ラディンとフルータの戦場 21
それを見たラダヴィッツ王国の兵士達は、顔を青ざめさせた。
「魔術師がやってくるのが間に合ってよかった……」
つい先日、魔術師がやってきた。魔術師達は、プライドが高く傲岸不遜な者が多い。その魔術師達のご機嫌を取るために、サリルの作ったお菓子やフルータの食事は、一役かってくれた。
「菓子を作るってのも、捨てたものじゃ無いと思いませんか?」
魔術師達のご機嫌を取った、サリルが、サーファスに向けて、言った言葉だ。
「あの二人も……平和な時代であれば……」
サーファス自身も、二人の結婚に反対する事はなかった。この戦いは長期化をする。そして、いずれかは、グラセランド軍はラダヴィッツ軍に倒される。
その時間を、少しでも長引かせるのが、サーファスの仕事だ。時間を稼げば、もしかしたら政略的に、この戦争を止める事もできるかもしれない。
そこにいたっては王宮にいる王族たちの仕事だ。
その思考を巡らせるのをやめたサーファスは、敵軍の侵攻の様子を見た。
「そろそろだ……第一時後退! 作戦ポイントに配置せよ!」
サーファスはそう言うと、駐屯地の奥に向けて走っていった。他の部下たちもそれを追っていく。
「第一次後退の指示が出たぞ! すぐにでも逃げろ!」
ラディンが、この非常事態になってもいまだに何かを作っているフルータに声をかけた。
「ああ! すぐにでも逃げるさ! これが終わったら!」
フルータは、後方支援の担当だ。敵の襲撃があった時点で、逃がされるはずである。
「アディセはとっくに逃げているぞ! お前は何をグズグズしている!」
そう叫ぶラディンだが、フルータは、自分が料理を作っている鍋から、掬って中身の味見をした。
口の中に入れたものはすぐ近くの洗面台に吐き出す。
「これで上等! レイティ! サリル! 二人共逃げるよ!」
フルータが言うと、大急ぎで、荷物をまとめ出すレイティとサリル。
「それじゃ、お先!」
そう言うとフルータは脱兎のようにして逃げていく。
「一人だけズルいよ!」
「こんなに薄情だとは思いませんでしたよ!」
レイティとサリルは、荷物を抱えてフルータを追っていく。
「一体、何を作ったんだ……?」
ラディンは厨房のテントの中に入って、フルータが見ていた鍋を覗き込んだ。
「普通のシチューにしか見えないが……」
おたまで中身をかき混ぜたラディン。
『そういえば……具が少ないか?』
そう思って、一口シチューを口に含んでみた。
『これは……』
ラディンは、近くの洗面台に向けて、口に含んだシチューを吐き出した。
「外に設置されているトイレの意味がわかったぞ……」
そうしてラディンは、前線にまで戻っていった。




