呪いと主
第一話なので、説明が多くなりましたが、設定だと思って軽く読んでいただければと思います。
これは十四の獣と一人の少年の物語
始まりは一人の母親の死だった。
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「母さん!俺を置いていかないで!!俺を一人にしないで!!!」
俺は叫んだ。今まで出したことの無い大声で叫んだ。その時、俺はただただ
独りになりたくなかった――――
「大丈夫。あなたは独りなんかじゃないから。あなたには・・・」
「っ母さん!!」
その日、俺は独りになった。
俺の母さんは妾、つまり愛人だったらしい。何処の誰かは教えてくれなかった、最近ではそのことも気にしなくなった。けれど、そんな俺達は町では嫌われていた。
突然、赤ん坊を連れた若い女が一人で来たのだ、噂も立てられる。でも母さんは愛人だということを言い回ったり、かといって隠したりもしなかった。
俺は愛人の子ということで大人はもちろん同年代の子供にも嫌われた。表立って何かされたりすることは少なかったけれど、俺達が歩いているといつも視線を感じた。
でも、俺は不幸だなんて思わなかった。いつも母さんがいて愛してくれた。父が誰かは言わなかったが、いつも母さんは言っていた。あなたは母さんと父さんに愛されて生まれてきたのだと、あの人は本当に私とあなたを愛しているのだと。俺は、だったらなんで父がここにはいないんだろう、とも思ったが母さんが俺を愛していることは本当だから俺はそれで良かった。
でも母さんは死んでしまった。17年間もたった一人で俺を育てるために頑張ってくれた。俺は中学を卒業してから働いた。母さんは高校に行ってほしかったみたいだけど、母さん一人にはもう苦労を掛けたくなかった。母さんはあなたがやりたいようにやりなさいって言ってくれた。
まだ未成年の俺はアルバイトを何個か掛け持ちしてこの2年、過ごした。母さんがいて俺がいてそれだけで俺は幸せだったんだ。
・・・本当に幸せだったんだ。
「これから、どうしよ」
ポツリと呟いた声は、俺しかいない狭いアパートの部屋に消えた。
そういえば、母さんは最期に何を言いたかったんだろう・・・。
『あなたには・・・』
俺には?俺には何があるんだろう・・・。
コンコン
誰だ?今までこの部屋に来たのは押し売りくらいだ。
・・・・無視してしまおうか。
俺はそのまま動かずにいた。
「あなたに用があるのです。」
しばらく経ってドアの外にいる人が喋った。声からするに男のようだが。
「あなたです。紅様」
俺は思わず玄関の方を向いた。
なんで俺の名前・・・それに紅「様」って一体・・・
「いろいろとお話しすることがあるのです。・・・あなたの父親のことなど」
父親・・・今更知りたいとも思わなかったけど、母さんが死んで一人になった俺の手はドアを開けていた。ドアの前には黒服、サングラス、頬には傷痕の男・・・・ドアを開けたのは間違いだったかもしれない。俺は後悔したが、開けてしまったものは仕方ない、最低限の物しか無い部屋へ男をあげた。
「早速ですが、『呪い』について知っていますね?」
男は俺の前に正座したかと思うとそう話出した。
『呪い』・・・それはおとぎ話や伝説ではなく、この日本にある現実だ。
「はい、俺は実際見たことはありませんが」
呪いについては小学校の時から集会などで聞かされ続けた。
それはある日突然来るらしい、血や環境に関係無く次の瞬間には『呪われて』しまうという。その事は本人にはすぐにわかるらしい、周りも少しずつ変化に気付いていく。
呪われた者は成長が遅くなり、中には数百年という長い年月を生きる者もいるらしい。
「あなたは‘主’なんです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今目の前の男は何と言った?主?誰が?俺が・・・・
「っえ・・・・どうして!なんでっ!!」
俺は混乱しながらも、呪いと同様に聞かされた主の話しを思い出していた。
主とは呪われた者たちにとっての絶対者、管理者など様々な言い方があるがどう表現しても、呪われた者たちにとっては逆らえない人物であるといわれている。
もちろん俺が主ということだけでも驚きなのだが、俺が一番驚いた原因は主の出生に関係している。
それは、主だけは「ある家系」からしか生まれないということだ。そして、もう一つ。
「あなたの父親は主の家系の人なのです。」
男は混乱する俺に静かに言った。
「でも!その家系からは女子しか生まれず、主も女がなるものだって!」
俺は男だ。確かに身長は170ない位で、体はいくら鍛えようとも筋肉が付かないからヒョロッとしていて、顔だって母さんに似て厳つさとは無縁だけど!!どこから見ても男だろ!
ただ混乱するしかない俺に対し男はただ説明するように静かに話し出した。
今から少し前に主が生まれるとされる家で、双子の赤ん坊が生まれた。今までにも双子は生まれてきたがどちらも女だった。しかしその双子は片方が男だった。本来どのような仕組みなのかその家には女しか生まれないはずだった。しかし、実際に男が生まれてきてしまった。父と母はとりあえず主となる女の子が生まれたのだからと特に気にはしなかった。しかし女の子は死んでしまった。事故だった。その当時関係のある者たちの混乱と絶望は大きかったという。主となる者が死んでしまっただけではなく、両親も一緒に死んでしまったからだ。そして残ったのはあの男の子だけ。
「・・・もしかして」
「はい、その男の子があなたの父親となる方です」
周りはとりあえず血を引いているのだから、この子が駄目でも子供は主になるに違いないと思い、男が18の時に連れて来た女と結婚させた。そして女の子が生まれた。周りはとても喜んだが夫婦の仲は良くなかった、もともと子供を生ませるために結婚させられたのだ、上手くいくはずが無い。
そんな時、男はある女に会った。自分の家で働いている者だった。二人はそれが運命だったように惹かれあった。
祝福などあるはずも無い、加えてあの女がいた。女はただ子供を産ませるためだけに連れて来られた。
女の子が生まれてしまった今、新しく妻が出来たら自分は・・・・。女は彼女を追い出そうとしたが彼女はその時には身篭っていた。周りはもしかしたらこっちの子が主かもしれないと考え出した。女はますます焦ったが、男や周り目があり何も出来ないまま子どもが生まれた。
子どもは男の子だった。周りは落胆し女は喜んだ。男はなんとか守っていたが、ある日ついに女は彼女と子供を家から追い出すことに成功した。殺される勢いで追われた親子はなんとか逃げ切ることができたが、女の恐ろしさにもう一度家に戻ることは出来なかった。
「・・・それが俺たちだって?」
「はい、それからはことは紅様の方が詳しいかと」
男がこれまでの経由を話し終えたが俺は未だに混乱していた。
「・・・俺の、父親が誰で、特殊なんだってことはわかりました。でも、それと俺が主なのとどんな関係があるんですか?」
それにその女の子が居るじゃないか、その子が主になったんじゃないのか?
「紅様が言いたいことはわかります。・・・公にはされていないのですが、主になられる方は左手に模様が浮かんでくるのです。先の子供にそれは現れなかった。・・・・その左手の模様ですよ。」
俺はとっさに右手で左手を隠すように握る。
今は服の袖に隠れているそこには16歳の頃から浮かんできた痣のようなものがあった。
これが主の・・・
それは二本のうねった黒い線の間に黒い三つの欠片がある模様だった。
痛みなどはなく俺自身は気にしていなかったが、母さんがそれを見たとき少し驚いて「これを他の人に見せてはいけない」と言われ、それ以降は左手の甲を隠すような服を着たりして隠していた。
「とりあえず、私と一緒に来ていただきます。」
そう言うと男は立ち上がり玄関へと歩き出した。
「ちょ、ちょっと待って、行くってどこへ?」
俺は慌てて聞いた。なんとなく予想は出来るけど。
「もちろん、主の屋敷にですが。」
やっぱり・・・
「でも、そこには母さんを追い出した女の人もいるんじゃ・・・」
正直言うと、女も恐かったが実際は顔も分からない「父親」に会うのが怖かった。その人が本当に母さんを・・・俺を、愛していたのかはわからないけれど、今会ってもどうしていいかわからない・・・。
「あの方でしたら、数年前に事故で亡くなりました。その時、あなたの父も・・・」
ほっとしたと言うと不謹慎かもしれないが、俺は安心した。
どうするか迷ったが結局、俺は男に付いていくことにした。母さんと暮らした場所を離れるのは躊躇ったが、少なくともそこに行けば独ではないと思った。
屋敷へ向かう車の中で男について簡単に説明された。
公にはされていないが、日本には主達を支援する者たちがいるらしい。男もそこに所属する者らしく、上からの指示で俺の所に来たと言う。主の屋敷というのは日本にいくつかあり、今は山の中にある屋敷を使っているということで車は山道を進んだ。
「すごい・・・。」
俺は意識せずに呟いていた。
そこには、歴史の授業でしか見たことのない日本家屋が建っていた。
なんて説明したらいいんだろう。一階建ての立派な屋敷だ。随分昔からあるような雰囲気があるのに、朽ちている様子は全くない。手入れが行き届いてる。こんな大きな屋敷、掃除するのも大変そうだ。いったい何部屋あるんだろう。
「こちらです。」
男はすでに玄関の前に立ち俺を待っていた。
もう後には退けない
読んでいただき、ありがとうございました。
少しずつ続きも上げていきたいと思います。
亀より速くウサギより遅いペースで頑張っていきます!