2 上塗りされた日常
「…………は?」
素っ頓狂な声が出た。自動的に、無意識に出た。
「……まぁ、そうなる、よな」
「………」
珍しい。珍しく来飛がまいっている。こんなに元気がない来飛は本当に初めて見た。
何があろうと無駄に明るく、ウザい程に活発でしつこい程に絡んでくるあの来飛がしょんぼりしている。
今すぐ携帯で録画したい衝動に駆られたが、そこは彼の顔を立てぐっと我慢した。
「……真剣なんだよな、その顔は」
「見ての通りだ」
「本気と書いてマジなんだな」
「マジもマジ、大真面目だよ」
「………成程な」
で?と燎平は続ける。性質の悪い冗談ではなく本気らしい。
これでいきなりドッキリ大成功!とかというふざけた札が出て、今までの来飛の態度が全て演技であったなら、金輪際一切顔をもうその顔を見せないで欲しいと言い切る。そして関係も切る。切り捨てる。
「で、って言われてもな…まぁ、割と気づいたのは最近なんだが、やっぱ原因はあの入学式に起こった事だと思うんだよ」
「…俺にそんな『自分の中に誰かがいる』なんて感じがしないって事は、俺とお前が分かれた後だよな」
「そう。あの後、鶏と別れてからなんか怪鳥がするようなバカデカい声が聞こえてな」
「オイ今さらっと俺人間じゃなくなってんだけど。そしてチキンになってんだけど」
「カーストチキンの方が上手いか?」
「上手くねぇよ!ってかなんだよカーストチキンって!」
「ローストとカーストをかけている」
「上手いッ!?…いやそれだと俺がローで低いカーストのチキンみたいな意味合いになっちまうだろうが!」
「間違ってないだろ?」
「間違ってないけど!!」
「あと上手いも美味いとかかってんだぜ」
「お前いつそのセンス磨いてきたんだよ!」
「あれは俺が中国で少林寺拳法と本格炒飯の作り方を学んでいた時だったかな…」
「嘘だな!俺はお前から一回もそういう話を聞いたことがない!」
「話してないからな」
「本当だったというのか!?」
「いや嘘だけど」
「嘘かよ!」
お前やっぱりふざけてるだろ!?と言わんばかりにツッコミを入れる燎平に対し段々と顔色が良くなってくる来飛。やはり彼も、二週間話したいのにろくにこうして落ち着いて話もできず色々溜まってたらしい。
「ハハ、やっぱりお前といると楽しいな、燎平」
「俺はただ疲れるだけなんですけどね……」
一瞬で話を聞く気が一気に失せた燎平。まぁそういう真面目な時こそふざけたくなるのも分かるし、それが来飛なのであろうが、それ以前に親友の頼みとあらば断われる筈もなく。
「それでだ。俺が駆けつけた時にゃあ服もドロドロに溶かされて半裸のちっこい先輩があのバケモンに捕まっててよ。俺がその裸体に気を取られてるうちにぶっ飛ばされて死にかけたんだけど」
「ちょっと待て突っ込みと理解が追い付かない」
コイツの事だからカッコつけて登場したのは手に取るように燎平も分かるが、それでは何というか、せっかくのシーンが実はそんな浅ましい事で色々と台無しになってしまっていたというのか…!?
そして、やはりというか、あの薫先輩は言葉通り、本当に身を挺して俺たちを守ってくれていたらしい、と燎平は後ろめたい気持ちに目を背けたくなった。
あれだけ無双していたのに、あれだけの力を持っていたのにも関わらずあの規格外の化け物には敵わなかったという事になる。
逆に、よくもまぁ同じ状況下に二度も直面してしまったな…と己の不運さと現に生きながらえている幸運さ、どちらをどう嘆けばいいのか燎平が一考する前に、聞き逃してはならないワードが後半にあった事にどうしても気を取られていた。
「ん…え、オイ今お前死にかけたって言った?」
「言ったな」
「……………」
実際、想像はしていた。
本当に、絶対に、可能な限りしたくはなかったが、それでもどこか頭の片隅で、無意識に脳がイメージすることをやめてくれなかった。
その結論に至る事を拒否していた。
燎平も燎平で目玉型の怪物にビームで殺されかけるという事態にあったが、あくまでそれは偶発的なモノ。対して来飛は自分からあの化物に突っかかるという、自ら死に飛び込むような真似をしていた。
出会ってまだ数分ともしない、たかが見ず知らずの一人の少女のために自分の命を投げ出してまでも助けようとする。そういう所が最高に格好良い。
もしもう二度と目の前のアホ面を見ることが出来なくなっていたら……と一瞬思考が巡り、背筋に冷たいモノが走る。
「それでだ。ここからが重要なんだが…というか、俺もそこからはあんまよく覚えてねぇ。肝心な事なのにな。ただ滅茶苦茶怒ってたのは覚えてるんだがよ」
「…何に怒ってたんだよ」
「言わせんなよ……まぁでも、色々怒ってはいたけど一番ムカついたのは不甲斐ねぇ自分自身に、だったな」
「……よく生きてたな」
昔からコイツは絶対早死にするタイプだとは思っていたが、流石に今は早すぎる。そんなりえない事を別れた当時受け入れられずにいながらも、本当にあの状況下だったのなら起こりえたかもしれないという事実が、嫌な実感があの時確かにあった。
「まぁな……我ながら運がいいというか。何つーかな。今回の件はその後遺症みたいなモンだと、俺は思ってるんだよ」
「その、自分の中に他の誰かが…っつー事か?」
「そう。俺が死にかけてるときな、力が欲しいか…?みたいに話しかけてきた」
「うわ!いいなぁそれ!」
滅茶苦茶カッコいいやん!言われたいセリフランキング上位に食い込む奴じゃん!
若干のキメ顔でそういう来飛に目を輝かせない訳にはいかない燎平。仕方ないの、だって男の子だもの。
「そんで!そっから始まる俺の怒涛の快進撃!荒ぶる触手を難なく躱し、思うがままに、怒りのままに蹂躙する俺氏!迸る拳の雨!伴うは謎の黒雷!デデン!次回、俺、ついに主人公になる!」
「いや乗っ取るんじゃねぇよ!?」
「正直、今からでも選手交代は遅くはないと思うぜ?燎平クンよぉ」
「いやいや俺もこっから頑張りますからね!?頑張りたいんですけど!!」
……………。ちょっと無理かもしれませんね。
「オイ天の声ェ!」
何で俺の味方がこんなにいない訳!?と絶叫する燎平。果たして燎平が主人公する日はいつになるのやら。
「……こんなクソみたいな茶番は置いといて、さっさと本題に戻るぞ」
「そうだな。ああ迅速に戻ろう。よし早急に戻らせてもらおう……で、何だっけ」
「今度は俺が謎パワーで無双したって話」
「明らかに俺が贔屓されている件」
何でお前だけそんな!と燎平は頭を掻きむしる。主人公より主人公の親友ポジが優遇されやすいのが本編である。慈悲はない。
「でもいいじゃねぇか。代償は払ったんだから。死ぬほど痛かったぜアレ」
「う…まぁ、そうだよな。俺絶対嫌だしそんなの」
「その謎パワーと、今俺の中にいる誰か。絶対関係あると思うんだよな」
そう言われてもなぁ、と燎平は返答に困ってしまう。その手の専門家でもない彼は、何も言う事が出来なかった。
「…お前がそう思うならそうなんじゃねぇの?……悪いな、俺にはなんも言えねぇや」
「だよな。最初っから何一つこれっぽちも燎平には期待してねぇし俺」
「何気に酷い!?」
そこまで言わなくてもいいじゃないか!と反発する燎平を軽くあしらう来飛。そんなやり取り中には、最初流れていた嫌な空気は何処にも見当たらなかった。
「いやなに、相談ってのは建前でただお前に話を聞いて欲しかったってだけだ。こんな女々しい俺なんて激レアだぜ?」
「…まぁな。それに、本当の意味で相談したいなら俺なんかより数百倍マシな奴を紹介してやるよ」
決して友達は多い方ではない彼がそう豪語する人物は一人。
丁度今その彼から、終わりましたと連絡が来たところだった。
○○○
連絡を受け、校門に燎平と来飛が着く頃にはもう既に二人の姿がそこにあった。
「…何で先に出た二人の方が遅いのよ」
「悪いな、ちょいと話し込んじまってて」
「いや、そんな待ってないから全然いいんだけどね」
そして少し口角を上げた後、彼女はこう最後に付け加える。
「…それにまぁ、仕方ないよ。燎平だし」
「さくちゃんですしね」
「燎平だしな~」
「俺の安らげる場所はないというのかッ!?」
先程まで一緒にいた来飛までもが敵側に回る始末。燎平に仲間は残念ながらいなかった。
この四人が一緒になって帰る事は実は少し珍しい。普段は燎平と来飛のペアか、燎平と暁のペア。美紋は習い事や部活の関係もあり一人で帰る事が多く、燎平とはたまたま帰りが一緒になったら家が同じ方向なので仕方なく、といった風だった。
かくいう燎平は相手が見つからなければ基本ぼっち帰り。中学の時は部活終わりによく部員や来飛達と一緒に帰ってはいたが、何かと理由がない限りは基本孤独な燎平であった。
その話題を当然ながらと言った風に、来飛が持ち出す。
「そういやこの面子で帰るのって珍しいよな。月ヶ谷なんかは特によ」
「そういえばそう…ね。私、よく道場行くし部活もあったからなぁ」
「……あー、何だっけ中学ん時の部活。ド忘れした」
「書道部よ書道部。私空手もあったから、参加自由なユルい部活選んでたの」
そう、美紋の趣味は何かと問われれば書道、と答えるであろう。嫌なことがあったら墨を磨る系女子だった。
「あー!そうだ思い出したわ!よく書初めで金賞取ってた!」
「美紋は墨の香りが落ち着くから好きとかいう変態だからなぁ」
「燎平?」
「ごめんなさい」
目線だけで屈服させてる…と暁と来飛の顔が引きつる中、パキパキと指を鳴らす美紋。暴力反対!と断固として声明を掲げる燎平も虚しく、その頭部に軽い粛清が成された。
「謝ったのに……」
「誤ってるからです」
それにいい香りでしょ!墨!と彼女は尚も墨を推す。美紋の部屋はほんのり墨臭いとはなるべく言わない方がいい。
「え、待って謝ってるから殴られてるのか俺!?」
「さくちゃん、漢字変換してみてください」
「頭のポンコツ具合が出ちゃったね~燎平クン」
「いや普通気づかないし使わないからね!?」
だが今回は仲間がいた。美紋の隣で知らんふりしているそこの来飛も、案の定理解していないというか、もうそれは理解事態を拒否している顔だった。
「…で、何の話だったっけか?」
「部活の話だったでしょ…来飛君は、やっぱりサッカー部なんだよね」
「おう。月ヶ谷もまた書道部か?」
「…それなんだけどねぇ……正直もう空手と書道はもういいかなぁって」
「え、そうなの?」
意外だ、と思った時には反応がもう既に口から出ていた燎平。彼女の事を幼少期からずっと見てきた彼だからこそ、彼女がずっと続けていた事に終止符がを打たれる事には驚きだった。
「うん。ホラ、燎平も知ってると思うけど私って空手は幼稚園から、習字は小学二年生から続けてきたじゃない?これを機にそろそろちょっと新しい事でも始めて見ようかなぁってさ。あ、でも完全に止めるつもりはないよ?勿論道場には行くけど回数減らしたいし、書道に至っては完全に趣味の枠に収めるつもり」
生粋の真面目っ子である彼女の性格からして、それはもう真摯に、というか懸命にその二つの事に向き合っていたことは燎平も既知であった。故に、今では空手二段、書道は毛筆硬筆共に三段らしい。
空手の方の師範代曰く、彼女なら三段も余裕であるらしい。道場の中でも特に一目置かれていた彼女が試合の時重宝されていたのも知っていた。
書道の方の師範代曰く、彼女の字は見ていて晴れやかになるらしい。中学生を超えた辺りから、彼女の書く文字に対し指摘することはめっきり減ったという。
飽きっぽく、色々な事が続かない燎平にとっては美紋のそういう所が素直にすごいと思えるのであるが、彼女の口から止めるという単語が出た時には自分でも驚くほどショックだった。
「…意外だな。美紋なら一回極めるまで突き進む!って感じだったけど」
「案外、そうでもないよ。ちっちゃい時はそれはまぁ、確かにそういう時期もあったかもしれないけどね。燎平だったらイメージがその時の私に引きずられちゃってるのかな。まぁ、今でもそう思ってる節はちょっとあるけどね」
はにかみながら、頬を掻く美紋。ポニーテールを揺らしながら歩く彼女も高校生になり、晴れて心根は大人になりつつあるという事なのか。
「あー…あと、新しい事始めようってなった最大の決め手は最近出来た友達かなぁ」
「誰?」
元々美紋はオープンな方ではないため、こんなにも早く友人が出来るのは尋ねた燎平は若干予想外ではあった。燎平があまり言える立場ではなかったが、女の子の間柄は何かと複雑と言うし、少しばかり心配していたがそれは杞憂だったようだ。
「同じクラスの雲陰陽乃ちゃん。知らない?セミロングでカチューシャつけてて、あと黒渕の眼鏡かけてるしっとりした子」
んー、と燎平達は顔を思い出そうとする。残念ながら燎平と来飛は、男子ならばまだしも女子の顔と名前はまだ一致しているの過程の段階であった。二人ともあまり記憶力は良い方ではないため、基本顔と名前を覚えるのに時間がかかる。一方、暁の方は言わずもかな。
仮に今思い出せなくても、美紋がこれで彼女の存在を言及したため少なくともこれからは記憶に定着しやすくなったのは確実ではあるが。
「そんなおとなしそうな人とよく仲良くなれたな。基本お前から話さないじゃん」
「何よ、失礼ね。確かに私はあまり会話をするのにアクティブな方ではないけど、話しかけたらちゃんと答えるし会話のキャッチボールはするようにしてるわよ。アンタみたいなコミュ症と一緒にすんな」
「ぐう」
ぐうの音も出てしまった。これを言われては燎平も引き下がるしかない。入学式の失態でもう彼に落ち度がありまくりな事は火を見るよりも明らかであった。
「雲陰さんと美紋さんが話しているのはよく見かけますよ?席が近いのは、確か数学の授業ですかね?」
「そうそう。数学の移動教室で席がたまたま近くて、よく話すようになったんだけど…」
「あー、だからじゃん。俺たちが知らないのはさ。美紋と暁はAクラスだろ?俺と来飛はBクラスだもん」
「あ、そっか」
個人によって波がある数学は、他のクラスとの合同でその実力により先生と教室が違うのだ。A(Advance)クラスには出来のいい美紋と暁が、B(Basic)クラスには出来の悪い燎平と来飛が振り分けられていたのだ。
「ごめんなさい。これは完ッ全に私のミスだわ……そこまで配慮できなかなった…」
「謝るな憐れむな同情するな。こっちが悲しくなるだろうが」
よよよ、と手を目に当てる美紋に対し半眼になる燎平。そのクラス分けは入学時の学力試験によって決められているらしい。実力によってクラスを分けるという事自体は効果的なのだろうが、たまにこういう事が起こるから出来の悪い組にとっては何とも言えなかった。
「その雲陰ってヤツ、あんま目立たないからクラスでも話す機会ないしな。よく知らないのは当然だろ」
「そうね……で、その陽乃ちゃんに、さっきみたいな私の部活の事話したら言われたの。もっと可愛い事してみたら?って」
「……………」
これには一同、返す言葉がなかった。いや、返したら返したで言葉ではなく拳が返ってきそうな予感がしたからだ。美紋とそれなりに付き合いが長い彼らだからこその直感であった。
「………ちょっと、何で誰も何も言わないのよ」
「…………………」
「それでも誰も何も言わないの!?何でよ!」
その雲陰も悪気があって言ったのではおそらくないのだろう。そもそもそんな事、彼ら三人から言わせれば恐ろしくて簡単には言えたものではない。
「……いや、皆さん美紋が俺たちに対しては言葉より先に手が出そうな事知ってるんで」
「流石にそんないきなり野蛮な事しないわよ!」
「えー」
「えー…」
「何よその疑いの眼差しは!ってかホラ!言葉が先に出てるじゃない!」
確かに、と納得する。もっと彼女が小さい時は今ので軽くどつかれていたかもしれないが、本当に弁えるようになったなぁ、と燎平は美紋の成長に謎の感動を覚えていた。
「…正直な話、私もちょっとなって思ってたのよ。空手と書道だけに邁進する女って…なんていうか、華がないなーって」
「あ、自覚はあったんだ」
「ぶっ飛ばすぞ」
ひいっと身構える燎平。何かと美紋と一番付き合いの長い彼の失言率が一番多い事が示すのは、燎平の学習能力の低さである。
「でもいいのではないですか?確かに、いかにも女の子らしいと言われれば、そうではないのかもしれませんが、和があって大変それはそれで良い事かと」
「……ん?暁、オメェいつもそんなおとなしかったか?今日はやけに月ヶ谷の肩を持つじゃねぇか」
来飛が気づく。いつもなら燎平に乗っかって一緒にからかうのも彼にとってはやぶさかではないはずなのに、それをしない。というか会話の数もいつもより増して少ない気がする、と燎平もそれは思っていた。
「いえ、特に普通ですよ?全然懲りたりとかしてませんから、ええ」
「………」
「フツウデスヨ」
美紋がにこっと微笑むと暁もつられて頬を緩める。但し声色だけは絶対に何かあった感じであった。無機質というか、無理やりそうしているというか。暁らしくないと言えば、彼も彼で少しいつもと違っていた。
「ってことは、高校で全くやったことない部活に入ろうかって思ってる訳?」
「……うん…そう、なるかな」
「例えばどんな」
「まだ具体的には決まってないけれど……一通り、気になった部を回ってみるつもり。陽乃ちゃんからは、テニス部に一緒に行ってみないかって誘われてるんだ」
へぇ、美紋がテニスか…と少しばかり燎平は想像してみる。
テニスキャップから生えた、一房のなびく黒髪と共に流れる汗。跳ねるボールを懸命に追いかける美紋。地味に似合いそうなユニフォームを着、炎天下の熱さと戦いながら首に巻いたタオルで汗を拭きながら水を飲みほす彼女。
「…悪くないんじゃないか?」
「でしょ?…へへ、ちょっと楽しみなんだぁ」
微笑を浮かべる美紋は本当に楽しそうだった。これが高校生活をこれから謳歌する普通の高校生の姿、普通の高校生活の日常であろう。燎平達も例外ではなく、その輝かしい未来が待っている。
本来であるならば。
彼女の微笑みの裏には、やはりどこか虚ろさが隠しきれずにいた。それは他の三人も同様。普段の彼らを彼ら自身が知っているからこそ、その違和感が浮き彫りになる。
真っ当な高校生になりたいのならば、やはり『あの事』抜きには語れない。
これらの会話は、彼らにとってほんの少しの現実逃避。
ギクシャクしているどこか偽物な空気を吸いつつ、燎平たちは歩を進める。というか、今回四人で集まったのは他でもない、『あの事』について話すためであった。
駅前の喫茶店『Reveal』。そこが、本日彼らが選んだ会議室であった。
来飛「そういやこの四人で話すのも久しぶりだな」
美紋「そうね…『あの事』もあるし、ここ二週間、そんな教室でも話す機会なかったしね」
暁「こうして話す機会を意図的に作るというのは、やはり良いものですね」
燎平「この中の二人とかだったらちょこちょこあったけど…いや、それもそんな無かったな思い返してみれば」
美紋「思ったけど、このグループでいると大体燎平いじられるよね」
暁「いじりますね。主に僕たちが」
来飛「そういう流れに自然になるもんな」
燎平「そうか…全員俺の敵だったのか…道理でいつもより疲れるなと思ったわ……」




