけに手際が良いのが気にはなったが、それよりも聞かなければならない事があった。

 

 「あの、夜葉先輩」

 

 「…もー、そろそろ薫って呼んでよぉ。なーに?」

 

 「……何で、私に執拗に構うんですか?」

 

 この合宿中、美紋がずっと気になっていた事。ついに本人に直接言ってやった。これで遠回しに私に構うな、と意識させる事が出来たはず……。

 

 「…え?いやいや、薫だって他の皆とも仲良くしてるよ?美紋ちゃんだけ特別ってわけじゃないってば」

 

 ところが薫はきょとんとした顔で手を振った。

 

 ……そんな事は、無いはずだった。

 

 「…じゃあ、私が『あの事』に関わってなかったら今と全く同じ事をしましたか?」

 

 「……それは」

 

 視線が下を向き、息詰まる彼女に対して目を細める美紋。

 

 身に何も纏ってないせいもあってか、温泉の空気で心のストッパーが緩んでいるのか、自分でも意外に思うほど言葉がすらすらと口から出てきた。

 

 「この際はっきり言わせて頂きますけど、もしそれが理由じゃなかったとしたら、私にはもう、嫌がらせの類にしか見えません。『あの事』が理由なのは分かっていますが、もう少し距離感というものを考えて欲しいです。もし私の何かが気に食わなかったのであれば、指摘して頂ければ直すよう努めますので……」

 

 今回、薫に自分の意見を二人きりで言える機会を作ってくれたのは素直に良かったと思う。お互いの認識の齟齬を直すには先ずは価値観の共有から。

 

 物差しの目盛りの値を近づける事により自分との適切な距離感を伝える事を美紋は謀ったのだ。

 

 しかし、薫は俯くと、

 

 

 「……、嫌がらせ(・・・・)?んなワケ、ねぇじゃん…………」

 

 

 「……はい?」

 

 今、薫がボソボソと何か呟いたような気がするが、上手く美紋は聞き取れなかった。それを聞き直す前に先手を打たれてしまう。

 

 「…あー!ハイハイ、距離感、距離感ね!ナルホドわっかりましたぁー!あ、それと考えすぎだよ美紋ちゃん!にひ、じゃあまたね!薫、露天風呂入りに行くから!」

 

 そう言い残すと、ぴゅーっと外へと通じる扉の方へ駆けて行ってしまった。走ると危ないですよ!と去り際に忠告したが、またもや聞き耳持たずのようであった。

 

 「ったく……嵐みたいな人なんだから……」

 

 結局何だったんだ今のは…と身体をひとしきりもう一度洗い流し、首を傾げつつ一先ず中の湯船に浸かりにいく。

 

 髪をくの字に折り曲げ、軽くお団子を作って毛先を上の方に向けて湯の中に入れないよう整える。準備が出来たらお待ちかね、いよいよ足からゆっくりと身体を水面に溶け込ませていく。

 

 「あ、ん、んん〜〜っ!」

 

 あちちちちと連呼するもその熱の差が気持ちいい。身体の端からじわじわと染み、伝わっていく暖かい感覚は何とも言えぬ快感を生み出してくれる。やはり日本人はあっつい温泉に入らなきゃね、と改めて実感する。

 

 数瞬、快感に浸っていると隣から知った声が聞こえてきた。

 

 「あ、美紋ちゃん」

 

 「やほ、陽乃ちゃん」

 

 眼鏡をしていなかったので一瞬違う人かと思ったが杞憂だった。アイデンティティの1つを外した彼女のちょっとした新鮮さに触れるのも束の間、話を陽乃が切り出す。

 

 「ね、さっきかおるんと一緒じゃなかった?背中流してもらってるのチラッと見たけど」

 

 「あー、アレね。私もうちょっとあの人分かんない。来たと思ったらすぐどっか行っちゃうし。色々雑だし子供っぽいし、話噛み合わないし何なのホント…」

 

 美紋は基本他人の悪口や愚痴は自分が言う側ではなくどちらかと言えば聞く側なのだが、こと薫に至ってはどうやらその限りではないらしい。

 

 悉く美紋も陽乃には共感を求めていたが、驚く事に彼女の口から出たのは全く異なるベクトルの言葉であった。

 

 「…でもさ、すごいよね、かおるんは」

 

 「え?」

 

 「一人だけ年が違うのにああやって違和感なく私たちの中に溶け込めててさ、中々できる事じゃ無いと思う。自分一人が年上で、周り全員年下の中で生活してねって言われたら私絶対無理だもん。……ちょっと考えただけで肩がすくんじゃう」

 

 「…………」

 

 少し考えれば、気がつける事であった。

 

 ひょっとしたら、薫は自由奔放に振る舞っているように見えるだけかもしれない。内心では不安でいっぱいなのに、それでも自分のせいで周りの雰囲気を乱すまいと顔に笑顔を一生懸命貼り付けているのかもしれない。

 

 「……さっきさ」

 

 「うん?」

 

 「…さっき、私先輩に場違いな事言っちゃったかも…」

 

 「なんて言ったの?」

 

 「私に構うのは……その、嫌がらせなんですか、って」

 

 「……うわぁ、美紋ちゃんって割とストレートにいくタイプなんだね」

 

 「う、そうかも…。割と嫌な事は嫌って言っちゃう時ある」

 

 そう考えると、すごいのかもしれない。でも。

 

 ...でも、先輩が私に構うのを受け入れる事が私にとってストレスになるのなら、仮にそれを簡単に容認してしまったとして、自分と先輩にとって待つのは破滅なのでは…と美紋は一考する。

 

 しかしこれから長く付き合うのであれば、きっと問題を先送りにし価値観の差が途轍もなく開いてしまう方が双方にとってきっと良くない事なのだろう。

 

 「う〜、難しいなぁ……」

 

 眉根を寄せ、唇をきゅうと結びながら悶々と悩む美紋に対し、隣の陽乃は柔らかな表情を向ける。

 

 「何とかなるよ、かおるんもいい人だし。美紋ちゃんとかおるんの間に何があるかはよく分かんないけど、仲良くしたいならただお互いどうして欲しいかってのをもっと良く知るべきなんじゃないかな」

 

 偉そうに言えた口じゃないけどね、と陽乃は頰を掻く。

 

 「どうして欲しいか……ね」

 

 思えば薫の行動は直情的なモノが多いように見えるが、案外その裏で何か別の意図があるのかもしれない。

 

 これから『あの事』でも関わるわけだし、本人が聞いてくれるのであれば直接もっと言ってみるのも一つの手か…?

 

 「ちょっと考えてみる」

 

 「うん、私でよければいつでも相談に乗るから!」

 

 悩んでいる時や落ち込んでいるときに向けられる無垢な笑顔ほど良い薬はないと思えるくらい、陽乃の笑顔は眩しかった。

 

 「…ありがとう、陽乃ちゃん」

 

 「…………」

 

 「?…陽乃ちゃん?」

 

 「……う、うん!どういたしまして!」

 

 美紋も笑顔を返すと、陽乃が少しぼーっとしていた。

 

 「大丈夫?さっきから心ここに在らずみたいな事あるけど……のぼせた?」

 

 「ううん!全然大丈夫だよ!…ありがとね、美紋ちゃん」

 

 「うん、ならいいんだけど……」

 

 とにかく、彼女のおかげで心の中のもやが少し晴れた気がする。さっきまで苛立っていたのに、今はこんなにも温かい。

 

 (…私がもう少し態度を改めれば、夜葉先輩との心の距離もこの合宿中に縮まるのかなぁ)

 

 こちらももう少し前向きな心構えで薫と接する姿勢をとろうかな、と心地よい温泉の熱に当てられながらぼんやりと考える美紋だった。

 

花蓮「あー、一年生諸君は今頃皆新入生合宿かぁー、羨ましい...」

翔璃「薫もな」

花蓮「あれは楽しかったなぁ。色々イベントとかあったし......あれ、っていうか薫のヤツって確か半年だよね?」

芯一「うん、そのはず。夏休みの前と後の試験受かれば9月から二年生に戻るんだってさ」

花蓮「そりゃ大変だ...まぁマーさんがついてるから何とかなるとは思うけど」

芯一「校長教えるの滅茶苦茶上手いもんねぇ」

翔璃「せめて新入生合宿くらいは羽を伸ばして欲しいものだな」

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