第九話
引き続き、狂気と夢の世界をお楽しみください。
「ふがし、ちゃん、……?其れは、…どう言う意味かなぁ?」
困ったような笑みを浮かべる寝娘。
「あれぇ?わっかんないかなぁー…」
其処で一呼吸置くと、スッと寝娘を見据える。とても冷淡な目付きで。
「貴女がこの事件の首謀者ですよね?」
ひたり。ひたり。歩み寄る。雰囲気が何時ものふざけた調子とはまるで違う。
「わ、私、は、………ちが、しらな、……」
其の声は震えている。しかしふがしは其処でにっこりと笑った。
「別にね?だからって君を責め立てようとか、そう言う事じゃないんだ。」
「……?」
「僕はね、常日頃から思ってるんだ。人を、一度で好いから此の手で殺してみたいなぁ…って。」
その瞬間、寝娘の目が恐怖に揺れる。
寝娘は自分の所業を思い出していた。その総ては、……そう、総てはふがしに気に入られる為に。
オフ会を言い出したのは寝娘だ。主催者は別の人と成っていたが、それを提案し裏で糸を引いていた。そして最初からふがしが少食なことを知っていたため、食事に毒を盛った。念のため、ふがしの嫌いな食べ物を調査することも忘れなかった。
部屋の飾りつけは元々出来ていた。必死に飾り付けたのだ。吐き気を堪え、嫌悪感を堪え。愛する一人の女性の為に。独りぼっちの想い人の為に。
計算外だったのは、残された人達。其れだけならまだ好かった。一番の想定外は謎の少女。本来は毒で全員を殺し、もし余りが居ても隠し持ったナイフで惨殺し、ふがしに告白する予定だったのだ。
なのに。
今、寝娘の目の前には鉈を振り上げるふがしの姿。
「人を殺していいのは殺される覚悟の有る人だけ。だから、逆に言えば人殺しが居たら其の人の事は殺しても好いのでしょう?」
「ふがしちゃんが殺してくれるなら、其れでもいい、かな、……愛してるよ。」
ふがしの表情は驚き、そして暗く悲しい表情へと変わり、其れすらも一瞬でおわった。
「…これは、僕の為だったの?なら、僕の為に、願いを叶える為に、僕に殺されてくれる?」
一瞬の絶望をひた隠し、恍惚とした表情を浮かべる。其の顔は狂喜に満ちていた。
ああ、真正って、こう言う風に楽しみながら殺せるんだ。私はまだまだだなぁ…
なんて、思い乍。
最後に一つ、如何してもふがしの口から聞きたかった。
「ねぇ、ふがしちゃん。…私の事好き?」
「好き。大好きだよ。」
「……愛して、くれる?」
ピクリと反応する。一瞬、憎悪と怒りに満ちた表情を見せる。何時も笑顔のふがしからは想像も出来ない物だった。
寝娘は自然、身構える。
しかし表情を崩したのはやはり一瞬のみで、其の後は哀しみとも憂いとも、困った様にも取れる表情をし、静かに首を振った。
「………ごめんね、『私』は人を愛しちゃいけないんだ。ホントにごめんね。…好きだよ。」
そして、鉈を思いきり振り降ろした。
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次回、最終話です。




