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「碧の翼」  作者: zonezumi
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「碧の翼」1日目:出会い1/2

 ギラギラと容赦なく照りつける黒い太陽の下には、どこまでも広がる干上がりひび割れた土地、砂の一粒まで乾ききった砂漠。そして、大気までもが水分を寄せ付けないでいた。その大地を一人の少年がボードで颯爽と滑っていた。頭から首にかけて分厚い布で顔を覆い、目にはゴーグルをかけている。生成りの長袖のシャツの上から手首まである分厚い手袋を身に着け、ゆったりとしたシルエットのズボン、そして使い込まれたブーツを履いている。こんなに暑い環境で、ここまで着込んでいるのには理由がある。それは、少しでも肌を太陽にさらすと火傷をしてしまうためだ。この国に住む人たちは絶対に肌をさらすことはしない。肌を太陽の下に出すということ、イコール、死、を表している。

 彼は、勢いよく右足でアクセルペダルを押すとエンジン音とともに一気に砂が舞い、加速していく。左足で梶の操作をすると大地からゆっくりと浮き上がった。

ボードの下に手をのばしスイッチを押すとキャラキャラという音と共に何枚もの鉄の羽を組み合わせたような翼がでてきた。ボードにピタリと体を這わせ、次は手でアクセルペダルをもう一度強く押すと砂を巻き上げながら飛んだ。

 後方には、一際目立つ塔のように高くそびえ立つ巨大なビルを中心に、冷たいコンクリートでできた家があった。まるで、岩が無造作に転がっているようだ。巨大なビルは、表向きは様々な企業が入る建物となっているが、本当は、国の極秘実験支援総合研究センターである。この国のすべての知識の集合体であり、様々な実験や研究が行われている施設である。

 そして前方に広がる砂漠の中に、ぽつんと異質な緑があった。まるでそこだけ世界から切り離されているかのような”最後”の『森』があった。

 この星には、三つの世界が殆ど干渉をせず、だが、それぞれの世界の存在だけは知りつつ独立してあった。三つのどの世界も高度な文明が発達し、それと同時に自然が崩壊していった。残念なことに三つの世界の中のただ一つの世界だけしか自然が残っていなかった。しかも、その自然と呼ばれるものがこの森だけなのだ。

 少年は森の近くまで来ると翼を閉じ、下降しはじめた。体を起こし、慣れた足さばきでアクセルペダルと梶を操作し地面に近づいていく。ボードが砂地につき、サーと音をたてた。砂漠と森の境界線まで来ると、ボードを軽く蹴りあげるようにして垂直に立てる。ボードの先端にある小さな金具を引っ張ると金属音をたて、あっという間に鉛筆のような棒になった。少年の首にかかったチェーンに引っ掛けると、軽い足取りで森の中へと入っていった。


 少年は、木々の枝々を慣れた足取りで軽く蹴りとばしながら、目にも止まらぬ速さで走る。走りながら、顔を覆う邪魔な布とゴーグルをとると、現われたのは眩しいほどにきらめく銀だった。短い髪も切れ長な瞳も見事な銀色だ。少年にとってこの『森』は家のようなもので、どこに何があるのか全て把握していた。『森』もまた、少年の全てを知っていた。少年が足や手を伸ばせば、木々や風がそれに応じるかのように枝が伸び、風が吹くのだ。そう、少年は普通の人にはない能力を持っていた。この星に生きるモノ全ての声を聞く事ができた。動植物の声はもちろん、風の声まで。

 この能力を『聴手(キシュ)』と周りの人々は言う。

 この能力を持っているのは彼、ただ一人。

 少年は、ふと枝の上で足を止めた。唇に人差し指をあてる。コロコロと笑うように吹いていた風や楽しそうに声を震わす鳥たちが音をとめる。


――……っ――


 木々の合間から聞こえてきた声は、微かではあるがどこか苦しそうな声だった。


――…う…っく――


 好奇心に身を任せ、声のする方へ近付いていく。泣いているのだろうか、声とともに鼻をすする音も聞こえる。枝に手を掛け地面に降りると木の根元でうずくまる少女がいた。体を震わせながら泣いていたが、そんなのことよりも、驚きで少年は思わず息を飲んだ。少女の背中には鮮やかな碧の翼があったのだ。少年は近づこうとして足を動かすとガサッと思っていたよりも大きな音がなった。少女はその音に驚き勢いよく立ち上がり振り返ろうとしたが、立ち上がりきる前に木の枝におもいっきり頭をぶつけた。ゴーンとまるで鐘のように森の隅々まで鳴り響く。何とも言えない空気が流れ、その空気に耐え切れなくなった少年がぶっと吹き出した。


「っ、笑うな!人間ッ!」


 肩で切りそろえてある白い髪をさらりとなびかせながら振り返り叫ぶ少女は、金色の瞳だった。だが、少年はその叫びも気にせず腹を抱え本格的に笑い始めた。少女もつられてくくっと笑いだした。


「っあー、久しぶりに笑った!」


 少年はそういうと、少女に再び近づき、隣に座った。


「俺は、(ぎん)


「そのままじゃない」


 少し意地悪く口角をあげる。


「…まあ、ね」


 銀、という名前は本名ではない。周りから呼ばれているコードネームのようなものだ。本当の名は彼自身も忘れてしまった。


「君は?」


 銀は、ぽんっと隣を叩き座るように誘う。


風莉(ふうり)


 早口でそう答えると、銀との間を一人分くらいあけ座る。


「風莉は、天ノ人、だよね?」


「そうよ。何でここにいるか聞きたいんでしょ?まあ、一つしかないけど」


 風莉は瞳から涙がこぼれないように上を向き、震える声を押さえながらいう。


「追放された」


 現実を否が応でも叩きつけられたような気分。いや、気分などではない、これが事実なのだ。


「碧の翼を持って生まれたから。天ノ人なのにね」


 風莉の背中にある美しい碧は、天ノ国では排除すべきものであった。天ノ人は普通、白い翼なのだ。碧の翼は異質。地ノ人の化身だと言われ、追放されたのだ。地ノ人とは天ノ人とは正反対の黒い翼を持っている。天ノ人は執拗に地ノ人を嫌っていた。そのため、一般的な天ノ人では持ちえないものを持っている者、例えば、肌の色や目の色、特殊能力など、一つでもその条件に当てはまれば天ノ国から追放されるのだ。政府に見つかるまでは、小さな村にひっそりと家族仲良く暮らしていたのだが、ある時村以外の人に姿を見られ今に至る。

 ぐっと瞼を閉じ、涙をしまい込む。涙声を隠すように明るい声で言う。


「それにしてもすごい術ね。人ノ国でも魔術が使えたなんて知らなかった」


 風莉は、手のひらで草をなで、その柔らかな感触を楽しむ。なんて心休まる感触なのだろう。銀は、思考をめぐらすが話の筋が見えない。


「なんのこと?」


「この森。術で見せてる幻覚でしょ」


「本物だよ」


「なにそれ、笑える」


「この星の最後の『森』」


 銀は風莉の手の上に自分の手を重ねる。


読んでいただき、ありがとうございます!

だいぶ前に書いていたものを書き直してみました。

どうでしょう…?

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