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猫と狼

今回は結構長めです。

屋敷にいる呪われたもの、最後の二人です。

でも、まだ喋りません。

なんで猫だとか狼だとか、そんな理由でこんなことされなくちゃならない?

呪われているのだとしても、元は同じ人間で、いや今だって人間であることは変わらない。呪われているというだけ。

大きな違いだと思うかもしれないけど、今俺の前にいるのは気づついた人にしか見えない。


後から考えれば、この人達が何かしたり、理由があってこの状態になっているとか、もっと考えられることはたくさんあったと思うけど、あまりにも非日常的な光景を見てそこまで考えることが出来なかったんだと思う。


なんの反応もない戒さんを不思議に思い、そちらに顔を向けると戒さんは驚いた表情だったが俺と目が合うと眉をひそめて俺を見てきた。俺はそんな様子に焦れったくなってもう一度声を掛ける。


「戒さん?あの「何故だ?」」

「え?」

「…ただの偽善ならやめておけ」


急に口調が変わった戒さんに俺は口を閉ざす。

戒さんの急な態度の変化にも驚いたけど、それよりも言われた内容を自分で再度問いかけてみる。


偽善・・・なのかな?

こんなに悲しくなって、苦しくなってしまうこの気持ちが・・・?


「・・・わかりません」

「わからない?」

「戒さんから見たら偽善かもしれない。俺は2人の、みなさんのことを知りません。どんなことがあって、どんな気持ちでここにいるのかもわからないです。でも、こんな姿は見たくないんです。」


戒さんは黙って俺を見ている。

俺はなにをやってるんだろ。今会った・・・見たばかりの他人のためにこんなことを言って、もしかしたら助けること自体がいけないことかもしれない。・・・それでも苦しんでいる人を見ているだけなんて俺は嫌だ。偽善だと笑われてもいい、自己満足だと思われても構わない。俺はもう、母さんの時のように後悔したくない。


「見たくないならもうここには来なければいい。放っておいてもお前に害はないはずだ。お前は‘主’だ。俺たちは何をされても文句は言えない。殴られても、人間として扱われなくても。」

「俺は・・・・・・・主になるつもりはありません。」

「…なに?」


戒さんは低く唸るような声で言うが、俺は目をそらさないよう必死に戒さんの目を見る。睨むように黄色い目が俺を見ている。

正直怖い。目もそらしてしまいたい。でも、ここでそらしたりしたら負け、というか意地というか…とにかく負けないように戒さんを見る。


「こんなことをするのが主だというのなら、俺はなりたくない。それに…元々俺は主になるつもりで、ここに来たわけじゃありません」

「じゃあ、なんのためだ」

「・・・それは」


やっぱり聞かれるよね。というか、普通に考えて今までいたところから離れてここに来るということは主になる為だと思う。

正直、主についてはこんなに早く言う予定じゃなかったんだけどなぁ。

早く言っておいた方が余計な期待とかされないけど、主にならないなら俺がここにいる理由はなくなるってことになる。あ、でも主になる資格を持つのも俺だけで…あれ?そうなるとやっぱり主にはならないといけないわけで、でも俺は主になりたいとは思わなくて…

自分で言ってから今後のことを考えてみると、結局主になることは確定なんじゃないかって思えてきた。

俺は主になりたいわけではなかったけど、なりたくないとも思ってなかった。けど、さっきの人達を見て主というものが好かれているわけではない、寧ろ嫌われているとしか思えない状況から正直主というものが本当に必要な存在なのかと疑問に思ってしまったのは確かだ。

これが例えば王がいなければ国としてまとまることができず、

混乱を生み生活が出来ないというなら王は必要だろう。でもここは国でもないし、主という存在がなくても生活はできる…と思う。というより、いない方がここの人にとっては良いことなんじゃないかと思った。と、主についての俺の考察はとりあえず置いておいて、今はそれよりも戒さんの質問だ。

そして今更ながら、それこそ自分勝手と思われるような理由を伝える。


「それは、ひとりに・・・独りになりたくなかったからです」


俺は言っていて恐くなってきた。さっきまで負けないようにと合わせていた目線もそらしてしまうほどに。ただ独りになりたくないという理由だけでここに来た。さっき主について考えていたが、もし印があるとしても主になりたくないと言ってならないで済むなら、ここにいる理由はなくなる。

また独りになってしまう―――――

やっぱり主にならないと言わないでおいた方が、良かったのか。


あぁ、でも違うな。また独りになるというのは。だって俺は母さんが死んでからずっと独りじゃないか。ここにいても、ただいるだけ。彼らの輪の中に入ったわけじゃない。それは同じ空間にいたとしても、ひとりであることとなんら変わらない。


・・・けれど、さっき見た彼らの表情、感情、そしてこの部屋にいる2人を見て、必要とされていないことなどわかっているはずなのに、俺は彼らの傍にいたいと思っている―――?

そんな矛盾した考えをしていると、「くっ」押し殺したような笑い声が前から聞こえた。俺が恐る恐る顔を上げると戒さんは片手で顔を覆い下を向いて笑っていた。


「そっか独りか・・・。もう一度聞くけどお前は主になる気は今んとこないんだな?」


顔を上げて俺を見た戒さんの、また口調や態度の変わった様子に戸惑いながらも、俺は頷いた。


「わかった。じゃあ、主候補としてここに居てもらおうか。それでいいな?」


主候補という立場があるかはわからないが、(というより俺以外に主候補がいるのかも不明)とりあえず俺はもう一度頷く。戸惑った表情でもしていたのか戒さんがニッと笑う。


「俺はこっちが素なんだよ。‘主’の前だったからなぁ。ま、こんな感じでヨロシク」

「あ、はい」


まだ戸惑いつつも返事をした俺に満足そうに頷き、戒さんはあの2人に近づき鉄を外し始める。俺も慌てて手伝う。


「ありがとな」


戒さんが小さく呟いた。俺は何も言わず、手を動かした。

2人を無事に降ろして仰向けに寝かせると今まで見えなかった顔がはっきりと見えた。零斗さんは一夜さんと同じ位の襟足までのストレートな髪で、優しげな雰囲気が目を閉じていてもわかった。その優しげな雰囲気とは別に体格はしっかりとしていて、身長は180強、戒さんと同じ位だろう。年は20代後半に見える。

隣の兇夜さんは髪は肩にかかる位少し癖のある髪をしている。身長は零斗さんとほぼ同じだが、体格もしっかりしているが兇夜さんの方が筋肉がついているように思う。年も変わらないように見える。少しきつめの目元で零斗さんと比べると対照的な雰囲気があった。

兇夜さんは零斗さんよりも重傷だった。


こんなになるまで・・・前の‘主’が?

確証はないが、先ほどの戒さんの話しからすれば前の主がやったのだろうと思う。なんとなく、前の主については聞いてはいけない気がして口に出すことはなかった。

やっぱり主なんていない方が良いんじゃないか。というより、なんで主なんてものがあるんだろう…?

俺がそんなことを考えていると、戒さんが両脇に荷物でも持つかのように持ち上げていた。意識のない大の男2人を軽々と持つ様を見て驚いた俺に、戒さんが「普通の人間とは違うって言っただろ」と笑いながら言った。


2人を地下室から運び上の部屋へと寝かせた後、戒さんは椿さんを呼んできた。

椿さんは驚いた顔をして2人と俺を交互に見たが、すぐに落ち着き素早く2人分の衣類とお湯の入った桶とタオルを持ってきた。それで戒さんと俺は2人の顔などを拭いて服を着せる。椿さんは桶とボロボロの服を持って部屋から出て行く。その時チラッと見えた顔は泣きそうな、けれど安心したような表情が浮かんでいたような気がした。一瞬だったからはっきりとはわからないけど。

2人を見ると、先ほどより落ち着いた表情で眠っているように見えた。

それまで黙っていた戒さんがゆっくりと口を開いた。


「一つ言っとく、いくらお前が主になりたくないと言っても、今の所はお前しか主となる人物はいない。他にいるかといわれると可能性はほとんど0に近いが…。だから残りの呪いを持つ奴らを見つけなきゃならない」

「呪いを持つ者・・・でも、どうやって?」

「べつに歩いて探し回るわけじゃない。それらしい人がいるって情報がある所から入ってくる。お前を迎えに行った奴らの所だ。で、そこに行って確かめ、当りならここに連れてくるってわけだ」

「わかりました。・・・・・もし来たくはないと言ったら?」

「・・・その時は力づくで来てもらうしかないな」

「・・・」

「俺達もなんで集めるかは聞かされてないんだけどな。まぁ、保護とかそんなところだろ」

「そう、ですか」


俺は俯くようにして戒さんから視線を外した。

呪われた人は本人の意思とは関係なく連れてこられる。たしかにここなら他の呪いを持つ人たちもいるし、他の人の目もない。・・・・だけど親しい人や家族とも離される。

せっかく家族がいるのに・・・俺はそんな人たちを連れてこれるのかな?

でも、場所が分かれば定期的に確認とかすれば良いんじゃないかな。うん、一応主候補なんだし、俺なりに頑張ってみよう。それが俺の存在理由といえば大袈裟だけど、ここにいても良いという俺なりの納得の理由として。


「疲れたか?」

「・・・少し」

「まぁ、いきなり他人が自分の所に来て、主だと言われて、俺らに会って、こいつら見れば疲れてもくるか」


言われてみれば、その全てが今日1日いや半日の間に起こったんだ。精神的にはもう何日もたったような気がしていた。


「お前も少し休むか?」

「良いんですか?」


俺はいまだに眠っている2人を見る。


「こいつらなら俺が見ててやる。夕飯時には呼びに行くから、休んどけよ」


そう言われてしまえば、俺に出来ることもないし断る理由もない。疲れていたのも事実なので部屋まで案内してもらい休むことにした。

案内されたのは屋敷の南にある、広く明るい部屋で他の人たちのいた部屋と比べると特別な感じがした。もしかしたら主の部屋なのかもしれない。タンスとか一通りの家具は揃っていた。どれもパッと見はシンプルな物だったけど近くで見て触ってみると手触りも良く光沢もあり高級な物だと思った。

俺はあまり家具には触れないようにして(なんだか汚しちゃいけないと本能的に…)窓の近くの日が当たる畳の上に横になった。そこは思った通りポカポカとしていて、今見てきた冷たい闇など嘘のように俺を暖かく包んでくれた。

俺は思っていたより疲れていたようで、すぐに眠ってしまった。





「なぁ、あいつはなんなんだろうな」


あの部屋で戒が2人に語り掛けるように言った。もちろん眠っている2人から返事はない。


「独りになりたくないんだと。・・・似てると思わないか?」


それでも戒は続ける。


「最後の悪あがきで、俺は少し信じてみたくなったよ。お前らはどうなんだろうな」


今はまだ闇に消えてしまいそうな小さな光が現れた



主人公の口調が定まりません…(汗)

そして、今回は思考部分が多くなりました。

王とか時代いつだよって話ですが、私がファンタジー好きなので例えもそんな感じに…

そんな例えはそんなに出てくることはないと思うので、許してください。

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