ラディンの場合 4
少し歩いたところ、ラディンとレナードは使用人達のスペースにまで向かった。
「ここは巡回ルートには入らないんじゃないか?」
不思議に思って、レナードに聞くラディン。
「なんだい? 君はこういうのは嫌いかい?」
いきなり肩を組んできたレナード。何の事を言っているのか、全くわかっていないラディンは不思議そうな顔をしたままだった。
そこに、レナードはラディンの耳に、そっ……と囁きかけた。
「ここはメイドがいっぱいいるスペースだよ。仕事の合間に目の保養をする事も必要じゃないか?」
そう言うと、レナードは、前を指さした。
「あの子……ボクはあの子がすっごくかわいいって思っているんだけど、キミはどう思う?」
そう言うレナード。前には、洗濯物を抱えたメイドが一人歩いていた。
「確かにかわいい……」
そう、素直に言うラディン。だが、ラディンには、そんな事はまったく興味がない。
もし可愛いメイドの女の子と、ブスで高飛車な名家の女の子のどちらを取るか? などと聞かれたら、間違いなく自分は、名家の令嬢を取るだろう。
使用人一人が可愛かったり、美人だったりしたところで、自分には何も関係のない事であると、ラディンは思う。
「なんか、薄い反応だな。あの子の事はボクが取っちゃってもいいのかい?」
「全然問題ない……」
さらに、興味のないような返答をするラディンに、レナードは口を尖らせて言う。
「なんだい……興味がないんだったらいいさ。もうキミをこんな所には連れてこないからね」
『しまった……興味がなくても少しは話に乗るべきだったか……』
レナードの様子を見て、そう後悔をしたラディン。
『そうだな……何か話題でも振らないと……』
そう思ったラディンは、この一角で洗濯をしている女の子が目にとまった。
「あの子はなんで、こんなところで仕事をしているんだ?」
親衛隊に支給をされる制服を着た女の子がいた。
「親衛隊に、女なんていたのか?」
ラディンが不思議そうに言うと、レナードは話しだした。
「親衛隊ってのは、王侯貴族達の護衛が主な任務だろう? 王侯貴族の中には若い女の子だっているわけだ……」
レナードは続ける。そういった気難しい女の子の護衛をするのには、男の騎士では、不都合な事が多い。だから、そういった、女の子の護衛をするための女子の騎士が何人か必要なのであるという。
「それで、彼女がなんでこんな所で洗濯をしているのかというと……簡単に言えばイジメだ……」
彼女の家は、有名な騎士の家系なのだという。
「有名な騎士の……」
レナードがそう言うのに反応したラディン。それを聞いたレナードは顔をしかめた。
「続けるよ」
レナードが話を続ける。
あの子も、親衛隊の一員であり、今の隊長の部下の一人であるのだ。
隊長は、あの子の事をとてもよく気に入り、口説き始めたのだ。だが、あの子は隊長になびく素振りを見せなかった。
それに腹を立てた隊長は、彼女に『ゴミ捨て』や『洗濯』などの雑事を押し付ける。
それに、しぶしぶ従う彼女。仕事が終わったら、また隊長は彼女に言いより、彼女はそれを拒絶する。
「その繰り返しだ。いま、彼女がしている洗濯だって、隊長の下着とか、汚れた服とか……」
今のこの国には、そのような言葉が存在しないが、今現在の日本で言う『セクハラ』をしているという事だ。
「彼女には近づかないほうがいいよ。巻き添えを食うかも知れないからね……」
そう言い、レナードは彼女に背を向けていった。
ラディンは少し考えるようにして顎をさすり、少しだけ彼女の事を見つめたが、やはり、レナードと同じようにして彼女に背を向けたのだ。




