言葉
前回が7月だったんですね……
待っていてくれた方……がいるかは分かりませんが、すみませんでしたm(__)m
「・・・・誰かいるの?」
しばらくお手玉をしていると後ろから声がした。俺は手と歌を止めて振り向く。
「えっと・・・七?」
そこには羊の七が驚いた表情で縁側の角からこちらを見ていた。そして俺の隣(というには少し離れている場所)に座っている雪葉を見て、更に驚いた様子で目を見開いた。俺の存在を気にしながらも七は雪葉に声を掛ける。極力俺は見ないようにしているのが分かる。
「雪葉、何してるの?」
「・・・」
雪葉は何も言わずに七そして俺を交互に見る。その表情は戸惑っているように見える。
「・・・俺がお手玉を教えてたんだよ。ね」
雪葉の代わりに俺が説明すると雪葉は少し戸惑った様子だが、小さく頷く。
それを見た七は訝しげに俺をチラッと見てもう一度視線を雪葉に戻す。そして雪葉の様子に安堵したように小さく息を吐く。
「そっか」
「・・・七もやる?」
「・・・・・・え?」
俺からの誘いにたっぷり間を開けた後、七は驚いたように声を出す。もしかしたら、無視されるかもしれないと思った俺は、一応反応した七に調子付いて続ける。
「結構楽しいんだよ?わからないなら俺が教えるしさ・・・どうかな?」
俺がじっと七を見ると七も目線を外さず、俺たちは見つめ合った。どうしたいのか俺の審議を見極めているように感じる。
雪葉もだけど、なんか自分の奥の方まで見られてる感じがするんだよね。
それも仕方ないことなのかもしれない。
悲しいかな、俺も同じだからだ。
相手の感じていること、考えていることを読み取る力は自然と身についてしまった。だから雪葉や七が俺に向ける視線に同じ物を感じてしまうのは。
それは数秒だったかもしれないが、随分長く感じた。先に視線を外したのは七だった。その視線を雪葉に向けたので、俺もつられてそちらを向く。雪葉は七と目が合うと小さく頷いた。それを見ると七は小さな声で遊びます。と言って俺と逆側の雪葉の隣に座った。
それに満足してさっき雪葉に説明したことを七にも同じように説明する。俺が持っていたお手玉を七の膝の上に置く。それでも七はなかなか手を動かさない。すると雪葉が自分のお手玉を投げた。数回投げた後、それは足下に落ちてしまった。縁側から降りるほどではないが、雪葉では届きにくい為お手玉を拾って渡す。怯えたりはしないが、戸惑った様子でお手玉を受け取る。が七は先ほどの雪葉のように驚いて俺たちを見ている。
そんなに驚くことなのかなぁと思うけど、きっとこんな些細なこともこの子達にとっては驚くことなんだろう。
「七もやってごらん。何度だって失敗していいから」
七は驚き、戸惑いながらも右手に一つ持って先ほどの雪葉と同じように恐る恐る投げる。そして雪葉と同じように投げた玉は大きな曲線を描いて地面に落ちてしまった。俺は縁側から降りて玉を拾い七の所に持っていく。さっきの雪葉ほどではないが、困惑した表情でお手玉を受け取る。
「みんな最初からできたわけじゃないから、沢山失敗して、沢山やればいいんだよ」
「・・・・・・・はい」
そこで気がつく。先ほど雪葉へ声を掛けた際は敬語ではなかった。しかし俺には敬語で返事をしている。年上に対し敬語で話すことも大切ではあるけど、なんだか距離を感じる。零斗さんのように癖というならまだ分かるが。
「敬語で話すのって疲れない?」
俺の言葉に七は初め何を言われたのか分からない様子でポカンと俺を見ていたが、すぐに否定する。
「別に、疲れません」
「でも雪葉には普通に話してたし、俺に対して敬語で話す必要はないよ」
俺がそう言えば、七はどうしたら良いのか分からないといった様子が見て取れた。俺は特に何を言うでもなく七を見ていれば、俺がそれ以上何も言わないのを見て観念したのか戸惑いながらも頷いてくれた。
俺は先ほど座っていた所まで戻ると、そういえばと思い出し顔を二人の方に向ける。
「今更なんだけど、雪葉と七って呼んでもいいかな?」
本当に今更だったが、俺が確認するように聞くと二人は不思議なものでも見るかのように俺を見た後、こくんと揃って頷いた。俺が良かったというのを見て、なんとも言えない顔をしていたが持っていたお手玉を思い出さし。小さく投げ始める。俺はそれに合わせるようにゆっくりと歌い出す。
「泣いてるあの子にお手玉ひとつ、笑てるあの子にもお手玉ひとつ」
二個のお手玉が二人の手により、へ投げられては手元に落ちてくる。雪葉と七は紅の歌声を聞きながら、それを繰り返した。
どれだけそうしていたのだろう。
実はお手玉はまだあるのだと途中で思い出したように言った七がどこかに消え、すぐに新しいお手玉をいくつか持ってきた。俺も二個手に取って投げていた。
気づけば雪葉も七もお手玉を二個使って、右手から左手へと回すように投げようとして苦戦している。その間は俺の歌うあまり上手くない歌と、時折俺が話し掛ける声に七が返事をするだけで、雪葉は頷くが声に出すことはなかった。
横目二人の様子を見ていたその時、雪葉の投げた玉が右手から左手へ、左手から右手へ続けて行うことが出来た。二回続けようとして玉は膝の上に落ちてしまった。けれど、俺は自分のことのように嬉しくなった。
「できたね!雪葉!」
俺は嬉しくなって思わず雪葉の頭を撫でてしまった。雪葉も二回目とあってか、驚きながらも頬を少し赤くして頷いた。「凄い凄い」と俺や七が少し興奮して言うが雪葉はその間も何も言わない。そこで少し気になっていたことを聞いてみた。
「雪葉って話しをするのは、あまり好きじゃない?」
思えばまだ一言も声を聞いていない。
そう思って言ったが、雪葉は無表情ながらも頬を赤くしていた顔を下にしてしまい、俺からは見えなくなってしまう。そのまま何も言わない雪葉に代わり、七が話してくれる。
「・・・・雪葉は喋れないわけじゃないんだけど、人見知りが激しいところがあって、僕たちの前でもあんまり喋らない、から・・・」
七の話にそれだけじゃない気もしたけど、今それ以上突っ込んで聞く必要もないと思い、それには触れなかった。俺は七から雪葉に視線を向ける。
「じゃあ俺は、雪葉が話す時を楽しみに待ってるね。あ、もちろんすぐにってわけじゃなくて」
俺が雪葉に気長に待つことを伝えようとした時、荒々しい足音が渡り廊下の方から聞こえた。俺は驚いて振り向くのと足音と同様荒々しい声が聞こえたのは同時だった。
「何してるっ!!!」
そこには怒りを隠さず俺を睨んでくる辰の港がいた。
俺はその鋭い眼差しに言葉も無く港を見ていると、彼は勢いそのままで近づいてきて俺を通り過ぎ雪葉を片腕で抱きかかえ、もう片方の手で七の手を引いて立たせる。雪葉も七も反抗せずにいるが、俺と港を交互に見ていた。
俺はこの時、調子に乗りすぎていたことを知った。そして思い出した。
戒さんが笑顔を見せてくれたから
零斗さん、兇夜さんをあの場から救えたと思ったから
雪葉と七とお手玉で一緒に遊んだから
だから、勘違いしてしまった。
俺は受け入れられていると
ここに居て、みんなと一緒に居て、良いんだと
自分に都合の良いことばかり
俺は雪葉と七に笑って手を振った。
正直ちゃんと笑えたかは分からない。
でも、少しでも安心してもらえたらという一心で、情けない顔になりそうなのを必死に堪えて笑う。
寂しくないと言えば嘘になるけど、仕方がないんだ。
でも、もし、叶うことなら
また・・・遊びたいな。
雪葉と七は俺が手を振ると驚いていたが、七は戸惑いながらも小さく手を振ってくれた。雪葉は港に手を器用に抑えられていた為、七と同じようにすることは出来ない。すると
「・・・またね!」
大きくはないけれど、透き通った綺麗な声で雪葉はそう言った。それは俺が初めて聞いた雪葉の声だった。
港は進めようとした足を止め驚いた表情で雪葉を見た。七も同様に見ている。
「また、ね」
俺は驚きながらもなんとか声を振り絞り返事をする。俺の声に港はハッとして止めていた足を動かす。三人の姿はすぐに見えなくなった。
俺は三人が去った方をしばらく見てから、手に持っていたお手玉を投げ始める。それはさっきとは違い楽しいものではなかったけれど
手を振ってくれた。
またって言ってくれた。
七が、雪葉が。
寂しくないわけじゃない、けど寂しいだけでもない。
笑うことは出来なかった。
頭の中はまだグチャグチャで、勘違いしていたことに羞恥心もあるけど
それでも、さっき一緒に過ごした時間は無駄じゃなかった
あの二人にとってもそうだと良いと思った。
「・・・いいか七、雪葉。あいつには関わるなよ」
二人はそれに何も言わない。
「候補だかなんだか知らないけどな、あいつは・・・‘主’なんだ」
最後の主という言葉に二人は反応するが、それでも何も言わなかった。それは肯定とも否定ともとれたが、港もそれ以上何も言わなかった。
闇の中に光を見た気がする
それは暖かく 優しい
悲しいわけではないのに 涙が出そう
だらだらと長くなってしまいました。