アディラの戦い 5
16部 アディラは君のために
「今までどこに行っていた?」
アディラが駐屯地に戻ると、アディラのテントの前で、アディラの事を待っていたファラリスが言った。
「どこだっていいだろう?」
そう言うアディラ。テントの幕を開けようとしているところ、ファラリルがアディラの手を取って止めた。
「敵の駐屯地か?」
アディラは驚いた顔をするのをぐっ……と、堪えた。誰かに見られていたのだろうか? なぜファラリスには分かったのだろうか?
「そんな危険なところに行くはずがないだろう……」
アディラはそう言う。ファラリスは、それに被せるようにして言った。
「ダウカという老兵に聞いたのだ。お前が、敵の本拠地に乗り込んで行ったのだと」
ファラリスはジトリとした目でアディラを見た。ファラリスは、それから続ける。
「炊事兵人一人の事など、放っておけばいいだろう? 炊事兵に命を狙われるわけでもないだろうし?」
「その一人が問題なんだ……」
アディラが言う。だが、その炊事兵一人が、どれだけ重要か? それを、ファラリスに話したところで、理解をしてもらえないだろう。そう思って、アディラは話を切り上げようとした。
「待て! 兵站の重要性くらい、私は理解している!」
テントの中に入ろうとしたアディラにしがみついたファラリス。
「こんな所まで連れてきた私が言うのも、おかしな話だが……」
アディラの首に腕を回し、アディラの耳元で言う。
「危険な事はするな……」
いきなり、震えるような声になったファラリスの言葉。それを聞いたアディラは、周囲を見回した。
「中に入ろう……」
そう言い、アディラは、ファラリスをテントの中に導いた。
「部隊は、もう撤退したほうがいいかもしれない……」
アディラは、そう言った。
「また……それを言うか……」
ファラリスの反応は、アディラの想像とは全く違った。何か諦めたような顔をしている。
「お前……これを言うと、怒ると思っていたのに……」
そうアディラが言うと、ファラリスは冷めた顔をして答える。
「こう、何度も聞かされてはな……それに、お前の考えを、一度も聞いていなかったし……」
ファラリスが言う。まだ、アディラの言葉には半信半疑といった様子だ。
「わかるように説明をしてくれ。その炊事兵が、どれだけ問題なのだ?」
アディラは、説明をした。今の時代の戦争は、兵の勢いが何より重要だ。その戦闘のさいに勢いを出すのに必要なのが兵士達のモチベーションである。
「そうだな……我がラダヴィッツ帝国に対する愛国心と、領地拡大の野望を持つ臣民達の心があれば、たとえ、どのような障害があろうとも、必ず勝てるはずだ」
「だから、その精神論が、問題なんだ」
気持ちさえあれば、勝てるなどという戯言を、この時代になっても言い続けている。




