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尖った女の話

作者: 白川梅雨

結構暗くてドロドロしています。説教染みていますがそれでも構わない方はどうぞ。

「付き合っていないのに付き合っているように話してくる人がいるでしょう。そういう人に告白の機会を与えないで、友達として対応するの。それで、どこまで気付かないかって実験したことがあるのよ。


その人、私と同じ登山サークルの人で、週末のハイキングとか連休の登山とかそういう時、必ず私の隣で居るの。ほら私って結構人見知りでしょ。だけど、人見を知り隠すのは得意だから。いつも、笑顔でポンポン話す癖に、必要以上のことを話したり、必要以上に好印象なキャラクターで接してしまって後で後悔するの。

だから、出会ってこの方私は、彼が自慢げに話しているのを笑顔でうんうん、って聞いていたの。性格がよくて話が聞き上手な女の子を演じて。流石にずっとそれじゃ疲れちゃうから、女子のグループに混ざって話したりしていたの。

でも、私は人の話を聞くことに関しては、そこまで苦痛じゃなかったから、丁寧に対応していた。ただ、これほど話を聞くのは私だけだったみたいで、彼にとっては嬉しかったことみたい。

彼と話すことは、サークル以外でもあった。月曜の授業で、彼とは学科が違うけれど、一緒に授業を受けた。同じ学科の人はみんな受けていない授業で、私はいつも一人だから、彼は隣に座る。

私、その授業は好きだから、ノートとかたくさんとって、真剣に聞いくけれど、彼はそうではないみたいだった。いつも携帯電話をいじっていて、たまにネットで見つけた笑える画像なんかを見せてくる。真剣に受講しているのだから声をかけないでほしい。

だけれど、同じサークルだから余りそういう…マイナスな表情は出さない方がいいのかなって、取り敢えず笑顔で頷くようにはしていた。必要以上にいいキャラクターを演じている最中だったから。ま、私の様子を察してくれたのか、三か月くらいでそれはやめてはくれたのだけれど。


私が見る限り…あ、私が見る限りね。すごく主観的だし、そうじゃないのかもしれないのだけれど、私は彼のような人を余り好きになれないと思った。人としてはいい人なのだと思うのだけれど、私は何処か人と違う人が好き。好きなことに一生懸命で、そういうことに凄く熱心な人とか。…そうね。振り切っている人が好きなのかも。

誰かから見たら私も同じような人間なのかもしれないのだけれど。彼のような自分にとって〈どうでもいいようなこと〉に真剣で、〈本当にしたいこと〉を見失っている人って余りカッコいいとは思わない。本気でバカやるならそれはそれでいいと思う。けれど、そのバカさ加減も微妙で、…何がしたいのか本気でわからない。大学生にはそういう人多いわ。

そんなこんなで、私は彼のこと、恋愛対象で見ていない。…なんというか、そういう土台に入っていないから。もしかしたら、これから彼の印象が変わって好きになるのかもしれないけれど、その時は完全にそうじゃなかった。



それで思いついたわ。

私はこのまま愛想笑いを続けて、その気にさせようとはしない。だって、そういう行動をするのは彼に悪いから。

彼の話が面白くなかったらそれなりに対応して、面白い時は笑う。彼から恋愛感情を向けられていようが向けられていまいが関係なく。

その代わり、思いっきり避けたり彼を拒否したりもしない。普通のお友達として、私は私のまま過ごす。遊びを断りたい時は断り、遊ぶときは遊ぶ。つまりは過剰な反応はしないということだ。出来る限り自分の考える自然体を思い浮かべて対応する。そうやって、彼がどういった対応をしてくるか気になったの。


ああ、結果? 結果は、彼は結局私に告白するまでもなく、私の友達が「私は彼に興味がない。」ということを話して諦めたわ。…あはは、彼はヘタレに見えるわよね。彼はプライドが高かったから、振られるということを予想していなかったけれど、もしそうなったときが恐ろしくて告白できなかったんだと思うわ。



彼との会話は初め、彼が話す内容に私が頷いていたの。好きなお笑い芸人のこととか、バイトの話とか、課題の話とか。彼はやっぱりプライドが高いが自分に優しかった。

ちなみに彼のプライドの高さを感じるようになったのは、半年くらいが経ったとき。彼はいつも課題に対して「疲れた。」だの、「多すぎる。」だの文句を言っていたの。

彼は建築学科でね、ウチの大学では一位二位を競うほど、課題が多く厳しいらしいの。毎週図面を書く課題があるらしくて、仕事ではパソコンが使えるのだけれど、今は手書きで基礎を覚えなければならないと先生にキツく言われていたらしいの。

初めは「建築学科は大変なのね。」と話を聞いていたの。どれだけ頑張っている人も、文句を言いながら歯を食いしばって努力する人もいるもの。確かに周りに文句を振りまく人は余り良いとは思えないのだけれど、それでも愚痴を言いたくなる人もいるのだからそれくらい我慢していたの。

何か言おうにもどうしようもなかったものね。

でもある時聞いたの。その課題、どんなに遅い人でも、休日丸一日使えば完成する、と。確か彼は土曜日に授業を入れていなかった。その日にやればいいじゃないか。彼は下宿ではなく実家から通っているのだから、家事などに追われることもないじゃないか。

とにかく彼は出来ない理由を忙しさに求めたの。自分を正当化するのが得意で、こういう理論を立てたのだと、自慢げに語ることも多かった。建築の課題に対して何か高尚なことをいつも語っていたけれど、彼自身の言葉には思えなかった。自分は優等生なのだととにかく語る。

それでいて、自分に甘い。

ま、私にとってはどうでもよかったの。彼に取って課題が辛いものなのだとしても、私には関係ないもの。彼の意見なのだから、反論する必要もない。ここで彼と意見の一致をさせる必要はないし、私は彼の発言にそこまで興味はなかった。

聞き流していたら、彼はやっと私の様子に気が付いたらしく、そういうことを話すのをやめた。


それから彼は、私は何が好きなのかと聞いてきた。何が好きなのか、と聞かれれば私の好きなものはいろいろあり過ぎて困る。物語を書く学科だから小説とか文章系は好きだし、その文章から知った新しい世界も面白いと思う。歴史的偉人の心温まるエピソードや、軍の緊張感漂う作戦、数学の論理的な証明問題だったり、哲学的なものの考え。小学生が驚くような科学実験が面白かったり、地元に伝わる妖怪伝説が面白かったり。


そう話すと彼は少し考えて「もしかして、頭がいい人が好きなの。」と聞いてきた。

私は頭がいい人が好きなわけじゃないの。自分の趣味を私に面白く魅力的にプレゼンすることができて、私をそういう趣味に引き込んでくれるような人が好きだ。

そう思ったけれど、何とも私が受け身すぎて、自分が少し傲慢に見えてこの言葉は飲み込んだ。

「面白い人が好きなのかもね。頭がいい人って、私が思いつかないことを思いつくから面白いし…最終的には面白い人がいいのかも。」そんな感じで答えたの。



いつも笑顔でしっかり話を聞く私は彼にとって、「面白い人」であれたように思えたらしい。

その頃には彼の面白さはもう私には面白いと感じれなくなっていて、笑顔で頷いていたのもやんわりと話を切るようになっていった。サークルの女の子には「私は別に彼に興味ないの。」とは言っていたから、そういう噂にはなっていなかったし、サークルでも女子と一緒に居る方が多くなったわ。

彼と仲がいい一部の男子は、彼を応援していたらしい。後で聞いた話だけれど、告白しろ、と背中を押していた人も大勢いたらしい。


でも、私が次第にさらりと避けたら彼は不安に思ったみたい。あ、意図的に避けないと言ったけれど、それは、恋愛感情を向けられているから、という理由では避けないってこと。友達としても、嫌になって来てまで一緒にいるのは間違ってると思うから私は避けたの。


そういうくらいに、彼と他に仲が良い女子が私に聞いてきた。彼女は私と少しタイプが違う、建築学科の同い年だったのだけれど、彼の味方のようだった。

「最近アイツと仲悪いけど、どうなの。」

だから私は正直に言った。

「悪くも良くもないよ。ただ、余り話さないだけ。」

すると、彼女は驚いていた。

「私、アイツのこと好きなのかと思った。」

「恋愛関係では好きじゃないよ。」

「あ、ごめん。アイツの話楽しそうに聞いてたからそうなのかと思った。」

こういう時、サバサバした女子は有難いと思う。好きなんじゃないの、とかそういうことを押しつけがましく言ってくる女子って本当に面倒臭いから。じゃあ、好きじゃないときは何と言えばいいの。と返したくなる。

「建築の話なんて余り聞かないもの。話のネタにできそうだから。」

酷い言い方かもしれない。

私が高校生の時、そういうことを言うと、「いい加減小説から離れなよ。」と言われたことがある。私は普段いろんなことを考えながらも常に物語のネタを考えている。

何かを作りたい人ってそういうものじゃないの。そう思うのは私だけなのかな。そうだったとしたら、彼女には悪い印象になるだろう。しかし、私と性質が似ているのかもしれなかった。

「それもそうだね。…んー、でも彼の話よりも本とか読んだ方がネタになるんじゃない? 」彼女は尋ねた。

「建築学科の生徒の生の声を聞きたかったんだけど、…彼の意見は結構聞いたし、もういいかなって思っていたところ。」私が答える。

これまた酷い発言ね。

しかし、彼女はそれをわかってくれた。芸術大学なんてものに来るくらいだから、彼女も私と同じで常にネタを探しているような人だった。



入学して半年、そういう人じゃなくて、漫画とかゲームを見て「これが面白い。」だなんて評論家気取りしている人ばかり見てきたから、自分の作品の為に常に考えている人に会えたのは凄く嬉しかった。

その旨を伝えると、彼女は自分がそういう人かはわからないけれど、と前置きをして、いろいろ話が盛り上がった。


それから暫くして、彼の対応が普通の女友達に対するそれに変わったのは私からしたらすぐにわかった。建築学科の彼女に話した内容を、飲み会の時に彼女が話してくれたらしい。

「好きじゃないらしいよ。諦めれば。」みたいな無責任な言い方ではなかったらしく、彼の対応は大人だった。

私に当たるでもなく、彼女を介したことによる人間関係のギクシャクもなく。私が感じていないだけなのかもしれないが、少し彼が考えて物を話すようになったのも彼女のお蔭かもしれない。


さて、私の実験には副産物があったの。私は彼に対して何もしなかった。

本当に何もしなかったの。

けれど、…ほぼ建築学科の彼女の手柄かもしれない。彼は少しずつ口だけの人間ではなく、行動が伴う人間になってきたの。


彼女が何をしたのかは知らないけれど、たまに会う彼は段々自分の気に入らないものを批判的に見て自己を守る人から、周りに寛容な人間になってきた。

それから、建築の課題にも身が入るようになってコンペなどもいいところへ行くようになったらしい。

私と彼女と彼で、古本屋巡りをしたり、寺院を見て、話したりすることも増えて、自分のしたいことに忠実になったように思えるの。



彼は今では売れっ子建築家。雑誌でも取り上げられるし、若手のホープって言われているわ。元々プライドは高かったから、かっこ悪いことをしたくないって原動力が凄かったらしいの。

そして、建築学科の彼女はその彼の妻をやりつつ、一緒に仕事をしているの。

結婚して何年も経っているけど、ずっと楽しそうよ。


良い話ね。私の〈振り切った人が好き〉っていう考えが彼女たちを一緒にしたのだから。ま、私は本当に何もしていないんだけれどね。


ちなみに私はただの主婦。とある大学の准教授と結婚して、子供もいる。小説は、というと昔一冊出したっきりでどの話も良いとは言われていない。


何が良くて何が悪かったかと言うのは私にはわからないけれど、ただ言えることは、私は結局ただのクズだったってこと。

男にケチつけるだけの行動力のないクズ。


なんというか、…因果応報過ぎて、悲しくて笑えてきちゃう。


私、思ったの。

文句を言っても私の中が真っ黒になるだけだって。


「プライド高いクズじゃん! 」って笑いながら彼に伝えて、「頑張ろ! 」って言っていた彼女は明るくて前を向けていたのでしょうね。」


真面目系クズを描きたいと思ったらなんだか教訓染みてしまいました。別に説教したいわけではないんですけどね。真面目系クズの思考でいうとこう説教染みるのかな、と思っただけです。私自身、自分は真面目系クズだと思っているので、自分の思考を参考にしています。


もし、自分の性格が嫌いすぎる、とかいう貴方。

大丈夫! 私はクズでも生きてます! 性格治す気ないです! 

自分の身の丈に合わないことをして、滑稽に見えるよりも自分の本質を貫く方がいいように思えたので! 

それに、良い人だけいる世界とかつまんないですからね。真面目系クズも立派な世界の一部です。

この話でショックを受けた方、すみませんでした。

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