14 覚醒の片鱗
「ハァ、ハァ……ッハ、ァ……ッ!」
心臓がはち切れんばかりの鼓動を刻む。その音が聞こえてきそうな程に早く血液を全身に巡らせており、息を吐く回数が秒を重ねるごとに増している気がする。
ぶっちゃけた話、そもそも精神体なのでこれらの事は実際に起きている訳ではないが、焦りからか、精神というイメージがそうであるかのように促している。
今のでもう四回目。四回ここから逃げ出すためだけに全力で『異跡』を振るってきたが、四回とも相手の方が一枚上手だった。
自分の『異跡』の多様さを駆使して毎回異なる方法で攻撃をしてきたのだがまるで通じなかった。
残りの『異元』も万全の状態の二割程しか残っておらず、これがランクⅧかと痛感する。
「もうこうなったらアレしか……いや、でも……うわっと!」
波で感知しながら迫りくる触手を真横に飛ぶことでかわす。液体が付着しているモノが早い速度で迫ってくるならば、その液体が周囲に飛び散るのは想像に難くない。
勿論、今までのもあって薫の服は穴だらけ。オキニの一張羅は見事なまでにボロボロになっていた。
尚且つ、彼女の場合はさらに部が悪い。本来瞬殺できる『音速必滅波』(別名:スペシャル薫ビーム)は改名しようかと考える程に通じず、『超高濃度放射線集中投射』(別名:薫デス光線)は存在すらしてない程に役に立っていなかった。
本来なら、今までの『異怪』はそのどちらかで必ず、一匹も例外なく、ランクも関係なくぶっ殺せていた。
『敵が殺る前に殺る』。まさに攻撃全振りにも等しい戦術が成り立っていたのは仲間が一緒にいたからと、強力すぎる薫の『異跡』あってこそである。
しかしながらの今回のコレ。正直もうワケわかんない。完全にお手上げ。薫大ピンチ&スランプである。
「なんなのアイツマジで…ほんとキモイし臭いしうねうねぬめぬめしてるし服溶かしてくるし…最ッ悪なんですけど……ッ、いててて」
かろうじて傷はあらかじめ持っていた『癒紙』で大方治癒が完了している。だが蓄積されたダメージは消えても疲労は消えず、それに反比例して『異元』は減る一方である。
だが今までの攻撃が全て無駄であったかといえば否である。触手の数は最初の方に比べれば大分削ったし、攻撃が当たらないのに苛立ち始めたのか少し様子が変わっている。
皮膚が少し赤くなり、攻撃も少しずつではあるが乱雑になってきている。その方が薫としては読みやすいし対策のしようもあるが、何しろスピードが速いのだ。
それもまぁ慣れつつはあったが、そろそろ体力にも限界がきそうである。攻撃を感知する波を常に全方位に展開するのだって楽じゃあない。
決めるならもう考えている時間はなかった。
(あー、もうっ!疲れるし今残ってる『異元』ほぼ全部持ってかれるし何よりダサいから絶対これだけは使いたくなかったけど!もうやるしかない!)
薫は覚悟を決めた。幸いここには彼女とオベルガイア以外誰もいない。それが一番の都合でもあった。
バッ、っと元々中庭のオブジェであった物陰から身を乗り出し、足を踏ん張る。そして、限界まで大きく息を吸い込む。当然、オベルガイアはそれに気づき触手を伸ばしてくる。
ところで、最も簡単で最速かつ音量も出る、人間ができることと言えば何だろうか?
手を叩く?楽器を弾く?……否、である。
答えは、
『わ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!』
俺はジャイ○ン。ガキ大将。
種別問わず太古から知られる威嚇方法。そう、発声である。
残りのほぼ全『異元』を乗せて、薫は叫ぶ。クソほどダサいが、威力は絶大。
彼女に伸びかけていた触手も圧倒的なまでの声の質量に押され、後退する。彼女の口から発せられる咆哮はあらゆるものに対しその振動を共有する。
中庭を囲む校舎周りの窓は例外なく全部割れ、柱や壁にもヒビが入る。戦闘で壊され瓦礫と化した中庭にあったオブジェも吹っ飛び、オベルガイアですらもあまりの突然の事態に多少なりともひるんでいた。
『ああぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』
段々とキツくなってくる。薫は肺活量は元々そこそこある方だが、これだけの音量はそう長くは持たない。オベルガイアがひるんでるうちに、じりじりと距離を取っていく薫。
いける、と思った。もう距離はだいぶ離れている。あと少し、あと少し引き離せば逃げ道を確保できる。
だが、そういう正念場に限って目の前の事に集中できない事もあるというもの。彼女の中でどこまで攻撃を続けるかと逃走ルートを保持する確実性のバランスで僅かな、ほんの僅かな隙が生まれた。
原因は、足元。
攻撃と逃走で頭がいっぱいになるあまり、波での感知を一瞬おろそかにしてしまった。
つまり、地面の中を通して接近する触手には気づかなかった。
単純にオベルガイアは振動の負荷を減らすために、地面をクッション代わりとして使っていただけの話。
『あーーーッ、あ、え、うぇッ!?」
足首を絡めとられた時点で、雌雄は決した。
「え、え、何ちょっとコレ!?ちょっと待……っごッ!!?」
煩い、と言わんばかりにオベルガイアは容赦なく彼女を地面に叩きつける。それだけで彼女の華奢な身体は傷つき、赤黒い液体が飛び散る。
「ブッ…は、あ……っぐ、そ……やってくれ、ちゃって……」
額と鼻、口からダラダラと血を流す薫。精神体なので痛みは少ないが、『身体が異常』という危機感はどうにも慣れないモノがあった。
中々のダメージを与えたにも関わらずなお敵意をむき出しにする彼女が癪に障ったのか、新たな触手で彼女の全身をきつく締め上げる。
「あぁああああッ!!流石にコレは…痛い、ってぇ……」
骨までミシミシと悲鳴をあげるその拘束力に思わず涙目になる薫。身体を守る役割である服ももはや機能を無くし、只の布きれとして薫の身体にぶら下がっている。
流石にもう『異元』も一割も残ってはいない。先程の攻撃は一応、仲間へのヘルプメッセージでもあったのだがここで来てくれなければ完全に詰みである。
(薫…、ここで死んじゃうのかな……)
次第に増す締め付けと身体に染み込む強酸に耐えかねず、声にならない悲鳴をあげる。
(それは、嫌だな………まだ、やりたい事いっぱいあるし…何より…)
あまりの痛みに頭が真っ白になり、意識が飛びそうになる。
(ごめんね…ダメなお姉ちゃんで……風斗…)
ああ、これが走馬燈というヤツかな、とこんな状況なのに何故か笑みが零れてしまう。
目の前のオベルガイアの変化にも気づかず、静かに目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは最愛の弟と、家族の笑顔。
私の『不条理』は、そういえば、あの瞬間から――
「オイ、待てよ。心地よさそうな夢見てんじゃねぇぞ」
ッ!!?と目を見開く。
幻聴であってほしかった。このまま夢の中にいさせてほしかった。
「…な、何で……アンタが…」
そこには、息を切らしながらも拳を握りしめる、一人の漢が立っていた。
「……待ってろ。今、助けるから」
内心、恐ろしいだろう。
目の前に自分の数倍はある体長の化け物。漏れ出る凶悪な『異元』。加えて先程まで化け物を相手に無双していた彼女がボロボロになって捕まっている現状。
正直、『異元展開』無しでは立っているだけでも辛いだろう。オベルガイアを見て気絶しないだけでも驚嘆に値する。
恐怖は彼の中にも勿論存在していた。よくよく見れば手は震え、口の端は歪んでいる。
だが、彼の声、彼の瞳だけはブレてはいなかった。真っ直ぐこちらを見据え、ゆっくりと向かってくる。
「ダメ、…来ちゃダメ…!早く、逃げ…」
こみ上げる血液が発声を拒む。物理的な距離と、喉の奥で鳴るゴポッという水音が邪魔してはっきりと声が届いていないかも知れない。それでも薫は叫んでいた。
もう、自分のせいで誰かを巻き込みたくなかったから。
「逃げ、早…ッ!?」
瞬間、彼の身体が真後ろに飛ぶ。当然、オベルガイアは黙って見過ごすほど寛容な性格ではなかった。
「あ、あ……!あぁ………!」
いくら彼が鍛えていたとしても、『異元展開』の強度には届かない。
今自分がこんな状態なのだから、生身である彼がオベルガイアの一撃を貰ってどうなっているかは明らかだった。
全身にびしゃりと冷水を浴びた感覚。顔が真っ青になる。
目からは自然と涙が溢れ、あまりの悲愴感で顔が歪む。
「い、嫌……イヤアァアアアアアアッッ!!!」
○○○
(あ、れ……何が……起きたんだこりゃ…)
身体がうまく動かない。何故か視界が真っ暗だ。
正直、自分の頭ではどこをどう来たなんか覚えてないため手探りの状態であったが、先程聞こえた珍妙かつバカデカい声?のようなもので居場所が掴めたのは幸いだった。
確か、薫を見つけて近寄った所までは覚えている。それから、なんか一瞬ふわってしたかと思うと身体の自由が利かないときた。
数秒経って、凄まじい痛みが襲ってくる。いや、痛いっていうより、熱い。滅茶苦茶に熱い。
「ぐお、あァ……ッ」
熱い。熱い熱い痛い熱い熱い熱い熱い痛い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
自分の身体がどうなったかは、おおよそ予測がついた。
――威勢張ってこのザマかよ。
(…っるっせェ……)
――ダッセェな。何が今助ける、だ。見世物にもなってねぇぞ。
(だから…黙ってろよ……クソが…)
――お前はいつもそうだ。後先考えずに勢いだけで突っ走る能無し。
(……ああ)
――それで、周りを巻き込んで。自己満足に浸って。
(そう…だな)
――黒澤来飛。お前は何だ?何がしたいんだ結局?今回だってそうだろうが。
(俺は…ただ、見過ごせなかっただけだ…)
――そうだな?あんなちんまりした女に任せっきりはプライドが許さないよな?……でもさぁ、死んだら終わりじゃねぇか。何もかも。
(かもな……もう、力が全く入らねぇよ)
――やってから後悔した方がいいっつったってよ、限度があるだろ。後悔はそもそも生きてなきゃ出来ないんだからよ。
(なら…俺は、それだけの…バカだったって、だけの話だ……)
――じゃあよ、アレはいいのか?お前を必死こいて助けてくれた女が今ボロボロになって泣いてるんだぜ?
(な、に……?)
――捕まってるのに泣きながら暴れまくってたんだよ。クソみてぇなお前のためにな。あんだけボロボロで血まみれなのにまだ人を助けたがってやがる。どっかのバカと似てるな?
(駄目、だ……)
駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ。
それは、自分の一番嫌いなものだ。それは、自分の一番見たくないものだ。
「だ、れが……」
誰が。泣かせた。
――もうお前は動ける身体じゃないんだが?
関係ねぇ。
――相手はあの化け物だぞ?
関係ねぇ。
――また、一瞬でやられるぞ?
「だから、関係ねぇって、言ってんだろ……ッ!」
とにかく殴る。まず殴る。ぶっ飛ばす。絶対ぶっ飛ばす。
戦力差も体格差も重量差も知ったこっちゃねぇ。気が済むまでぶん殴る。何されようが関係ねぇ。
「俺はッ、もう、二度と……ッ!」
女の涙なんて、見たくない。
『その意気や良し。刹那であれば力を貸そうか?若造』
何か、聞こえた気がした。
瞬間、意識が漂白される。
身体の中に新たな熱が灯る。今までと違い痛みを伴うものではなく、胸の内がアツくなるような、そういう類の力が動かない四肢を満たしていく。
『さぁ儂に見せてみよ。己の馬鹿を』
○○○
変化に気づいたのは、彼を捉えた後であった。
急速に温度が上がっていく彼の肢体。その熱に耐えきれず、危険を察知した故か思わず彼の束縛を解くオベルガイア。
触手から煙が上がる。何が起こったのかも理解できないまま、オベルガイアはただ茫然と目の前のちっぽけな男が立ち上がる様を見ているしかなかった。
「よぉ……デカブツ…、好きな方を選べよ」
拳を握る。足を踏ん張る。奴に向けて目を据える。
「目も当てられねぇ肉塊になるか、」
ズンッッ!!、と。跳躍。
「壁のシミになるかなァ!!!」
そして数発、化物にお見舞いする。
ただ、ありえない音がしただけ。
ただ、あり得ない事が起きただけ。
その一連の動作が一秒の半分で起きた。その勢いと衝撃に耐えきれず、10メートル超の体躯のオベルガイアがズシィン!と重い音を立てて転倒していた。
それらがごく当たり前かのように、ずっと前からしてきたかのように、息をするかのようにしていた来飛は迫る触手を素手で弾き、さらにもう一発重い一撃を巨体にズドン!!とかます。
かなり効いたのか、触手による厳重な拘束が緩み、縛られていた薫が解放される。
その華奢な身体が地面に到達する前に、空中でそっと抱き上げた。
「………、サンキューな」
まずかけるべき言葉は礼であると思った。謝罪や憐れみはきっと身を挺して守ってくれた彼女への侮辱になってしまうだろうから。
意識がない薫であったが、ほんの少しだけ、その瞬間だけ表情が柔らかくなった気がした。
「……さて、と」
改めて身構える。彼女の事は被害が及ばないような、安全な場所に寝かせておいた。
身体が熱い。先程の痛みから来る熱さとはまた別の熱。身体全体が火そのもののようだった。とにかくエネルギーが溢れてくる。動きたくて仕方ない。
その熱、厳密には独特な『異元』が反映されてか髪は所々黒の隙間に鮮やかな赤が見え、身体の方もも日焼けしたように赤くなっている。
知らぬ間に超人的な動きが出来るようになっていたり、オベルガイアの酸を直接触っても全く問題がない強度の肉体になっていたようだ。
「……色々と不思議な事っちゃあるが、今は…こっちに集中させてくれ、旦那」
来飛が独り言をつぶやき終える頃には彼同様、怒りで完全に皮膚が真っ赤に染まったオベルガイアが目の前にいた。
「ようやく向こうもその気になったか……っと」
凄まじい速度で伸びる触手が彼の真横を通過する。否、触手の狙いは正確だった。来飛の方が触手を見極め、瞬間的に横に移動したのだ。
「その程度か、よッ!!」
頭部に繰り出すは踵落とし。あまりの速さ故、一瞬遅れて地面が割れる音がした程だった。喧嘩でもそうだったが、一度こちらのペースになったのなら反撃する隙を与えるのは愚策。追撃は早ければ早い方が良い。
「オラオラオラオラァアア!!」
ゴン、ガガン、とオベルガイアの頭部が彼の蹴りを喰らうたびに凄まじい音を立てて陥没していく。
オベルガイアも何とか彼を捕縛しようと触手を繰り出すが、逆に引きちぎられたり触手同士を結ばれたりして意味を成せないでいた。
『グギャオオオァアアアアアアアッ!!!』
怒りで咆哮するオベルガイア。邪魔者を捉えようとも圧倒的なすばしこっさで姿すら捉えるのも危うく、その抜きんでたパワーは鋼鉄にも勝る自分の鎧の形すら変形させる。
幸いオベルガイアも即時に回復するため、致命的なダメージは受けてはいないがいい加減こざかしい。今まで通りでは決定打に欠けると判断したオベルガイアはパターンを変えた。
糸で釣れない魚がいるなら網にかければいい。
つまり、広範囲攻撃。その具体的な手段は酸。オベルガイアはできる限りの広範囲に酸を吹き散らした。
『異怪』のランクが上がるにほぼ比例し、知能も上がる。その網には、一か所だけ穴があった。
「…なッ!?」
そして案の定、来飛の脳は筋肉で出来ていた。それが罠とはいざ知らず、お、ラッキー程度のノリでその穴に突っ込んだのが間違いだった。
目的は捉える事ではない。ならば網の方の仕掛けは完全でなくとも良い。獲物がそこに現れると分かっているならば、そこにあらかじめ攻撃をしておけば自動的に相手から当たりにいってくれるというもの。
酸の網に唯一出来ていた穴に向けて、出せる限りのフルパワーでひと際太い触手を払うオベルガイア。何本かの触手を重ねると、スピードが売りだった分それを犠牲にし一本の時の数倍のパワーを得る。
オベルガイアが放つ触手数本分のパワーを来飛は腕を交差させ、何とか受け止めていた。だがかなり堪えたのか、腕は震え、両足は地面に少しばかり陥没している。
「ンの野郎……、ナメた真似してくれやがってよ…ォオオ!」
来飛が力づくでオベルガイアの触手を跳ね返す。まさかはね返されるとは思ってもいなかったのか、オベルガイアの顔に若干動揺の色が浮かぶ。
その隙を見逃すほど来飛は甘くはなかった。
「……百倍返しだ」
自分の中に生まれた残りの『異元』を全て右手に集める。少なくとも、来飛は『異元』の存在自体まだ知らない。そのため単に力を籠める、或いはイメージで『異元』の流れをコントロールしていた。
「オオオァアアアア!!!」
叫ぶと同時、懐へ一閃。
一秒後、起こったのは轟音。ただの殴打の影響で成される音とは程遠い爆音が鳴り響く。一瞬、しかしてどこまでも響き渡りそうなそれに最も近しいのは雷鳴。
…否。実際に攻撃を叩きこむ際、爆発的な『異元』の増加と共に確かに彼の拳は黒い稲妻を纏っていた。証拠として、繰り出した右腕からはバチ、バチチとその余韻が這っている。
そんな鉄拳を防御もできずにそのままモロに喰らっては、流石のオベルガイアもただでは済まなかった。所々再生が追い付いていないのか、体中から煙が上がり、口からは煙と共に大量の粘液が零れている。
数ある触手は全て機能を失い、だらんと地面に力なく垂れる。白い鎧は半壊し、特に来飛の拳を受け止めた部分に至っては原型が分からない程に割れ、全壊していた。
「へ、へへ……ざまァ、みやがれってんだ……」
ズウゥン、地面が揺れるような音を立て横たわるオベルガイア。それを見て満足したのか、供給された『異元』が尽きたのか、来飛も時同じくして膝を折る。
事実、オベルガイアは息絶えてはいないが再生が追い付いていない。再生どころか、それの元となるオベルガイアの『異元』の体内循環自体がうまく働いていないのだ。どうも彼の黒雷を伴った一撃が原因らしい。
先程、触手一薙ぎで紙クズの如く吹き飛んでいた少年が、今しがた見せた目を見開くような攻撃をしたとはオベルガイアはとても思えなかった。
その変化の原因は明らかで、彼を一度捕縛した際行ったあの行為である。だがこうも裏目に出るとは予想すらしていなかった。
そもそもオベルガイアは今回のようなケースは今まで見たこともなかったし、今回の主からも聞いたこともなかったのだ。
しかし、動けないのも時間の問題。先刻の来飛の攻撃の効果が薄れてきたのか、徐々に組織の再生が始まってきている。完全に再生し終えた後、横たわっている彼をどうするかは完全にオベルガイアの手中にある。
「……!?」
だが、そうする機会は永遠に訪れなかった。
突如、地面全体、学校全体が揺れ始める。震度6以上はある地震のそれは、さながら大災害というより、天災に近かった。
壁が割れ、地面が割れ、大気が割れる。そこから出てくるのは暗黒。別次元の何か。
エネルギーがあるようでないその空間は、オベルガイアにある感情を植え付ける。
恐怖、あるいは戦慄。
それはオベルガイアにとって慣れていない感情だった。得体のしれないものが自分に近づいてくる奇妙な感覚。自分が動けない何故このタイミングで、とオベルガイアは運命を呪うが時すでに遅し。
オベルガイアが改めてそれらの感情を認識する頃には、辺り一面漆黒に染まっていた。
来飛「にしても、あのバカデカい声?…音?みたいなのは一体何だったんだ?耳痛くなったんだけど」
薫「さ、さぁね~?何だろうね、あははは」
来飛「聞いてるだけで頭がキンキン鳴ってさ、行きたくなかったんだけどもしかしたら、って思ってよ」
薫「あ~、私も頭痛かったわ~…色んな意味で」
来飛「先輩よぉ、近くにいたんだろ?だったらなんか知ってるだろ?ってかどう考えてもあのデカブツの仕業だろあんな奇声」
薫「き、奇声とは何だよ奇声とは!」
来飛「え?」
薫「……あっ」




